エレノアの思惑
「お待たせいたしました」
食堂には既にうんざりしたレオンと、興奮で顔を火照らせたマドリン公爵夫妻がいた。
「エレノア殿、早速リースがお世話になりましたな!何か不手際はありませんでしたか?」
公爵は鼻を膨らませて言った。
「不手際だなんてとんでもございません。リース様は可憐で謙虚で、それでいて公爵令嬢としての立場をよく理解されている素晴らしい女性ですわね」
「まぁ!そんなにお褒めいただくなんて!上手くやっていけそうかしら?」
公爵夫人は私の褒め言葉に感極まっているようだった。
「えぇ、私は良きパートナーになれるのではと思っておりますわ」
「聞きましたかな殿下!エレノア殿は懐深く、リースを受け入れてくださるそうですぞ!反対しているのは殿下だけです」
レオンは恨めしそうな目で私を見る。
とても心外なのですが。
「だが断らせてもらうぞ。これは僕個人の問題だ」
レオンは子どもみたいに拗ねた顔をした。
「殿下が以前仰っていた問題は解決したではありませんか!母君は公妃となり、レオン殿下は王位継承順位2位になった。もはや出生や立場を理由に断るなどさせませぬぞ」
「もうその件はいいのですよ。僕はエレノアを愛してしまったのです。他の女性を娶るなど考えられぬほどに」
レオンはわざとらしく大きい声で言い、横目で私の顔を盗み見る。
全くさっきから面倒くさい人ですね!
「それならリースが側室でも構いません。身分で言えばエレノア殿が側室となるべきだが、この際リースの面倒を見てもらえるならそれでも!」
「いい加減にしてください、そろそろ怒りますよ」
レオンは公爵に怒っているのか、私の悠長な態度に怒っているのか、怒りのベクトルをあちこちに飛ばしているみたいだった。
「夫に悪気はないのですわ。リースは私たちが年をとってから出来た、たった一人の娘なのです。最近では資金も先細り、この先病弱なリースの行く末が心配でたまらないのです」
公爵夫人は泣き落としに掛かる。
「そうは言ってもですね」
「お願いです殿下。シンリックで再会したのも何かの縁、どうか温情を」
レオンは頭を抱えたあと、じとっとした目でこちらを見た。
何ですか!言い返せなくなったら今度はこちらですか!
「エレノア!だいたい貴女は何を考えているんだ!」
「レオン、こういう時の私が何を考えているかなど、理解していただけていると思ったのですが。残念です。」
誠に残念です。
「エレノア?一体何をーー」
(お金儲けですわ)
私はレオンにだけ見えるように口を動かした。
そもそも今日は朝からお仕事ブーストがかかっていたのです。そこへ飛んで火に入る夏の虫、ならぬ、リース嬢。
昨日の甘々を引きずっていては、いつまで経っても仕事など出来ません!
「マドリン公爵ご夫妻は平たく言うと、お金が必要なんですわよね?リース様が良い医療を受けられ、公爵令嬢としての生活を維持出来るだけの」
「エ、エレノア殿。身も蓋もないことを仰る」
暑くもないのに公爵の額には汗が浮かんでいた。
「で、ですがその通りですわ。リーディッヒ家で面倒を見ていただけるのならこちらも殿下からは手を引いてもよろしくてよ」
「リーディッヒにそのような筋合いございませんわ」
「なっ!元はと言えば伯爵家の分際で!何様のつもりだ!」
「本当に生意気な!殿下、このような女のどこがいいのです!」
公爵夫妻はひどく取り乱した。
「エレノアを悪く言うことは許さない。最後まで彼女の話を聞いてもらおうか」
皆の視線が私に集まる。
私は背筋を伸ばし胸を張る。前にいるのは取引相手。
私は丁寧に、物腰やわらかく言った。
「お金がないのなら稼げばいいのですわ」
「領地だけでは限界なのだ!何も知らん小娘が!」
「ではそれ以外の収入を得れば良いのです」
「私ももう年だ。出来ることなど……。それに例え出来たとして何年続くか!」
「公爵ではありませんわ。稼ぐのはリース様ご自身です」
「な?!」
「ではこれからご説明させていただきますね。クロエ、あれをここに」
そう言うとクロエはさっき頼んだものを私に手渡した。




