ハニーレモンティー
食後のお茶が出る頃には、みんな何だか満足気な雰囲気が漂っていた。
「こちらはマーガレット妃お手製のハニーレモンジャムを使ったハニーレモンティーです」
私がそう説明すると、一同はティーカップを見つめた。
「こちらも婚約記念の品として販売したいのですが」
「エレノア嬢。今日の私は貴女の願いならば何でも聞かなくてはならないのだ。好きにせよ」
陛下はお茶をすすって感嘆し、マーガレット妃と見つめ合う。
「ありがとう存じます。ですが1つ困ったことがございまして」
「なんだ?申してみよ」
「このハニーレモンのジャムなのですが、どうやら蜂蜜が特別なようなのです。家にあるもので同じように作っても、同じ味にならなくて」
お義母様お手製のジャムはとてもさっぱりしていてとてもフルーティーなのだ。
「その蜂蜜は兄の作っているものなのよ。兄は養蜂を営んでいるのだけれど、蜂が何の花の蜜を集めるかで蜂蜜の味が変わるんですって」
お義母は嬉しそうに説明した。
「まぁ、そうでしたの。ではその蜂蜜をたくさん購入することは可能でしょうか」
「どうかしらぁ。実家は裕福ではなかったからそれ程領地も広くはないし、たくさんは無理かもしれないわねぇ」
お義母様の両親は早くに亡くなったため、兄上は実家の養蜂の仕事を継ぎ、お義母様は若くして王宮勤めに出られたと言った。
つくづく苦労の人である。
「それは困りました。このお茶はお義母様が初めて私に入れてくださったお茶。国民の皆様にも飲んでいただきたかったのですが」
私はしゅんとした。風を装った。
「あぁエレノア嬢。そんな顔をしないでおくれ。君は恩人だと言うのに。蜂蜜さえ手に入れば良いのか?」
陛下はおろおろとした。
ここからはとても大きな取引になるのでお父様とバトンタッチ。そういう約束だから私は俯いたままでいる。
「陛下、領地が狭いのであれば生産性は落ちる。これは仕方のないことです」
「どうにか手はないのか伯爵よ。私はこのままエレノア嬢を悲しませたまま帰るなど出来んのだ」
「簡単ではありませんか、領地を広げればよいのです。ただの民では勝手に私有地を増やすことは出来ませんが」
「領地を……?そうか!そうすれば解決ではないか!」
お父様は控えていた執事を呼ぶといくつかの書類を受け取った。
「マーガレット妃の兄君を男爵の地位につけ、領主とするのです。そして養蜂を拡大。今現在の領主は当家で預かりましょう。私は彼を知っているのでね、より都会で、より高給を与えると約束しましょう。これが誓約書です」
そこには現領主とお父様のサインが書かれていた。
「全く仕事が速いな」
「娘の婚約といえば一大事ですからな。現地視察に行ったら領主と意気投合しまして、今より5倍の収入を約束したら大喜びでしたよ」
「お待ちください陛下。兄に爵位などもったいのうございます。私が公妃となるだけでも身に余りますのに」
お義母様はどこまでも慎ましやかな人だ。私ならふって湧いたチャンス、その場で言質をとって絶対に撤回させはしない。
「奥様。公妃様の兄上が爵位を持つことは特別不思議なことではございませんよ?それに爵位がある方が取引はスムーズだそうですの。貴族社会では」
母は至極当然のことを言った。
「ですがそのようなことをしていただく理由は」
「はい、全て私のわがままでございます。この味のハニーレモンティーでなくてはとわがままを言ったばかりに」
私はさめざめと顔を覆った。風を装った。
「エレノアのわがまま、聞いてくださらないかしら?主人も私も、嫁に出す前の最後のわがままを叶えてやりたいのです」
お母様が頭を下げると、お父様もマーガレット妃に向かって頭を下げた。
「お、おやめください」
「了承していただければ皆幸せです。しかし拒否されるとなると、エレノアは悲しみ、新生活を楽しみにしている現領主もさぞガッカリするでしょうな」
「マーガレット、何を迷うことがある。君はもう使用人じゃない。過ぎた身分でも何でもないのだ。幸せになることに怯えるな。我を信じよ」
陛下の男気が詰まった言葉がきっと決め手だった。
「陛下の御心のままに」
お義母様は二度目の涙を流した。
「そうと決まればなるべく早く量産体制を整えねば。領地拡張に伴う人件費、施設投資、諸々、全て見積もりをとっております」
お父様の出した見積もり書に陛下は一瞬驚き、そのあと苦笑した。
「リーディッヒ伯爵家は一体何者なのだ」
「国一番の豪商ですよ、父上。彼女に関わってから、毎日面白いことが起こるのです」
レオン殿下が笑った。そのことに陛下はまた驚いた。
ブックマークがついに二桁に(感涙)
ありがとうございます!これからも頑張ります!




