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縁談

「おはようございます、お父様」


 私は淑女の礼をした。クロエの気配がふっと和らいだのがわかる。いつもこうしておけば彼女を心配させなくてもいいのだけれど、それは無理な話だ。


「おはようエレノア。座りなさい」

「はい」


 そっとクロエが椅子を引く。私は着席するなり口を開いた。


「お父様、時は金なりと申します」


 早く本題に入ってもらおう。今朝は出来るだけ時間を無駄にしたくない。店舗が開く前に商品棚のチェックもしたいし、何より町の様子を肌で感じたい。


「ははっ、変わらんな。しかし久しぶりの再会だ、少し近況でも話さないか。エレノアももう年頃だ。良い男はいるのか?」

「良い男ですか。そうですわね、セントラルジュエリーの店主はなかなかの目利きですわ。高価な品が多いですが、価値があるので飛ぶように売れています。それからファーマーズガーデンのキャナル。彼は父親の作るミルクと母親の作る季節の果物を使ったスイーツで店を出したのですが」


「お嬢様、お食事をお持ちいたしました」

 クロエが私の顔を覗き込んでにっこりと笑う。


「あ、ありがとう」

「お話も楽しいですが、冷めないうちに、是非」


 口を慎め、ということね。


「えぇ、いただくわ」


 お父様のもとには執事が配膳していた。私は全ての配膳が済んだのを確認してスプーンを手に取る。温かいスープが胃に落ちる。一呼吸置いて私はお父様に向き直る。


「お父様、恋のお相手という意味でしたらおりませんわ」

「そうか。実はな、エレノア、お前に縁談がきたのだ」

「縁談ですか」


 私もそろそろ結婚してもいい年頃だ。だが男性を恋の相手として見る前に、取引相手として見てしまう私には縁遠い話だった。


「私もエレノアが嫌なら断ろうとは思ったのだが、相手が相手でな」

「公爵家ですか?」


 我が家は国一番の豪商リーディッヒ伯爵家。落ちぶれた公爵家がお金に目がくらんで縁談を持ちかけてくるなんてよくある話だ。


「いや、ちがう」

「でしたら隣国の豪商とか?私もついにこの国を離れるのですね」


 他国との交易も担っている我が家ならあり得る話だ。伯爵令嬢として城下から出ることを許されなかった私が、国を出られるなんて素敵。きっとそこにはまだ見ぬ商機が転がっているに違いない!


「それも違うのだ」

「何ですの?商談は明瞭になさいませ」


 私は少しイライラしていた。お父様らしくない歯切れの悪さ。一体何なのかしら。


「お嬢様、商談ではございません。親子の会話でございます」


 クロエが私に耳打ちする。確かにそうだった。でも結婚となると事が事なのだ。特に貴族ならば尚更。


「お父様、私はリーディッヒ伯爵家の価値も、一人娘であるリーディッヒ=エレノアの価値も存じております。政略結婚なんて当然のこと。覚悟など既に出来ております。はっきりおっしゃってください。お相手は誰なのです」

「グルフレン=レオン様だ」

「グルフレン?お父様、今グルフレンとおっしゃった?」

「いかにも。グルフレン王国第3王子。レオン殿下だ」

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