国境にて
王都を離れて3日目。道はますます悪路になり、リーディッヒ家で一番高価な馬車をもってしてもお尻が痛くなった。
もうすぐコロン国境付近。グルフレン王国最北の町セキドに到着する。
「エレノア、やはりあなたはグルフレンに留まるべきだ。あちらはいつ内戦になるかわからない」
この3日の間に情勢はさらに悪化したらしい。
それも当然と言えば当然。食糧難の上に国境が完全に閉鎖されたとなれば、国民の不満が止むはずもない。
「だから行くのです。内戦になんてなったら交易収支が大幅減ですわ。お金儲けどころの話ではなくなります」
ガッタン。ゴトゴッ!ガン!
喋っていたら舌を噛んでしまいそう。国の端までインフラ整備は整っていないのでしょうね。
そう思っていた矢先、急に揺れが穏やかになった。
(あら?道が整備されてるのかしら?)
カーテンを少し開けて外の様子を伺うと、赤い煉瓦道が見えた。
「そういえばセキドは煉瓦職人の町でしたね。建物まで赤いですわ」
無骨だが美しい、見事な赤い煉瓦の建造物がならんでいる。
でもどことなく町の雰囲気は暗かった。
馬車はセキド領主の家の前で止まった。
「やぁ!ほんとに来たよ!王子と奥様だ!」
開口一番に言ったのは領主の妻だった。
「こ、こら!何て口の聞き方する!も、申し訳ねぇです。田舎モンで、言葉が汚ぇで」
「あたしは生まれてこの方この喋り方さっ!いやぁ、それにしてもずいぶん男前とべっぴんさんだね。あの本そんまんまじゃないか!」
「あの本?」
レオンは不思議そうな顔をした。
「先日完成したブックレットのことですわ。フラゲしましたの」
「フラゲ??」
「発売日よりも先行して販売することです」
「なぜそんなことを。知らなかった」
「王都では放っておいても売れますからね。こういう所にまず商品を置く、それを求めて王都の人間が集まる」
「あぁ、だんだんわかってきたぞ」
王都から遠く離れた田舎では王室関係の商品はさほど売れない。あまりに縁遠いからだ。
何なら祖国であるグルフレンよりも、より身近なコロンの方に愛着を持っている者さえいる。
「遠くからわざわざ買い付けに来る人間がいる、それも貴族を中心に、たくさん」
そうなると、ちょっと手を出せそうな値段なら自分も欲しくなるというもの。
貴族たちは、交通費や宿泊代金という形で金を動かす。
そして現地は貴族が落とした金で潤い、さらにブックレットの現地消費を促す。
「ほんの少し早く売るだけで、大きく経済は動くのです」
「やはりエレノアはすごいな」
「すごいのは何とこのフラゲ作戦、通常に売った場合と経費が全く変わらないのです」
経費をかけずに利益を生み出す。なんと素晴らしいことでしょう。
「でも、ここで買った者たちは王都で買わなくなるのでは?」
「ではノベルティをつけましょうか」
「何?」
「王都限定、レオン殿下と妃殿下のサイン入り。作業時間とインク代はかかりますが、十分にペイできますわ」
「サイン?!あたしにもおくれよ!!」
領主の妻は鼻息荒く言った。
「えぇ、もちろんですわ奥様。その代わりと言ってはなんですが、少しお願いを聞いていただきたいのです」
レオンが顔を引きつらせている隣で、私はにっこり笑った。




