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騒動の行方

 雨上がりのもやの中に、屋敷のライトがぼんやりと見えた。

 私は心底ほっとした。

 一時は二度と戻れないと思った場所。それが今はもう目の前だ。

 張り詰めていた気持ちが一気に崩れそうになるが、もう少し頑張らないといけない。


「レオン。今回の件、使用人たちは罰せられますか」


 特に私とカラットを引き合わせた執事、その場にいながら主人を助けられなかったクロエの責任は重い。


「普通であれば、解任以外ない」


 レオンは含みを持たせる返事をした。私はクロエを失いたくない。それをレオンはわかっているのだろう。


「レオン、私のわがままを聞いていただけませんか。貴方には何の得にもならないことは承知しておりますが、どうしても聞いていただきたいのです」


 レオンは少しだけ間を置いてから、


「そうですか」


 と返事をした。


「レオン?」

「あぁすみません。こんな時なのに不謹慎だな。妻にわがままを言ってもらえる夫になったのだと少し……嬉しく思ってしまいました。エレノアの思う通りにしてみるといい」


 その優しい声に胸がぎゅっとなる。これだけ心配をかけたのに、まだレオンは私だけを見てくれる。


「ありがとうございます」






 屋敷に着くと、いつもは隙のないクロエが地面に這いつくばりボロボロになっていた。

 ずっとそこで私の帰りを待っていたのか、髪も服もぐっしょりと濡れていた。隣には執事の姿もあった。

 私の軽率な行動のせいでたくさんの人を巻き込んだ。その悔しさでなんとか自分を奮い立たせる。私にはもう一仕事残っている。


 私は馬から下りると背筋を伸ばして毅然とした態度で言った。


「今回の件について、いくらか誤解が生じている様です。関係者を全てロビーへ集めなさい」

「妃の言うとおりに」


 レオンは私の隣に立ち、私の腰に手を添えそう言った。とても心強かった。


 間もなく、この件を知る屋敷の全ての使用人がロビーへ集められた。私を助けにきた私兵を入れても目視でおよそ20数人。思ったより少ない数に安堵した。


「今回の件、大変心配を掛けました。お詫びいたします」


 まず私は深く頭を下げた。

 使用人たちは皆慌てて身を低くした。


「私が夜のピクニックなどをこっそり計画したばかりにこのような誤解を招き、反省しております」


 ホールにいた皆は驚きの表情をした。


「私はシンリックが初めてで、それにこの時期には水辺で蛍という大変珍しい光る虫が見られるとか。それをどうしても見たかったのです」


 そう言う筋書きにした。カラットが誘拐したのではなく、私の意思で出掛けたのだと。


「この辺りをよく知るカラットに案内を頼み、共に森に入ったのですが、それをきちんと伝えておかず捜索隊まで出させてしまいすみません」


 皆の視線がカラットに移る。肩に巻かれた包帯に、疑惑の目が向けられる。


「皆も知っての通り急な雨がありました。悪路と視界不良の中、カラットは私をかばい負傷しました。当面は王家に身柄を保留し、治療に専念させます」


 この突拍子もない話を信用して良いのか、使用人たちの視線は次にレオンに集まった。


「妃の恩人の面倒を見るのは当然のこと。異論はない」


 半信半疑だった使用人たちも、レオンの言葉を受け徐々に納得し始めた。

 本当はレオンが負わせたケガだとは誰も思わなかった。あの時あの場にいたのは私とレオンとカラットの3人だけ、カラットが何も言わなければ真相などわからない。


「全ては私の責任です。心配を掛け、カラットには怪我まで負わせ、謝罪のしようもありません」


 私はもう一度丁寧に頭を下げた。


「以上が本件に関する全てだ。我が妻エレノアは聡明な女性。かどかわされるなどありえないこと。エレノアには後で反省をさせるが他の者には非はない。混乱させすまなかった。私に免じて許してはくれぬだろうか」


 王子殿下の謝罪にロビーはざわつく。


「殿下、お顔をお上げください」

「とんでもございません!」


 口々に畏怖の言葉が飛び交う。レオンが顔を上げるとロビーは言葉を待つようにまた静まり返る。


「許してくれるか?では本件に関する事項はこれ以上の追及は不要。ならびに口外も禁ずる。好奇心が強くお転婆な妻だが私はエレノアを愛している。皆これからもよく仕えてくれ」


 使用人たちは承諾の意を持って深くお辞儀をした。


「ありがとうございます。これからは王子殿下の良き妻となれるよう精進いたします」

「では解散だ。業務に戻ってくれ。特に雨で身体が冷えている、至急湯浴みの準備を」


 レオンが指示すると使用人たちは一斉に動き始めた。

 そこにはクロエが残った。


 私はゆっくりとクロエに近づく。

 雨に打たれたせいで髪は顔に張り付き、散々泣いたのか目は赤く腫れていた。


「クロエ、心配をかけました。これからも側で仕えてくれますか?」

「お嬢様……私……私は」

「それとももうこんな主人は嫌になりましたか?」

「滅相もございません」


 クロエはその場で泣き崩れた。


「ごめんね」


 私はクロエの冷えた身体をそっと抱きしめた。




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― 新着の感想 ―
[一言] カラットの境遇には同情する余地もあったかもしれないが、クロエのボロボロな姿を見て、自分の勝手な行いがどれだけ他人を傷つけたのか理解し反省して、今後はエレノアに誠心誠意尽くして欲しい。(今まで…
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