再び王宮へ
グルフレン王国は肥沃な大地を持つ広大な国だ。世界の中心としてその存在感は強い。
グルフレンの北側にコロンという中規模の国があるのだが、夏は涼しい気候で過ごしやすく、冬になると甘い根菜カオカオがとれることで有名だ。
私は煮込んだカオカオが大好物。そう頻繁に食べられるものではないが、口の中でとろりと溶けて、甘い香りが鼻に抜けるのが何といっても格別なのだ。
今日はコロン国境付近に商談に行ったお父様が帰ってくる日。
「ただいま」
「おかえりなさいお父様!カオカオは買えましたの?」
「おいおいエレノア、父が帰ってくるのを待っていたのか?カオカオの帰りを待っていたのか?」
お父様には悪いけど、カオカオだけは特別ですもの。
「もったいぶらずに、どうなのです?」
「それが買えなかったんだ。雪解け水の量が今年は異常に多かったらしくてな、あちこちで河川の氾濫が起きて畑は壊滅状態だそうだ」
「まぁ、大変ではないですか。カオカオはコロン人の主食でしょう?」
春に穫れたカオカオを乾燥させてすり潰し、その粉をパイと呼ばれるものに加工する。ほんのり甘いパンのようで、コロン人はこのパイを一年通して食べる。
「大変といえばもちろん大変なのだが」
「?」
「コロン国境が完全に封鎖されていて、人も物も行き来が出来なくなっているんだ。中で何が起こっているのか、こちらの方が深刻だ」
「まぁ、そうですの」
その数日後、私はグルフレン国王陛下の名前で晩餐会に招かれた。
先日のレオンと二人の食事ではなくて、公式の国王主催の晩餐。それは親族が揃い、私の内々のお披露目があることを意味していた。
クロエは私をぴかぴかに磨き上げたし、部屋にはリーディッヒ家の総力をかけて用意したドレスと宝飾品がずらっとならんでいた。
「ここまで立派なものが必要なのかしら」
「嫁入り道具と思われればよろしいかと」
私は大粒のダイヤモンドのネックレスを首から下げる。
「重っ!」
「石ですからね」
鏡台の前に座らされ、クロエのなすがままの私。ダイヤモンドがキラキラと鏡に反射する。
「眩しっ!」
「白いお嬢様の肌によく映えますわ」
そんなこんなで自分でもびっくりするほど見違えた私は、日暮れとともに王宮へと乗り込んだ。
「皆に紹介しよう。我が三男レオンとの婚約が決まった、リーディッヒ公爵家の令嬢、エレノアだ」
リーディッヒ家はこれまでの功績と私の婚約も相まって公爵の位を賜っていた。
私は国王陛下の隣に立ち、紹介の間深々と礼をしていた。
「顔を上げよエレノア」
私はゆっくりと顔を上げる。王宮では普段よりスローで行動しなくてはならない。
いつもの私だとせっかちな印象を与えかねない。それくらい王室の女性は淑やかなのだ。
「では食事を始めるとしよう」
私は執事に案内され席につく。他の親族は序列通りに席についていた。
(あれ、おかしい)
私はすぐに違和感に気づいた。
お義母様が、マーガレット妃がいない。
「あの、マーガレット様がいらっしゃってないようですが?」
そう発した瞬間、場が凍ったように静まり返った。




