謁見の間
レオンパートです
王宮を歩く時、その足取りはいつも重かった。
見てはいけないものを見たかのような顔をする使用人、ひそひそと呟く声。頭を下げこそすれ、そこには敬意のかけらもなかった。
母は使用人から王の妾になった。それを城の者はよく思っていないことは火を見るより明らかだった。
はしたない、身の程知らず、そんな軽蔑と嫉妬が混じった感情が僕に向けられているようだった。
だが僕に言わせれば、王に逆らえる使用人などいないのだ。分別がないのは母を娶った父上ではないのか。
しかし父を嫌いになれない自分もいた。母は深く父を愛していた。
そして父もまた、母を愛しているのは子どもの目にも容易に見て取れたから。
そうして僕は疎まれつつもその鬱憤を誰にも向けることが出来ず、ただ鬱屈した日々を過ごしていた。
エレノアが僕の前に現れるまでは。
最初は気の毒だった。
彼女もまた、王宮の悪意の被害者にされ、僕の妻というだけで辛い目に遭う。
さぞ僕を恨んでいるだろう、そう思っていた。
「その程度のこと、実力でなんとでもなりましょう。見下されぬ程に成功してやれば良いのです」
彼女はそう言ってのけた。
王宮の悪意とそれに苛まれる苦悩を「その程度」だと言った。
伯爵令嬢ならば泣き暮らすのではないかと思っていたが、エレノアはそんな女ではなかった。
そして事実、母を公妃へと導いた。
僕は使用人たちから、あの心無い目を向けられることがなくなった。
彼女の思惑は「成功」し続ける。彼女に恥じぬよう、今度は僕が立ち上がる時だ。
王の謁見の間の扉を押す。あんなにも重いと感じていたこの扉も何てことはない。
腕に力を込めればこうも容易く扉は開くのだ。
「お集まりいただきありがとうございます。陛下、チリオスタ兄上、グロリアス兄上」
「この妾のガキが!軍の出兵を止めるということがいかなることか、わかっているのか!」
グロリアス兄上は顔を真っ赤にして怒鳴った。
顔に泥を塗られたようなものだ。プライドのかたまりのような兄にとって、その怒りは只事ではないのだろう。
「口を慎めグロリアス。マーガレット殿は公妃になられたのだ」
チリオスタ兄上は冷静に言う。
「兄上は悔しいと思われぬのか!我らの母と同様の身分を得るなど図々しい!一計を案じたこのネズミのせいで!」
僕はすっと息を吸い込む。
「一計を案じたのはあなただグロリアス兄上。僕はここに貴殿を告発する!」
「なんだと?貴様、もう一度言ってみろ」
グロリアス兄上の低い声が腹に響く。
「コロン国内の混乱に乗じ国家転覆を企て、それにグルフレン王国軍を利用しようとした。貴殿の罪を告発する!」
「このクソガキがぁぁ!!!」
「控えよグロリアス!!」
グロリアス兄上よりもさらに低い声がその場を凍りつかせた。
グルフレン国王、その人だった。
「此度のコロン公国との交渉、大義であった。誰一人として血を流すことなく、和平的に解決へと導いた」
「恐れ入ります」
「さて、先程申した告発とやら。根拠はあるのだろうな?」
「ご説明いたします」




