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第三章② 狩りの始まり

「こいつは特別なんだ、って。大事にしてたみたいだったよ」

「メリルも知ってるのか?」

「うん。形は一応剣だけど、魔術は使えちゃうし、バッテリーはつくし、念符みたいな紋様も描いてある、技術体系がよくわからない、不思議な黒い剣。あんなの他に見たことないから、忘れるわけないもん」


 シアとクラリスが揃ってうなずく。この説明で、どうやら同一の物だと確定したようだった。話を聞くに、それこそキルトのためにあるような武器だが……。


「で、それはどこにあるんだ?」

「ボクがキーくんを見つけたときは、もう持ってなかったの。あると思ったから、近くも探したんだけど見つからなくて……」

「……だとさ。もうないらしい」


 あるならぜひとも欲しいところだったが、残念である。記憶喪失になったキルトを助けた当事者でさえ知らないのだから、もはやその黒い剣の行方はわかるはずもない。


「ま、これだけ持ってきたんだ。壊れるにしたって、今日は十分だろ」

「それもそうだな。とりあえず、今日はあきらめよう」


 シアが一度笑ってから、自分も準備とばかりに、背の機械剣を手に取る。

 あちらの機械剣は今日キルトが持ってきたものよりも、このあいだ使ったものよりもひと回り大きく、さらにゴツゴツしている。


 シア専用の特別製で、普通の機械剣にはない特殊なギミックをいくつか搭載しているらしかった。

 次いでシアは、動きの邪魔にならないようにか、首もとの留め具をはずしてマントを脱ぎ捨てる。と、腰につけた大きなベルト、というより、たくさんのポケットがついた短いスカートとでも言ったほうが良さそうな、奇妙な腰巻があらわになった。

 ちなみに、そのポケットには全部バッテリーが入っているらしい。シアはポケットのひとつから、慣れた手つきでバッテリーをひとつ弾き上げて、剣の根元に装着した。


「んじゃ、いっちょぶちかましますか。あちらさんも、気づいたみたいだぜ?」


 シアの視線を追って谷底を見てみると、数匹の大猿鬼がキルトたちに向かって、谷を駆け上がり始めていた。

 情報と食い違っている状況など、確認したいことは山ほどあったが、仕掛けられてしまっては、とりあえず対応するしかない。


「メリルとクラリスは下がれ。あとできれば大人しくしててくれ。こっちで片付ける」

「ボクはやればできるもん! 何もできないお姫さまと一緒にしないでっ!」


 キルトの指示に、すかさずメリルが抗議する。一方、何もできない、とあからさまにキツい言葉を向けられたクラリスは、もじもじとしながらも、一歩前へ出た。


「……で、できます。わたくしだって、役に立ちますっ」


 と、胸の前で祈るように両手を組むと、静かに、小刻みに、何やら唱え出す。


「え、えと、我らに、その、月の、加護を……シュッツ……モーント・リヒト!」


 と、クラリス以外の三人の体が、一瞬だけ淡い赤色に光った。直後、体の内から力が湧き出してくる。

 どうやら人の体内のマナに作用し、身体能力を向上させる強化魔法のようだった。


 神聖魔法は基本にあるのが回復魔法の治癒だが、その上にいくつか……名称は忘れたが、段階があり、資格のランクごとにどこまで使えるか決まっているらしい。


「へー、驚いた。姫さん祝福もできるのか。こりゃ助かる」


 変化を確認するように、シアが手を握って開いてから、クラリスに微笑みかけた。

 キルトもシアに習って礼を言うと、かぁっとクラリスが赤面し、またもじもじと始まってしまった。


「このくらい……夫を支える、妻の……その、たしなみです」


 と、それを見たメリルが、何か気に入らないことでもあったのか、いきなり仏頂面になる。さらにいち早く駆け出し、大猿鬼の群れに向けて、杖から炎の弾を発射し始めた。

 先端の魔石が大きいからか、ずいぶん炎弾はサイズが大きく、強力そうだった。

 やっぱり魔石じゃないよねあれ……っと、そんなこと言ってる場合じゃない。


「おいこらメリル! 下がってろって! ああもうクソッ! シア!」


 炎弾の命中が開戦の狼煙となる。

 キルトはシアに促してから、先行したメリルを急いで追いかけた。いくら自衛くらいできると言っても、身体能力が高いわけでもない魔術師が、ひとりで大猿鬼に突っ込むなど危険極まる行為である。


「魔王討伐コンビの復活、だな!」


 同じく駆け出したシアがキルトに並び、ニカッと笑ってピッと親指を立てる。と、彼女はスピードを上げてキルトを追い越し、さらに「お先!」などと言いながらメリルをも追い越して、大猿鬼と対峙する。


 そして、二、三度ステップしてから地を蹴り、機械剣がまとう光のブレードで、あっという間に先頭の大猿鬼を豪快に解体した。


「景気付けにまず一匹! さ、次だ次、どんどん行くぜ!」


 明らかな熟達者の動き。英雄、勇者と呼ばれるに足る驚異的な戦闘力は、ひと目見ただけで十分にわかるほどである。

 それなりにできるだろうと思ってはいたが、これはかなり頼れそうだった。


「って、おい待て! 突っ込みすぎだ!」


 しかし、そう思ったのも束の間、シアは一匹倒せば次の標的へ。また倒せば次の標的へ。みるみるうちに洞窟目掛けて突っ込んでいってしまう。

 キルトはイレギュラーを警戒し、ゆっくり進みたかったが、そんなのお構いなしである。

 さらにシアの足は止まらず、今度は洞窟の中まで猪突猛進していってしまったものだから、キルトたちはとにかくそれを追うしかなくなってしまったのだった。

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