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湖畔にて

「レオン、見てください!水が!キラキラ光ってますわ!すごい!」

「あれは湖というのですよ」

「存在は知っていましたが、これほどのものとは。どんな宝石より美しいですわ」


 初めて見る湖の水面は太陽の光を反射して眩しいくらいに輝いていた。どんなに大きいダイヤモンドでも、どんなカットを施しても、これほどの輝きは出せないだろう。


「気に入りましたか?」

「感激いたしました。胸がいっぱいです」


 圧倒的な自然の光景が胸に迫り、目尻にはかすかに涙が滲んだ。


「旅行先にシンリックを選んで正解でした」


 レオンは上機嫌で言った。


 シンリックは貴族の保養地として有名で、森林に囲まれた土地である。シンリックの中央には大きな湖があり、森林が育んだ美しい水で満たされている。このシンリック湖を取り囲むように豪勢な別荘がいくつも建てられているが、ここに別荘を建てられるのは貴族たちにとって一種のステータスであった。そしてその中の一つ、一際大きな建物が王家所有の屋敷である。


「さぁ着きましたよ。少し休憩しましょうか」

「いいえ!是非お散歩したいですわ!座ってばかりで飽き飽きしておりましたの!」


 あぁ早くこの町を歩きたい。城下とは違った静かで落ち着いた町。人工的でない、力強い自然。どこから見ればよいのでしょう!


「では少し歩きましょうか。エレノア、手を繫いでも?」

「手、ですか」


 うーん、差し出された手を取らないのは失礼ですが、かと言ってさらっと手を繋げるほど私の対レオンスキルは上がっておりません。


「今日の貴女は手を繫いでいないとフラフラと迷子になってしまいそうだ」


 レオンは可笑しそうに笑った。私そんなに落ち着きなく見えるかしら?


「まぁ、そういうことでしたら」


 私はそっとレオンの手をとった。


「迷子対策ですからね?」


 私はレオンに念を押す。


「そんな風に上目遣いで見つめるなんて、誘ってるのか?」

「し、身長差です!!」


 私は慌てて顔を背ける。


「ははは、さぁどこに行きますか?湖畔を歩きましょうか」


 うーん、それも捨てがたいのですが。


「町で一番儲かっているお店へ!」


 レオンは苦笑いした。









 私たちは綺麗に整備された道を歩き、シンリックで一番儲かっている店、シンリックジュエリーの前に来た。


「何かプレゼントしましょう。気に入ったものがあれば遠慮なく言ってください」


 レオンはにっこり笑って扉を開ける。


 扉を開けるとガラスのショーケースがあり、中には眩いばかりの宝石が並べられていた。

 田舎とは思えぬ高額商品が堂々と並び、石も大粒ぞろい。気軽にお土産に買うレベルの品揃えではない。


「すごいですわ。これなら王都のセントラルジュエリーにも引けを取りません」


 なんという強気な商品展開。ぞくぞくします。


「さすがエレノア様、お目が高い」

「あ!貴方はセントラルジュエリーの!」


 王都の人気高級宝飾店、セントラルジュエリーの店主がカウンターに立っていた。


「直接お目にかかるのはお久しゅうございます。レオン殿下、エレノア様、ご婚約おめでとうございます」


 なるほど。経営者が同じなのか。確かに店構えもどことなく似ていた。


「ありがとう。エレノアに何かプレゼントしたいのだが、オススメはあるか?」

「えぇもちろん。店頭には並ばない希少なものがございます。お出ししますのでどうぞ奥のサロンに」

「あぁ頼む。エレノア、行こうか」


 いえいえ、着いたばかりでサロンに引っ込むなどもったいない!


「先に行ってらして。少しショーケースを眺めてから参ります」


 私は一人、店内を見渡す。

 やはり宝石は高級になればなる程、それを固定する台座のデザインはシンプルかつ定番。流行のデザインを取り入れているのはもう少し下の価格帯。


(最高級品は失敗出来ないから無難なものを選ぶのでしょうか。それとも石で十分魅力的だから?あるいはそのどちらも、というところかしら)  


(デザイン性のあるものは少し安めに抑えられているから、気軽に季節ごとに新調してもらうのが狙い?うーん、参考になる!)


 私が商品戦略を分析していると、セントラルジュエリーの店主が箱を手に戻ってきた。どうやら店頭には出ない商品を2階から取ってきたらしい。


「やはり宝石はお好きですか?」

「宝石そのものというよりこちらのお店に興味がありますわ。時にご主人はなぜシンリックに?セントラルジュエリーはいいのですか?」

「いつもは別の者に任せているのですが、お二人が訪れると伺い飛んで来たのですよ」

「まぁ、ありがとうございます」


 この店主もなかなか商魂逞しい。第三王子夫妻の婚前旅行という一大商機、確かに私も逃す手はないと思う。


「あら、この石は?」


 私はショーケースにも入れられず、飾り棚の一番上の目につきにくいところに置かれた水色の石が気になった。


「それはアクアマリンです」

「アクアマリン。シンリック湖の色みたいで素敵ですわね。しかもすごくお手頃ですわ」


 ショーケースに並ぶ石とは桁が二桁も違う。


「色の薄い石は人気がないのですよ。青でしたらサファイアがおすすめです。お持ちいたしましたのでどうぞ奥に。シンリックジュエリーの店主もすぐに参りますので」


 私は促されてサロンへ向かった。




 セントラルジュエリーの店主が宝石箱から丁寧にジュエリーを取り出していると、銀色の髪をした背の高い男性が現れた。


「これはシンリックジュエリーの店主のカラットです。この店の買い付け、加工、販売まで全部任せております」


 そう紹介されるや否や、カラットは私の足元に跪いた。


「あぁ、なんと美しいお姫様だ。その麗しい御手に口付けることをお許しください」


 そして返事をする間もなく、カラットは私の手の甲にキスをした。

 私は隣からの殺気を感じ、レオンの顔を見ることが出来なかった。

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