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第六章③ 勇者は伊達じゃない

 眼鏡のほうがいきなり呼び出した魔獣たちによって、ローテ・ヴェヒターは明らかに苦戦を強いられている。

 シアには今すぐ助けに入ってやりたいという思いが募るが、現状では難しいのが困りものだった。


「よそ見してていいんですかい?」


 言葉と同時に叩きつけられた短剣を受け流し、目の前の男に視線を戻す。

 アリアスというらしいこの警備隊員。せいぜい質のいい戦士のレベル。最初はそう思ったのだが、こいつもかなりの曲者だった。


「無駄口叩く暇があるのかよっ!」


 アリアスが、あたしが飛ばした機械剣のブーメランの戻りを跳んで避ける。あたしは別のトリガーを引いて、浮いた体の軌道上にマナの光弾を発射する。

 通常なら確実に相手を捕らえるであろう一連の流れ。しかし……。


「ほいさっ!」


 叫びと共に、アリアスの軌道が空中でいきなり変わった。


 こいつは、飛ぶのだ。


 射撃にブーメランに斬撃とギミックを複合した戦術で捕らえようとするが、歯牙にもかからない。まさに縦横無尽で動くこの男は、シアにとって戦いづらいことこの上なかった。これはかなり相性が悪い。


「さすが魔王討伐勇者。やるやる。しっかし、俺ぁ大猿鬼とは違いやすぜ?」


 空中で静止したアリアスが両手を広げ、何本もの短剣を撒く。そのすべての柄に魔方陣が現れたかと思うと、短剣に機械剣のブレードのような光刃が発生し、さらにまるで生き物のように、独立した動きで飛んでくる。


 短剣は何度避けても、弾き飛ばしても、叩き落しても、再び柄に魔方陣を浮かばせて、勢いよく動き出し、止まらない。そちらに気を取られたところで、アリアスが文字通り懐に飛び込んでくる。

 シアは剣を二本に分け、本体と短剣の同時攻撃に対応し、距離を開ける。そこにまた空飛ぶ短剣が襲い掛かる。


 休む間が与えられない。致命傷は避けているが、かなり翻弄されていた。

 現実には一対一だが、完全に多数を相手にしている感覚。シアの機械剣のギミックでは、短剣すべてに対応しながらアリアスを倒す、というのは、少し難しそうだった。


「いつまでもちやすかね? そんなんじゃ、あっちより先にやられちまいやすぜ?」


 それをわかっているのか、高く飛び上がったアリアスがこちらを見下ろして、空中で停止し、余裕の表情で腕を組む。

 乱舞する短剣で勝負がつけられると思ったのか、アリアス自身は傍観する気配すらある。どうやらだいぶナメられているらしい。


 避け切れなかったいくつかの短剣が肌を裂く。身を転がして短剣の雨をかわして、すぐにばっと身を起こすと同時に、迫り来る短剣を数本叩き折る。

 この短剣、さすがに壊してしまえば、もう動かなかった。

 咄嗟に、すべて壊せば、と頭に浮かんだが、そんなあたしの考えをあざ笑うように、アリアスが懐から追加の短剣を取り出した。


「ちょっと壊したくらいじゃ、状況は変わりやせんぜ?」


 思わず唇を噛む。悔しいが、やはり状況はかなり不利だった。

 魔獣たちの咆哮が大広間に響く。

 空中のアリアスから目をそらせず、状況はいまいち把握できないが、クラリッサ姫たちもかなり苦戦していると思われた。


 一刻も早くアリアスを倒し、姫たちを助けて、キルトのところへ。

 それを可能にできる札は一枚だけ。

 本当はあのおちびちゃんにまで残しておきたかったが、そうも言っていられない。


「じゃあ、一気に決めることにするさ」

「それができりゃ、俺ごときに苦戦なんてしないと思いやせんか?」

「温存したかったんだよ。あんまナメてっと、痛い目見るぜ」

「そんじゃ、痛い目、見せてくだせえよ」


 アリアスが手を振り上げると、残った短剣が引き上げていく。さらにアリアスは新たに数えるのも面倒なほどの量の短剣を宙に撒き、同時に魔方陣で起動させた。


 これまでにない一斉攻撃の構え。しかし、シアにとってそれはチャンスとなる。

 欲しかったのは、わずかの間。

 そのまま短剣を動かしていればいいのに。

 どうやって間を作ろうか考えていたくらいなのに。

 格好でもつけているのか、相手のほうが願ってもない油断をしてくれた。


 それは余裕の表れか。あるいはバカなのか。

 ともあれ、シアはすぐさま決断して、分離させた機械剣の一本を逆さに持ち、剣の柄と柄を合体させると、刃身に三個ずつ、計六個の穴が自動的に開く。

 腰のスカートから六個のバッテリーをはじき上げ、変形した剣をひと振りし、何かの芸のように、一発ですべてのバッテリーを穴にはめ込む。

 ブーメラン用の外装が分離、変形して、柄を握る左手の上下に展開する。


「……ま、できるもんなら、ですがね!」


 アリアスが指令を出すように手を振り下ろすと、一斉に無数の短剣が散開して動き、幾重にも放物線を描く。しかし、間に合う。

 グリップにあるすべてのトリガーを引き、上下の刀身を機械機構で傾けると、同時に剣先から一本の細い光が伸びて、反対側の剣先に繋がった。

 出来上がった形は、剣ではなく、弓。

 すぐさま左手を前に出し、右手で光の弦を引き絞る。

 全バッテリーが一斉に発光。一瞬で矢を形成し、矢の前面に光の円と鏡面を描き出す。

「できなきゃ言わないさ」


 それはあの討伐の日、不発に終わってしまったシアの切り札。

 かつて魔王を貫いた、究極の一手。


「吹っ飛べえええええええええぇ!」


 解き放たれた矢が鏡面に溶けると、円が一気に拡大し、大きな建物だって丸ごと飲み込めてしまう極太の光線、レーザーと化す。

 そのレーザーが、こちらに向かっていたすべての短剣を飲み込み、消滅させる。


「ちょ、そんなの反則……」


 アリアスは飛んで逃げるが、間に合わない。叫びと共に、短剣同様アリアスを飲み込むと、レーザーは天井にぶち当たる。

 轟音と共に岩を削り、削った破片を瞬く間に消滅させながら、さらに突き進む。

 やがて遥か彼方にある大広間の天井に、ぽっかりと穴が穿たれる。

 地表まで突き抜けた光が、最後に天へと消えていった。


「……な? 痛い目、見れたろ?」


 トリガーから指を離すと、六個のバッテリーがぷしゅーっと煙を吹き、自動でポロっと外れ、地面に落ちる。

 弓と化した機械剣を分離し、一本の大剣へと戻す。と、そこでレーザーに身を焼かれ、全身焦げまくったアリアスの体が、どさっと地面に落ちた。


「あたしの勝ち、だ」

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