ピザリア試食会
「さぁお手元のパン!これはピザリアと申しますの。今グルフレンではピザリアが大人気!大人気の秘密?さぁご自身でご確認くださいませ!あぁでも小さいからと言って一口で全部食べてしまうのは厳禁。一口かじってみてください、ほらこのように!」
レオンに手を向ける。
「ぼ、僕?!」
民衆にどっと笑いが起きる。つかみはバッチリ。
レオンはどうにでもなれと言った顔でピザリアをかじった。
「さぁさぁ、皆さまも!あら不思議な噛みごたえ!これぞまさしく新食感!」
集まった人たちは皆ピザリアに口をつける。そして怪訝な顔をする。
「固い」
「固いわね」
「これがパン?」
おおむね不評。だがこれは想定内。
「固い、そう、これこそが人気の理由なのです。たくさん噛んでくださいませ。すると、あら?どうです?」
ここで一気にテンションを抑える。民衆の関心を味覚に集中させる。
「あ、何か美味しいかも」
「うん、塩気がいいね」
「どんどん味が染み出してくる!」
ポジティブな声がポツポツと広がる。しかし同時にネガティブな声も起こるのは必然。
「でもこれ、パイの代わりにはならないよねぇ」
「甘くないし、ふわふわでもないし」
そりゃそうです。カオカオの粉で作るほんのり甘くてふかふかのパイ。それに競合しようなど無茶なことを考えてはなりません。それはカオカオ愛好者の私が一番よくわかっています。
「みなさま、実はこのピザリア。中に具が入っているのです。どうぞもう一口召し上がって」
「チーズとトマトだ!」
子どもが声を上げた。
「まぁ坊ちゃま大正解!たんぱく質と野菜が入ってまさに完全栄養食なのですわ」
おぉ!という歓声が生まれる。民衆はパクパクと食べ始め、文句を言っていた人たちもついに完食した。
「さてこのピザリアのすごいところは少しの量でもお腹がいっぱいになるところ。いかがですか?」
たくさん噛ませることで満腹中枢を刺激する。
それだけではなく、この生地は発酵させていないためずっしりとお腹に溜まる。
「小さかったのに、結構お腹膨れたかも」
「うん、あとからお腹に来るね」
「腹持ち良さそう〜」
「皆さまお気づきの通り、これはカオカオが原料ではありません。小麦粉と塩と水だけ。中の具はアレンジ自在!飽きることなくお楽しみいただけます」
「小麦粉か」
盛り上がっていた民衆のうち、気付いた一部の人間が顔を曇らせる。
私も同調したように悲しげな顔をしてみせる。
「小麦粉、そう、それがネックなのです。この国では小麦粉はとれない。仕入れるとすればグルフレンから」
民衆の喜びはあっという間に怒りに変わる。
「なら食えねーじゃねーか!国境は閉鎖されちまってるんだ!」
それを逆手に利用する。
「そうなのです。国境さえ開けば」
「公王め!あいつは俺たちが飢えているのに何もしやしない!やっぱりあの人の言う通り、俺たちがクーデターを起こすんだ!」
「クーデターよりも、もっと早く小麦粉を手に入れる方法がありますわよ。それも無傷で」
「だったら嬢ちゃん言ってみろ!そんな都合の良いもんあるわけねーだろ!」
「署名です」
「署名……?」
ぽかんとするのも無理はない。署名などしたこともなければその意味すら知らないだろう。
私は簡単に説明し、あらかじめ嘆願を書いておいた羊皮紙を出す。
「これに名前を書くだけでいいのか?」
「はい。明日の午後には必ず結果を持って参りますわ。クーデターを起こすのはそれからでも遅くありませんでしょ」
「確かに」
「そうと決まれば。レオ!署名の用意だよ!早くしな!」
突然当事者にされたレオンは目を白黒させた。




