善は急げ
馬車に乗ってから知ったのだが、王都からコロン公国国境までは馬車で3日かかるらしい。
私は馬車の中で必要なものをピックアップする。
「コロンとグルフレンの過去10年の取引記録、それからコロンの民族衣装にーー」
「僕に何か出来ることは?」
「黙ってくださると仕事が捗りますわ」
「うぅ……」
日が暮れるまでに進めるだけ進んだ。王都を離れれば離れるほど道の舗装は悪くなりガタガタ揺れた。
「今日はこの町に泊まりましょう。これ以上進むのは危険です。王家の所有する屋敷がありますからそこへ」
「えぇ。ですがその前にこのリストをなるべく早くお父様に届けなくては」
「では屋敷の者にさせましょう」
私たちはこじんまりとした、木のぬくもりのある屋敷に通された。
「レオン殿下、奥様、このような田舎にお越しくださいまして、誠に光栄にございます。王宮に比べ至らない部分もございましょうが、心を尽くしておもてなしさせていただきます」
うやうやしく頭を下げたのは屋敷の執事だった。かなり年がいっているように見えたが、その口調には貫禄があった。おそらく王宮勤めをしていた執事が高齢になり隠居したとかそういうのだろう。
「いや、急にすまなかった。取り急ぎこのリストをリーディッヒ公爵へ届けてほしい。出来るか」
「夜の街道は危険ですゆえ明朝一番に、と申したいところですがお急ぎのご様子。屋敷の兵を随行させることをお許しいただければ日が変わらぬうちに必ず届けましょう」
「善は急げだ、そなたの言う通りに。屋敷の警備には町の自警団を雇ってくれ」
「かしこまりました、すぐに手配を。お食事はお部屋にお持ちいたします」
「うむ、助かる」
執事が頭を下げるとさっとメイドが現れる。
「こちらにございます」
メイドは2階の一番奥の扉へ私達を案内した。
室内には暖かな火がパチパチと燃える大きな暖炉。春になったとはいえ、王都から北へ進み、さらに夜ともなるとこのあたりは冷える。
「素敵なお部屋ですわね」
「寝室は奥でございます。おくつろぎくださいませ。ただいまお茶をお持ちいたします」
そう言ってメイドは扉を閉めた。
「エレノア、目が赤い。少しベッドで休んでください」
「ふふ、大丈夫ですわ。それよりも、さっきのレオンは素敵でした」
「さっき?」
「善は急げと仰いましたでしょう?少し驚きましたの」
何だか私みたいで可笑しい。
「そうでしたか?何だか恥ずかしいな」
「恥ずかしくなどありませんわ。素敵でしたと申し上げているのです」
レオンは頬を赤くした。褒められ慣れていないのかしら?
「僕はエレノアに影響されたのですよ。だったら貴女が素敵だということだ」
「ふふ、お上手ですこと」
「ぼ、僕は本当に!貴女を素敵だと!」
「善は急げなんて言う女、せっかちで嫌がられるだけですわ」
「僕はそうではありませんよ。芯が強くて行動力があって、そんなエレノアを尊敬しています」
「ビジネスパートナーからの信頼と評価、ありがたいですわね」
「そ、そうではなく……」
「お茶をお持ちいたしました」
レオンが口ごもっていると、先程のメイドがお茶を手に入ってきた。




