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コロン入国

 私はセキド領主とその妻に頼み事をし、クロエにその後の指示を出した。


「数日中にお父様からの荷物が届くはず。クロエは準備をお願い」

「承知いたしました。必ず無事お戻りください」


「案ずるな。緊迫状態といってもさすがに隣国の王族に手出しはするまい」


 レオンはグルフレン王国の王族の正装に着替えていた。

 真っ白なマントに金糸で刺繍された大きな紋章。

 たとえ隣国と言えど、これを見れば大国グルフレンの王族だということはすぐにわかる。


 ですがレオン、ごめんなさい。

 私の荷物にはちゃっかりコロンの民族衣装が入っているのです。

 そしてそれを用意したのはクロエなのですわ。


 クロエは恨めしそうにこちらを見ていた。


「いってきます。留守を頼むわね」

「御意」


 私達は馬車に乗り、国使としてコロンへ入った。


「思ったより荒れているな」


 馬車から見えた景色は惨憺たるものだった。


 カオカオの畑だったと思われる場所には流木と無数の小枝。とても人の力では持ち上げられそうもない岩。

 川に近い家屋は損壊しており、損壊を逃れた家々もあちらこちらに汚泥の跡があった。


「チリオスタ殿下の交渉は決裂したと伺いましたが」

「あぁ、国庫の開放とグルフレンからの借入を提案したそうだが、どちらもダメだったらしい」


 国は莫大な金額の現金を国庫に有している。

 国民が飢えかねないという非常時に、国庫を開放というのはわかる。

 そしてそれでも足りぬのならグルフレンからの借入、これも筋は通っている。

 国家間の交渉において、現金の移動はわかりやすいし、実際によくあるやり方だ。

 第一王子のチリオスタ殿下らしい模範解答。

 でも私はーー。


「レオン、城へ行く前に町を見たいのですが」

「ではもう少しゆっくり行かせましょう」

「いえ、止めていただきたいのです」

「まさか、降りるつもりか?!」

「はい。そのための用意もしております」


 私はトランクを開けた。

 中にはクロエが入れてくれたコロンの民族衣装が二着。


「正気か?」

「顧客のニーズを知るにはこれが一番ですわ。コロン人に紛れ、その本音を聞くのです」

「顧客というが……コロン公王陛下と話をするだけでは足りないのか?」 


 やはりレオンもおぼっちゃん、王家の人間なのだ。


「今回の顧客はコロン公国です。コロンの秩序を取り戻すことが目的」

「あぁ。だから公王に直接取り合って」

「国は王のものなのですか?」

「え?いや、それは」


 レオンは口ごもる。


「はっきり申しましょう。王族なんてカス程の数しかいないのです」

「カス?!」

「国を支えているのは大多数の国民。顧客のニーズを吸い上げるのに国民の声を聞かずしてどうするのです」

「だが危険すぎる」

「危険だからこそです。危険を排除するのが目的ならば、それと接触せずしてどう解決するのです」


 レオンは頭を抱えた。


「僕はクロエのもとに貴女を無事帰さなくてはならないのです」

「この衣装を用意したのはクロエです。彼女も承知の上ですわ」


 レオンはハァーっと息を吐いた。


「意思は固いのですね?」

「はい」

「僕は一昨日、あなたの芯の強さと行動力を尊敬していると言いました。ここで貴女を止めたら、その言葉は嘘になってしまう」


 あぁ、屋敷でそんなこと言われましたね。あの後一緒に寝ることになってパニックで抜け落ちていましたが。


「僕の言葉に嘘偽りはない。パートナーとして信用は大切です」

「ふふ、言いますわね」


 レオンは胸元からハンカチーフを出した。


「L&E商会の人間ですから」


 持ってきてくださったのか。

 レオン王子の人柄が何となくわかってきた。

 優しくて、生真面目で、いざという時の腹の括り方は大物そのもの。

 そして、自分でハンカチーフを出しておきながら、あとから照れて赤くなるところ。かわいい。


 狭い馬車の中で、レオンは器用に着替え始める。

 一応淑女の嗜みとして彼に背を向けておく。


「必ず殿下を守りますから」


 私はレオンに背を向けたまま言った。

 何かあれば殿下の盾になる。万が一にも王子に傷一つつけるわけにはいかない。


 すると大きな腕が私を包んだ。


「違う。守られるのはエレノア、君だ」

「レ、レオン?」


 温かい、大きな腕。

 そこで初めて私は自分がかすかに震えていることに気が付いた。

 そうか、怖くないはずがない。

 城下を離れるのだって初めてだし、外国なんて来たこともない。それも情勢が極めてよくない場所。


「ふふ、王子様みたいですわ」

「エレノアは僕を何だと思っているのですか」


 あぁ、不安がすっとおさまってゆく。

 そっとレオンが離れる。


 私がゆっくり振り向くと、そこには上半身裸のレオンがいた。


「!!!」


 脱いだらすごい!!何ですかこの引き締まった身体は!!

 というかなぜ裸!!


「そんなに見つめられると恥ずかしいのですが」

「し、失礼いたしました!」


 私は慌てて背を向けた。

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