商談開始
あと二刻ほどでコロン城だろうか。城に着く前に確認しなくてはいけないことがある。
「レオン、お伺いしたいのですが」
「なんですか?」
「チリオスタ殿下がコロンとの交渉を報告なさった時、レオンはその場にいらしたのですよね?」
「あぁ。父とグロリアス兄上もいた」
「その際、コロン城の地図はご覧に?」
「もちろん。少なからず王城にも被害が出ていたそうですから、状況説明のために見ましたよ」
「食料庫の位置も載っていましたか?」
「確かに載っていましたが、そこは水没して備蓄の食糧はほぼ壊滅状態だったそうです」
その時、馬車が急停車した。
「殿下、お嬢様。クロエにございます!」
「クロエ!」
クロエはコロンとグルフレンの過去10年分の交易資料を手にしていた。
「ありがとう、助かったわ。ところであなた、どうやってコロンへ入ったの?」
国使でもないクロエが国境を超えられるはずがない。
「国境の警備兵にお金と食糧を。ご満足いただける分だけお渡しいたしました」
賄賂か。
「あなたも悪いわね」
「win-winでございますよ。それよりも至急お耳にお入れしたいことが」
クロエはグルフレンの状況を語った。
「グロリアス兄上が派兵を?!まさか、なぜ!」
「治安維持を謳っておりますが真意はわかりかねます。現在急いで準備をしておいでですが、数日中にはこちらに軍がやってきましょう」
「エレノア、兄上が動いたとなると僕にはどうにも出来ない。引き返そう」
「いえ、このままコロン城へ」
「何?」
「こちらが先に話をつければよいのです。それに私はあの町の者たちと約束しましたから。ここで引き返せば信用問題に関わります」
「貴女はぶれないな。わかりました、最後まで付き合いましょう」
「ありがとうございます。ではレオン、至急打ち合わせを。今回の件は只事ではありません。貴方の力が必要なのです」
クロエは先に帰らせ、私たちはコロン城へと急いだ。
到着したのは夕刻だった。
「公王陛下、遅くなり申し訳ございません。グルフレン国使、グルフレン=レオンと我が妻エレノアにございます」
レオンは最敬礼をする。私は半歩後ろでそれに倣う。
「長旅ご苦労である。が、何度来てもらっても同じこと。そちらの提案は飲まぬ」
「公王陛下、我々は商談に参りました」
レオンがすっと顔を上げる。
「商談?何を言ってる」
「小麦を買っていただきたいのです。国民が1年間飢えずに済むだけの小麦を。これは町で集めた署名です。多くの国民が飢えている。国境を開き、小麦の輸出許可をいただきたい!」
イケメンの啖呵はかっこいいですね。声をどんどん大きくして盛り上げる、というポイントもきちんと守れていますよ。
「国民が飢えずに……それは儂の願うところでもあるが、国庫には本当にもう金がないのだ」
「では物々交換はいかがですか?」
私はレオンの隣に歩み出る。
「私たちはL&E商会という商社を設立しております。弊社から貴国に小麦を貸与いたします。返済はカオカオで、毎年無理のない範囲で返していただければ」
「カオカオで?」
「はい。10年でも20年でも構いません。その年に穫れたカオカオの余剰分をお納めください」
「返済はカオカオで、しかも無期限ーーしかし君たちにとって一体何の利益が?」
「カオカオの大ファンなのですわ」
「はは、妻はカオカオに目がなくて。それに陛下、無期限ですが、無利子とは申しておりませんよ」
「何?利子?」
「はい。返済期間中のミスリル兵器の開発中止・使用禁止を利子として要求します」
「な、なぜそれを!!」
公王は玉座から立ち上がった。
あぁ、この反応。やはりそういうことだったのか。




