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マドリン家との交渉

「レオン殿下と私はL&E商会という商社を営んでいるのですが、このたび女性向けの雑貨を販売する予定ですの」


 私はさっき作ったばかりの傘を開いた。


 真っ白な絹に、露先に輝く16個ものアクアマリン。私はくるりと傘を回してみせる。

 アクアマリンがキラキラ揺れて、本当に素敵!


「アクアマリンはシンリックの湖水をイメージしております」


 皆の目は釘付け、息を呑む音さえ聞こえそう。

 うん、これは売れますね。


「まぁ素敵」


 リース様がほぅっとため息交じりに言った。


「リース様、是非持ってみてくださいませ」


 私はリースに日傘を手渡す。

 リースはゆらゆら揺れるアクアマリンを見上げていた。もうその横顔の美しさったらない。


「そして、販促用ポスターのモデルとしてリース様を雇いたいんですの」


 一同はぎょっとした顔をする。

 というか、レオンまでそんなに驚いた顔をしないでください。今朝販促用ポスターの見本を見せたではありませんか。そこには候補者としてリース様のお名前をメモしてありましたよ!


「モ、モデルだなんて無理だ!」


 公爵が声を上げる。


「なぜでしょうか?」


「リースは散歩に出掛けただけで熱を出すのだぞ?!部屋で座っているか、寝ているか、そのくらいの生活でなければならん。モデルなどとても!」

「ぴったりではございませんか」


 私はポスターのラフ画を2枚広げてみせた。


 1枚目は湖畔に佇み傘を持つ女性のバストアップ。

 キャッチフレーズは「シンリックには妖精がいる」


「リース様は屋内にて座った状態で絵を描かせていただければ十分です。背景は後ほど入れれば良いだけですので」

「私が妖精だなんて、恥ずかしいですわ」


 リースは顔を赤らめた。


「そんなことございません。実は初めてリース様にお会いした時にこの日傘のアイデアを思いつきましたの。シンリック湖のきらめく水面をバックに、白い日傘を持たれたリース様が印象的で」

「そのようなことをおっしゃっていただけるなんて……」


 リースは恥ずかしそうに傘で顔を隠した。


「ちなみに2枚目は横になったまま絵を描かせていただきますので身体的な負担はございません」


 2枚目は草の上で眠っている女性の顔に影を落とすように日傘を差し出す男性の手。

 キャッチフレーズは「シンリックには妖精がいた」

 このキャッチフレーズはあえて男性目線のものにしてある。

 女性へのプレゼントとして男性客を取り込むのが狙いだ。


「リース様、いかがでしょうか?」

「この素敵な日傘に釣り合うとは思えませんが、是非やってみたいです」

「ありがとうございます」


 私は淑女の礼をする。


「では報酬ですが、モデル料としてこれだけお支払いいたします」


 私は公爵家が1年に使うであろう予算を提示した。


「こ、こんなに?!」

「それから、マージンとして毎月売上の2%をお渡しいたします」


「だ、だが、それだけではリースの一生など到底賄えないではないか!」

「そうですね。ですがこれからジュエリーを中心にシリーズ展開をする予定です。その都度モデルをしていただければ、その金額も上乗せに」


「このような素敵な作品が他にも?」


 リース様はすっかりアクアマリンの虜になったみたいだった。


「ネックレス、イヤリング、指輪、髪留め、ブローチ、カフス。次々に出せば報酬は一気に跳ね上がりますわ。ジュエリーは単価も上がりますので、マージンも上がります」

「う、うーむ。でも上手くいくのだろうか。心もとないような」

「それでは、マドリン公爵家が所有する、シンリックの屋敷を売ってくださいませ」

「な、なに?!あれを手にするのに一体いくらしたと!」


 公爵は汗をだらだら流している。公爵夫人はもう話についていくのを放棄したかのようにぽかんとしていた。


「倍額で買い取りますわ」

「ば、倍だと?!」

「えぇ。そうすればかなり余裕ができるかと存じます」

「そんな金額で買い取って、どうするつもりなんだ」

「ふふ、それは企業秘密ですわ」


 あぁ、これはあとでレオンにきちんと説明せねばなりませんね。


「お父様、お母様。私はエレノア様の案に賛成ですわ。今まで迷惑しか掛けなかった私が、自分で財を生み出すなんて奇跡です」

「迷惑などと、思っていない」


 公爵は首を振る。


「ですがこの身体では殿方に嫁ぐことも難しいのです。それはレオン殿下とて同じこと。でしたら自分の行く末は自分で責任を持たねばなりません」

「リース……」

「それにこの傘もポスターも、とても素晴らしいではありませんか。私で良ければお手伝いさせてくださいませ」


「もちろんですわ。私たち、良きパートナーになれると思っておりましたの」

「ふふ、よろしくお願いいたしますね」




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