不穏分子の置き土産
署名待ちの列は随分長くなった。
署名を終えた人に、レオンがお土産用のピザリアを配布しているのも大きな要因の一つだが。
私は列んでいる人たちに声をかける。
今現在の不満は何なのか、これは食糧難と先行きの不安に尽きた。これは案外簡単に解決しそうだった。
厄介なのはクーデターを起こそうとする、不穏分子のこと。
「さっきクーデターとおっしゃってましたけど、食糧難が解決すればその必要はないのですわよね?」
「そりゃそうだよ。誰だって血を流すのは嫌だからね。コロンは農耕民族、出来れば波風立てず平和にやりたいのさ」
「誰かリーダーはいらっしゃるの?」
「いや、いねぇよ。ただ、数日前にあの人が、ガラの悪い兄ちゃんが来てよ。こう言ったんだ。城には金も食糧もある、武器を取り、立ち上がれってな」
扇動者がいるのか。
「その方は今どこに?」
「さぁな。情報だけ置いて消えちまった。城の侵入経路に食料庫の場所なんかが書いてある地図だ」
「見せていただいても?」
「そこの酒場にあるよ。俺たちゃ武器をかき集めて、そこで作戦練ってたんだ」
なるほど。
ここに来るまでの家がことごとく空っぽだったこと、ピザリアを並べた途端に現れた多すぎる人、そういうわけだったのね。
私は一人酒場に入る。
あちこちで酒瓶が割れ、アルコール臭が立ち込めている。
バーカウンターの奥に雑然と広げられた羊皮紙を見つけた。
しっとりとして滑らかな紙。私は人差し指でさっとなでる。
「あぁ、これはヴェラムですね」
間違いない。仔牛から作った羊皮紙、ヴェラム。
厄介です。見て見ぬ振りをしてしまいたいです。
ですがそういうわけにもいきません。
私はヴェラムをくるくると丸めて酒場の外に持ち出した。
「エレ!いや、エリー、どこへ行ってたんだ」
「レオ……」
はっ!いけない!
「あんたこそ何してんだい!署名は終わったのかい?!」
「お、終わった」
レオンの手には丸まった羊皮紙がざっと10枚。
「上出来だよ!」
「エレノア、いつまでこのふりを続けるのですか」
そう小声で言ったレオンは明らかにげっそりしていた。
「そうですね、そろそろ馬車に戻りましょう」
私はもう一度町の人達に約束した。
「必ず明日の午後、結果を報告いたしますわ」
そして皆に見送られ、バザールをあとにした。
「もう変装はごめんです」
馬車に戻るとレオンはがっくりうなだれた。
「お似合いでしたよ」
「エレノアには似合いません。やはり今のほうが良い」
それは主に口調の問題では?
「気苦労をおかけいたしました」
「全くだ。またもらえるんでしょうね?」
「何を?」
「ご褒美です」
レオンはぐいっと顔を寄せた。
そんなにキレイな顔を間近に寄せるなんて反則です。
「ではまた何かフレッシュジュースをご馳走いたしましょう」
「足りないな」
「ではレオンの望むものを仰ってください。手に入るものでしたら善処いたしますわ」
「ほんとですか!」
何ですか?目が輝いていますよ。
「この件が全て片付いてからですわよ」
「あぁ、じっくり考えるとしよう」
ご褒美を楽しみにするなんて子どもみたいですわね。
まぁ元気が出たみたいなのでよしとしましょう。




