公国コロン
「エレノア、話があるのですが」
レオンと二人で婚約式の招待状を書いていると、彼がおもむろに切り出した。
「お金儲けの話なら大歓迎ですわ」
最近の私は王家の人間関係に辟易としていた。何かもっと景気の良い話はないかしら。
レオンは申し訳なさそうに苦笑しながら言った。
「僕は貴女に世話になりながら、貴女の喜ぶことが出来そうもない」
「そんな自虐的なこともおっしゃるのですね」
「言いたくもなりますよ」
「ふふ、お茶にいたしましょうか」
クロエにお茶をいれてもらい、しばしの休憩をとることにした。
「グルフレンの北側にある国をご存知ですか?」
「国境に面しているのはコロン公国、それより北は独立国家デディカと記憶しておりますが」
「コロンの方の話です」
「あぁ、カオカオで有名な。もっとも今年は天災で壊滅状態だと聞きましたが」
「はい。そのせいで今、コロンの国内情勢が大変不安なのです」
そういえば国境が封鎖されていたとお父様が言ってたっけ。
「具体的に国内の様子がわかっているのですか?」
「国民の暴動があちこちで頻発しています。この機に乗じてクーデターを起こそうとする組織もあると」
「それは深刻ですわね」
国が倒れるとなると、隣接しているグルフレンにとってはかなり厄介だ。
現政権とは長年友好な関係を築いてきたが、クーデターで新しい国が建つとなると、その国がグルフレンに対して友好的とは限らない。
最悪軍事衝突もあり得る。
「チリオスタ兄上がコロン公国に入り、2週間に渡り公王陛下と交渉していたのですが決裂しました」
「大変ではないですか!次の対応には誰があたられるのです?」
「それが、僕なのです」
「???」
は?
はあぁぁぁ?
「この問題の解決を僕にと話が回ってきたのです」
「レオンに?!」
それは無理があるでしょう!
レオンは冷遇されていた第三王子。チリオスタ様なら申し分ない外交力があるでしょうし、グロリアス大佐なら騎兵隊がある。
しかしレオンは何も持っていないのだ。
「グロリアス兄上の提案なのです。国王軍を出すとなると軍事介入になるし、公国民も犠牲になりかねない。自分が動くわけにはいかない、と」
あぁ、それらしい言い訳をつけた嫌がらせというわけですね。
「その話、私がお手伝いしましょう」
「いえ、そのようなつもりは。僕は来週からコロンに入る予定になっているので、今日はそれを伝えようと」
「来週?何をおっしゃってますの?善は急げ、今から参りますわよ。クロエ、早馬を出して。馬車の用意も」
「エレノア、これは国の問題だ。君が有能なのはわかっているが、今回ばかりは出番はーー」
「ありますでしょう。これはお金儲けのお話です。これこそが王家に嫁いだからこそ得られる商機!」
「エ、エレノア?」
私は刺繍をしたハンカチーフを取り出した。
「レオン、これは私からの贈り物です。私が刺繍いたしました」
「あぁ、名前が。ん?これは?」
「『L&E商社』、私達が運営する会社の社名ですわ」
父に嫁入り道具をねだる代わりに、商社を一つ作ってもらった。
「レオン&エレノア、ということですか」
「えぇ。私たちはビジネスパートナー、一人で行くなんて許しませんわよ」
それに初めての外国です!楽しそうではありませんか!
「お嬢様、馬車の用意が整いました。お荷物は追って運ばせましょう」
「さぁ、一仕事と参りましょう!」
あの時窓辺で刺繍していたハンカチがようやく登場しました。名前だけで終わらず、商社まで作ってしまうのがエレノアなのでした。




