浮気は心が死ぬ
部屋に入ってすぐ、スーツも脱がず俺は自分のベッドに横になる。
真弥の浮気。相手は、真弥の元カレ。よくある話だ。
ありすぎて食傷気味なくらい。
でもね、正直なところ、わからないことだらけなんだ。
…………
なんてね、わかってる。
真弥がそれほど俺のことを好きではないということは。
友達の紹介で真弥とは知り合った。
真弥は彼氏と別れたばっかりだったらしく、あまり乗り気ではなかったようだけど、友人のセッティングに顔だけを立てるつもりだったらしい。
でもね、俺はもう一目ぼれして、嫁にする女性は真弥以外に考えられなかったからさ。そりゃもう必死で口説いたよ。
あまりの必死さに前髪が五ミリほど後退したくらい。
日々頭部の最前線が後退していく俺のことを気遣ってくれたのか、真弥が結婚を前提とした俺のプロポーズを受け入れてくれるまでに、それほどの苦労はなかった。
だが、結婚してからも、俺と真弥の間の温度差は激しく。
愛妻家とまわりから冷やかされる俺を、真弥は真剣に見つめてくれなかったように思う。
でもね。
モテない男であると自覚している俺は、真弥に愛してもらおうと必死だったよ。
誕生日とかだけでなく、日ごろから「結婚してくれてありがとう。愛してる」と歯の浮くようなセリフを毎日毎日嫌がられるほどに真弥に伝えてた。
だけど真弥は、「わたしも愛してる」とは言ってくれなかったんだ。
その温度差は、浮気という形で明確になる。
結婚してもしばらくは共働きだったんだけど、やたら飲み会が多かったり、やたら出張が増えたりとかね。
確信したのは、結婚記念日のことすら忘れてたときだ。
一年目の記念日にもかかわらず、真弥は残業とかで家を空け、帰宅したのは日付が変わってからだった。
打ちひしがれた俺は、とある日に隙を見て真弥のスマホをのぞき見し、そのまま打ちひしがれてしまう。
俺の何がいけなかったのか。
俺にとって真弥は世界で一番大事な相手だ。だからこそ、気持ちを与え続けてきた。大事に大事にしてきた自負はある。
だが、それは真弥にとって、必要なものじゃなかった。
浮気をした理由はそれだけなんだろう。
その時の俺は、真弥を好きな気持ちがスーッと引いていく感じを、どこか他人事のように分析していた。
そこからはありきたりだ。
いろんなところへ依頼し浮気の証拠をつかみ、真弥の両親も呼んで大暴露大会。
真弥を激しく叱る義両親を見ても、むなしいだけだった。
『違うの、違うの! 誤解なの!』
そう言い訳する真弥に対し、嘲笑を浮かべるだけだった俺。
いやー、本当に言うんだな、浮気がバレて『違うの!』って。
誤解ではない証拠を提出し、泣きわめきながら謝罪してくる真弥を援護するべく。
『一時の気の迷いに違いない。どうかやり直してほしい』
義両親も必死で懇願してきた。
必死に突っぱねる俺だったが、オヤジやおふくろまで真弥の肩を持ち始めやがって、俺は哀れにも孤立無援。
最後には争うような気力も全部萎え、やり直すことを受け入れた。
が、本当に失敗だったと言わざるを得ない。
いやだってさ、すぐに浮気するくらいなら、なんで俺と結婚したのよ?
俺、ATM扱いされるような給料もらってないしさ。
俺の心は、相変わらず死んだままだ。