お互いの気持ち
「レオン、入ります」
私は一声掛けて寝室に入った。レオンはベッドの隅に座りうなだれていた。
「!!エレノア!!もう戻ってきてくれないかと」
立ち上がりこちらを見た目はかすかに赤くなっていた。
「クロエは嘘をつきません。すぐに返すと言ったのなら、すぐに返します」
「信頼のおける侍女ですね。僕は貴女の信頼を失ってしまった」
レオンは力なく笑った。
「そうですわね。私たちはビジネスパートナーのはずでした。私はそういう認識でしたので、正直驚きました。レオンは関係を変えたいとお思いですか?」
心臓は早鐘を打っているが、冷静に見えるよう話した。
レオンはこちらにゆっくりと歩を進める。静けさに耳が痛くなる。
目の前まで来ると、その美しい唇が開く。
「僕はこの王宮でずっと一人だった。そこへ貴女が現れた。嫌ならば逃げようと言った。僕にはそんな選択肢考えもつかなかったのに」
「そんなこともありましたわね」
自分の言葉を蒸し返されるのはなんだか気恥ずかしい。
「だが君はそんな王宮と真正面から向き合い、母を公妃に押し上げた。城の者たちの扱いが明らかに変わったよ」
「お金儲けの副産物とでもご理解ください」
「それにコロンでの一件。グロリアス兄上は失脚し、僕は王位継承権二位になった」
あぁ、やはりレオンはグロリアス大佐を弾劾されたのか。生真面目で優しい方。グロリアス大佐のような不道徳なやり方は許せなかったのだろう。
「おめでとうございます。ですがコロンの案件はもともとレオンに来たものであり、私はついでにお金儲けをしただけのこと。グロリアス大佐のことだって私は何もしておりません。レオンが頑張ったのです」
「いや、エレノアのおかげだ。貴女のおかげでコロンの食糧難は解決したし、兄上を正すことだって以前の僕ならば絶対に出来なかった」
私は言葉に詰まる。
だめだ、何か話せ。話さないと冷静でいられなくなりそう。
その時、レオンの両腕が私をきつく抱きしめた。
「僕は貴女を愛しています」
耳元で絞り出すように囁かれた言葉に、顔が熱くなっていくのがわかる。
「レ、レオン」
耐えられそうもなくて私は身をよじった。
「離しません。また逃げられたら僕はーー」
「さ、先程は混乱していたのです。もう逃げたりなどいたしません」
「逃げない?」
「はいっ、ですので、腕を」
「でもやはり離したくないな」
レオンはその腕に力を込める。
「愛しくて仕方ないのだ」
「!!」
あぁもうだめです。冷静でなどいられません。
「わ、私はまだ、恋愛という感情を知りません」
「ならば僕と知っていけばいい」
甘い言葉が降る。
「さっ、先程の行為にも!まるで、免疫がありません」
「キスのこと?」
レオンの指が唇に触れる。
「あ、あの、はい。あの、でも!でも違うのです!」
「エレノア?」
「嫌だったのではないのです。今だって、こうしているのは恥ずかしいですが、嫌ではないのです」
「それは、さっき泣いたことをフォローしようとしている?」
「は、はい」
あぁ支離滅裂だ。全然上手に話せない。ほら、レオンだって困っているに違いない。
「僕は貴女と恋仲になりたい。円満な夫婦関係を築いていきたいと思う」
出会った時の言葉をなぞりながらレオンが言う。
あの頃とはまるで逆だ。
「それがレオンの今のお気持ちですか?」
「あぁ。だが急がないよ」
大切なものを抱き締めるようにレオンは私を抱いた。私はレオンの胸に顔を埋めたまま小さく返事をする。
「承知いたしました」
「承知してくれるのですか?」
心臓がこそばくて、きゅっとなって、苦しい。
「私は恋という感情を知りませんが、レオンのことは嫌いではないのです。実直で真面目で、優しくて強い。もう少し、レオンのことを知る時間をください」
「わかりました。いくらでも」
「で、では、このような親密な行為はしばらくお控えいただいて」
「それは出来ぬ相談だ」
耳元で囁かれる低い声に背中がぞくぞくする。
「レ、レオン!!」
「今まで欲しいものなんて何もなかったのです。僕がこんなにも強欲になったのはエレノアのせいだ。責任をとってもらおう」
「せ、責任って、んんっ!」
レオンはキスで唇を塞いだ。甘く柔らかなキス。
あぁ、力が抜けてゆく。
「婚約式では皆の前でするのです。練習と思えばいい」
「で、ですが」
「嫌ではないのでしょう?」
レオンは小悪魔のような笑顔で笑った。




