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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

トラ転倶楽部~今宵貴方を異世界へ~

作者: 中村悠




いたたたたっ。



って痛くない。

嘘だろ、俺たしか事故に巻き込まれて……って、ここはどこだ。薄暗い見慣れない空間に大勢の人が自分と同じようにキョロキョロと周りを見ている。


ああ、これは死んでしまったんだな。さしずめ向かうは三途の川か。ってことは、あの向こうに見える花畑に向かえばいいのだろう。


そうか、俺、やっぱり死んだのか。せめて思いを伝えたかったな。俺の手は果たして届いたのだろうか。が、死んじまったのは仕方ないと花畑へ向かう列へと歩みを進めた。


 見ればこの流れとは別の光に向かう人、いや魂か?の列がある。花畑に向かうのは見た目日本人っぽい者が多いようだが、と観察していると暗闇の中遠く、薄く光る怪しげな二つの丸い点を見つけた。それに吸い寄せられるようにふらふらと近づく。花畑の列から数人、同じように近づいていく者がいる。その中の一人に知った顔があって、ああ、やっぱり一緒に死んでしまったんだなと思い知らされた。




 車のライトのように見えたものは、店の照明だっだ。

何故にこんなところに店が???と不思議に思うも、扉のノブに手を掛けて回してみる。店の外観を裏切らない、ギギーッと錆びついた音がリアルなのか、夢の中かと混乱させた。皆で顔を見合わせ、店の中に入る。

すると、一人?美しい顔をした人物が立っていた。



「イケメン!」

「可愛い!」

「巨乳だ~」

「ヤンデレ?」



 あれ?おかしいな?みんな見えている姿が違うのか?俺にはケモミミのメイドが見えるのだが。周りも同じ感想を抱いたのだろう。戸惑いの表情を浮かべている。





「いらっしゃい。トラ転倶楽部へようこそ」





「トラ転倶楽部?」





「ええ。ここを見つけた方はこちらの不手際により不慮の事故で寿命を全うできなかった方、それも思い半ば、また転生の存在をご存じの方が導かれるシステムになってます」



「……システムって」



「皆さまが神、と名付け崇められている方の施しにより、ここの存在に気づけた者だけ転生の機会をもうけさせていただいております」



「……」



「ではこちらをご覧ください」



 それぞれの目の前の空間にステータスウィンドウのようなものが開いた。

その光景に驚いていると店の扉がバンッと大きく開いて金髪碧眼の美少女がズカズカと入ってきた。




「申し訳ございません。次の回に入室していただけますか?」



 ケモミミメイドは言ったが美少女はお構いなしに異国の言葉でまくし立てる。

メイドは「ああ」といった表情で少女に手をかざすと、少女が何を話しているのか理解できるようになった。



「ベテラン転生者だから説明の必要はないし、途中のこの回でいいわ。しかし、しばらくぶりにここに来たけど、なにこれ。ステータスウィンドウ?進化したわね。前回来たときは紙だったのに。初めての時は口頭だったことを思えば飛躍的な進歩よね。しかもあんたの格好も面白い」



「はい。こちらに迷い込む方の知識によって格段に進歩いたしました。私の姿も皆さまの好みの異世界転生を可視できるようになっております」


「通りで。でも、だったらその話し方はいただけないわ。私には残虐非道な魔王の容姿に見えるのに」


「申し訳ありません。言葉だけは共通でして」


「ま、いいわ。魔王を従えてる感じがしてこれはこれでいいもの。では本当の魔王を倒しにも一度転生するわ。貴方と会うのはこれが最後だといいけど」




 そういうと彼女はウィンドウを適当に操作し、ウィンドウと共に消えてしまった。







「……えっと、今のでだいたいお分かりいただけましたでしょうか?」



 わかったようなわかりたくもないような。俺の希望がケモミミメイドだということだけは知りたくなかった。




「皆様の無念を転生という形で晴らさせていただきます。転生を希望されない場合、店から出て先ほどの列にお戻りいただければ、それぞれの国のそれぞれの信仰に則った形で処理されます。転生をされる方はウィンドウに表示されております手順に沿って申請をお願いします」





 改めて自分のウィンドウを見てみる。


表示されているものは、

自分の氏名、住所、生年月日、年齢、家族構成、既往歴、現病歴、

そして、死因、だ。


タップして送ると死因について詳しく書かれていた。



タップして送る。

すると、転生先の希望、条件等細かく書かれている。



 なろうの投稿準備みたいだなと、はっと笑った。





転生先


異世界か現実世界かとか


現代か中世かとか


男性主人公かヒロインかとか


冒険かとか恋愛かとかチートとか……



 項目は細部までこだわっていて、見ているうちに転生が楽しくなりそうなそんな気さえしてくる。




 転生のキーワードも15も登録できるし下の方には備考欄もあって、自分で好きなように記述もできるようだ。これでチート転生、万々歳だな。



 だが、その下の、最後の一文に目が留まる。



□ 転生後トラ転倶楽部の記憶は削除し、また転生後の生活はデータとして収集・分析され今後のトラ転に活用されることに同意する。







 ???さっきの金髪碧眼美少女は何度もここへきていると言った。これはどういうことだ。

だが俺が疑問で頭を悩ませている間に周りの人間たちは次々に空間へと消えていった。喜びの声と共に。残っている人間は僅か数人だけ。

みんな真剣に悩んでいるようだ。そりゃそうだ、ノリと能天気な輩はすぐに転生していった、どこかに。だけど……。


 ここにきて、ようやく俺は見知った顔の女性に声を掛けた。







「遥さんとここで会うとは思わなかった」



「うん」





「転生もの、知ってるとは意外だったな」


「そう?朝夕の通学の電車の中じゃ結構読んでるよ、こっそりとね。利行くんのラノベ好きは有名だもんね」




「ね、最後の文、読んだ?」


「うん。なんかおかしいよね」



「記憶がなくなるならさっきの美人さんはどうしてここのこと覚えているんだろ?」


「本当に記憶無くなるのかな?だってさ、転生前の記憶が呼び起こされるのって、トラ転あるあるだよね?女神さまによって転生させてもらったーとかなんとか」


「そもそもシステムとか、分析とか収集とかって。ここってほんとに死後の世界?」




 二人がひそひそと話しているうちに他の人たちはいつの間にか消えていった。残るは俺達二人だけだ。




「ちなみに利行くんにはあの案内人、何に見えてるの?あっ、言いたくないんならいいけど、全然」



 ここで躊躇ってしまったら余計に変な空気になる。何てことなさそうに精いっぱい装って俺は堂々と告げた。



「ケモミミのメイドさん。めっちゃ可愛い」



 頑張って普通を演出しましたが、いかがでしょうか?キモかったでしょうか?

だけど、不安な眼をみせてはならない。気取られてはいけないのだ。






「……意外に普通だった」


「ってなんだよそれ。俺、どんだけキモいイメージなんだよ」


「いやいやいやいや、キモいとかじゃなく、なんていうの?玄人?」


「それもどうかと思う」


「ももっと、さ、こ、こう、にゅるっとかどろっとか」


「それエロいのじゃん。ふーん、遥さんってそういうの読むんだ」


「ち違う、タイトルとかなんか、目にするじゃん。いかにも男の人が好きそうなエッロいなっがーいタイトルとか、あらすじとか」


「ふーん。そういうことにしておいてもいいけど。で遥さんには案内人はどう見えてるの?ま、言わなくてもいいけどね」


「い、言えるわよ。も、モフモフのフワフワの、巨大な、ねこ」


「ねこかい!」


「ね、びっくり。熊とか狼じゃないんだーって」



「……あ、のー。盛り上がっているところ非常に申し訳ないのですが」


「「はい」」


「そろそろ次の方たちがやってきてしまいます。転生するならお早めにお願いします」




「……ってか、ちょっと聞きたいんだけどさ。記憶ってさ、ほんとに消えんの?なんでさっきのおねえさんは、ここの店のこと覚えているわけ?」



「そ、それは……」



「いったん消えるけど、思い出すシステム?」


「そもそも俺たちのデータ、何に活用されんの?」


「悪用されてたら、嫌だな」


「っつか、神って誰?」


「なんでわたしの異世界願望がモフモフとわかっちゃうの?」


「俺のケモミミとメイドもだ」


「……ケモミミとメイド、別々の願望なんだ」


「……っ、だ、黙ってないでなんか言えよ」




「このシステムを作られたのは、あなた方の概念では神と呼ぶのが一番近いかと思われます。データの活用は、神の采配としか。

異世界願望につきましては、なろうシステムが吸い上げたものを分析し展開いたしました」


「なろうシステム?」


「はい。転生者になろうシステムです。あなた方の検索閲覧履歴からわたしは作り出されております」


「そんな勝手なことしていいのかよ」


「勝手、と申されましても。プログラムによって皆様に生命を与えたものがどのようにしようが自由でしょう。神は人がどのような行動をとるのかを楽しく観察されております。そして、ただ生まれただ無くなるよりも転生というシステムにより人が何をやり直したいのか知ることを喜びとしております。もちろん転生という概念を生み出した人間種にそれなりの敬意を払っておりますよ、ええ」


「先ほどのおねえさんは、なんなの?」


「そちらの言葉では、デバッガー、のようなものでしょうか。ご本人様はお気づきではないようですが」


「俺達が転生したら、前世の記憶は甦るの?」


「それらは全て、ウィンドウに登録した内容によりますので。……申し訳ありませんが、お時間がもうありません。扉を開けて戻られるか、今すぐに申請するかお決めください」




 俺は遥と顔を見合わせた。




「ねえ、遥さんの思い半ばって、何?」


「え?いきなりどうしたの?時間ないのに」


「俺の心残りは、遥さんを助けられなかったこと、遥さんに告れなかったこと、遥さんと恋人になって結ばれたかったこと。それらが叶うなら転生したい。モフモフの巨大猫になったっていい」



「……わたしの心残りは、差し出してくれた手に届かなかったこと。

利行くんとラノベの話がしたかった。一緒に異世界について盛り上がりたかった。登下校の電車で、肩を並べて一つのスマホを一緒に見て……」



「……俺たち、まだ間に合う。二人で一緒にやり直そう」


「うん!」


 慌てて、同じ世界に転生すべく登録をする。これで二人で新しい人生をやり直すのだ。俺達は見つめ合い手を握ったまま、ウィンドウと共に消えた。









******









 誰もいなくなった空間に一人佇む案内人。




「今回はイレギュラーがすぎましたね。

デバッガーが順番を待たずに入室したことと、それと種の違うデバッガー同士がここで鉢合わせしてしまうと思いもかけない方向へ話が進んでいくのですね。ふふ、知能というものは飽くことがない。

おかげでデータも取れたからまあいいでしょう」





ん、次の回の人たちが来たようですね。





「いらっしゃい。トラ転倶楽部へようこそ」







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