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第二章⑧ 案の定?

「ダメ。絶対ダメだよ!」


 善処した結果がこれである。

 帰宅してメリルにことのしだいを話したキルトへの第一声は、予想通りの全否定だった。


「……いや、街のためにもなるんだし、珍しく自分から魔獣退治するって言ってるんだから、別にいいだろ」

「ダメ! シアさんがいくら強くても、ダメ! ふたりっきりなんてダメ!」


 話さなければもっと火が大きくなるのは明白だった。しかし、話しても火は大きくなるとは、まさに八方塞である。


「今日だってお姫様と何してたか、ボクもう知ってるんだからね!」


 と、延々文句を並べていたメリルの話題がふいに逸れた。


「いや、あれは……」


 シアの盛大な誤解を招いた昼の事件を思い出して、キルトは視線が泳いだ。大方、警備隊の誰かがメリルに密告でもしたのだろう。


「とにかくダメ! ダメったらダメ! シアさんだけならともかく、キーくんにそんな危ないことさせられないよ」

「シアにはオーケーしちまったし、もう行くって警備隊の連中にも言っちまったんだから、今更やめらんねーって」


 過去のことはともかく、覚えている範囲で自分で言ったことを反故(ほご)にするのは、キルトの性に合わない。いっそ『勇者は誓いを守る、絶対だ』とかシアのごとく言ってみたらかっこいいかもしれないと思ったが、それもどうかとすぐに思い直した。


「そんなの断ればいいじゃない。キーくんが付き合ってあげる必要なんて……」

「もう決めたんだ。行くのは決定」


 言葉を遮られたメリルは、ムスッと子供っぽくほっぺたを膨らませたかと思うと、背を向けてうつむき、聞こえないくらいの小さな声で何やらぶつぶつと呟き出す。


 いつものあれだ、と、キルトは頭を抱えたくなった。


「……全部ひとりで決めちゃって、ボクにはひとことも相談なし? いつもキーくんのためにがんばってきたのに、そんなのってないよ……。あの勇者の狙いなんてあからさま。姫の件だって、ボクに黙ってホイホイついて行っちゃってさ。キーくんはボクよりあいつらのほうがいいの? そりゃふたりはナイスなわがままボディで、ボクは幼児体型で……胸とか、胸とか……胸……あう……ない……。やっぱり大きくないとダメなの? あれ? じゃあボク、いらない子? ……いら……いらな……あれ?」

「お、おい、メリル? どうしたんだ?」


 何を言っているかはほとんど聞こえなかったが、自分の胸をぺたぺたと触りながら徐々に変化していくメリルのダークな雰囲気に不安になり、キルトは思わず声をかけた。


「嫌。嫌だよ……。もう何なのよあいつら。ちょっとくらい胸があるからって……。でも、小さい方にだって需要は……うう、でも胸以外なら……あ、そっか、胸以外でボクのいいところ見せればいいんだっ。ボクだって、やられっぱなしじゃいられないもんね。ぼんきゅっぼんだけが正義じゃないよね、そうだよね、うん、きっとそう」

「あ、あのー、メリルさん?」


 メリルはまだしばらくブツブツ呟き、今度はまた違った不気味さを醸し出し始めていたが、キルトがもう一度声をかけると、どこか作ったような笑顔で、くるりと振り向いた。


「……うん! じゃあ、ボクも一緒に行くねっ!」

「えちょ、いや、足手まといになるからって警備隊の連中の応援断ったんだぞ? それなのにお前がいたら……」

「自分の身くらい自分で守れるもん! ボクの魔術の腕、知ってるでしょ? それにボク、キーくんが知らない魔術だっていっぱい使えるよ。絶対キーくんの役に立てるもん。ボクのほうが、あんな女たちよりも役に立てるもん!」


 メリルはキルトの言葉を遮って、矢継ぎ早に答えたが、どうも論点がズレている。


「いや、そうではなくてだな……」

「とにかく、行くったら行くのっ!」


 ついさきほど、キルトがメリルの反論を遮ったときのように、メリルが一方的に決定事項を口にした。

 キルトも人のことを言えた義理ではないが、こうなったメリルには何を言っても無駄そうだった。


「応援、頼めばよかったかな……」


 メリルはさっそく何やら家の各所から魔術グッズを集め、準備を始めた。

 警備隊の連中にとってメリルはお嬢……実質的な姫なのだ。これでもしメリルに何かあれば、警備隊の連中が総力を挙げてキルトの殺害を企て兼ねない。


 しかし、一度断っておいてやっぱり、というのは非常に格好悪く、キルトは良しとしない。そもそも本来絶対といってもいいほどやらないことなのである。キルトとて、それはただの意地だとわかってはいたが、短期間に二度もやりたくはなかった。


 シアと決めた魔獣の討伐は三日後。


 キルトはあまりの面倒臭さに頭を掻いた。


 改めて偵察しておいてくれるという警備隊の申し出に少しは感謝したものだったが、彼らのアイドルのおかげで、とんだ(かせ)がついてしまった。


 とはいえ、いまさら文句を言ったところで、キルトが折れない限り何も変わりはしないだろう。

 こういうときは初心に帰るのだと、キルトは自分に言い聞かせる。


 なってしまったものはしょうがない。

 きっとなんとかなる。

 自分が、なんとかすればいいのだ、と。


「面倒臭え……」


 しかし、無意識のうちに口が本音を漏らしてしまうのは止められなかった。

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