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お仕事モード

 カリカリカリカリ。

 私は朝日の入るベッドルームで羊皮紙にペンを走らせていた。


「エレノア?」

「おはようございます。起こしてしまいましたか?」


 レオンは眠そうに目をこすった。


「今日くらい少し寝坊したらどうだ」

「やることがたくさんありまして」

「それは……やけにたくさんだな。一体何を?」


 レオンは机の上に並んだ羊皮紙を眺めて言った。


「こちらは宝石の加工職人の募集要項、こちらは布地の発注用紙、それに新商品のデザイン画と販促用ポスターのラフ画ですわ」

「昨日あんなことがあったのに、もう仕事とは逞しいな」

「お褒めに預かり光栄ですわ」


 私はにっこり笑った。







 使用人を呼び朝の支度を済ませると、クロエがやってきた。


「レオン殿下、お嬢様、おはようございます」

「クロエか、おはよう」

「あらクロエ。あなたは今日一日休みと言ったでしょう」


 まだ目は腫れていたが、ピンと伸びた背筋はいつものクロエだった。


「お邪魔でございますか?」

「いいえ、全然。むしろ仕事が山積みで手を貸してもらえると嬉しいわ」

「承知いたしました。朝食はこちらに運ばせましょう」


 クロエが窓を開けると湖からの新鮮な空気が部屋を満たした。

 まだ時間が早いせいか少し肌寒いが、頬がきゅっと引き締まると気持ちまで引き締まるみたい。

 クロエはてきぱきと食卓を用意し、お茶の香りとともに美味しそうな朝食がならぶ。


「どうぞお召し上がりください」

「うーん!美味しそうですわ!昨日の夜は少ししか食べられませんでしたから、今朝はしっかりいただきましょう!」

「はは、本当に元気ですね。では食べましょう」


 レオンはにこにこ顔で私を見ながらお茶を啜った。







 朝食を終えると私はクロエと一緒に白い絹を縫い合わせる作業に入る。新商品のサンプル作りだ。

 販売用の製品はプロに作ってもらうのだが、試作品は自分で作れるものなら自分で作る。

 経費削減にもなるし、イメージ通りのものを作るにはそれが一番だから。


「エレノア、それは何ですか?」


 サンプルが完成すると、レオンが声を掛けてきた。


「日傘ですわ」

「日傘?それが新商品なのですか?アクアマリンを使ったアクセサリーでも作るのかと思っていました」


 不思議そうにするのも無理はない。

 私は白い日傘をぱっと開き、くるりと回して見せた。


 白い傘の露先に、ドロップ型のアクアマリンをつけたのだ。

 露先に水滴を模したアクアマリンがキラキラと光る。自分でいうのも何だか、とてもオシャレで素敵!


「ほぅ、それは美しいですね」

「レオンもそう思いますか?」

「あぁ、水しぶきの中で舞う妖精のようですよ」

「ふふ、褒めすぎですわ」


 私がレオンとクロエ相手に製作発表会ごっこをしていると、不意にノックの音がした。


「殿下、マドリン公爵夫妻、ならびにリースお嬢様がお見えです」


 レオンの顔が急に強張った。


「わざわざ来るなんて」

「レオン?どうされました?」

「いや、別に」

「せっかくですし、昼食に招いてはいかがでしょう。私、リース様とお話がしたいと思っていたのです」


 時計の針は正午を指そうとしていた。

 相手も何か用があって来たのなら、昼食を食べながら話すのも良いだろう。貴族の社交なんてそんなものだ。


「だがしかし」

「ぜひお願いしますわ」


 レオンは観念したように目を閉じた。


「あぁもう、仕方ない。エレノアは僕が守ればいいだけだ」

「何の話ですの?」

「ほら、行きますよ」


 レオンは腕を出して私をエスコートした。


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