第05話「絶吼の狂戦士」
・今までのあらすじ
戦いの中、右腕と共に先輩の女性を失った少年、カイム。だが、再び首都が襲われる中、彼の前に死んだはずの先輩セシリアが現れた!? よく見れば別人だが、酷似した顔立ちの少女は、彼を半ば無理矢理に引きずり込む……謎の新兵器、全高7mの巨人『屍棺機龍』へ! しかし、アクシデントが二人を襲う!
警告音と赤い光の中で、必死にカイムは手を伸ばす。
座席の上では今、うなだれたようにアディータが動かない。それでも、彼女の両手はまだレバーを握っていた。
唯一残った左手を、小さな少女の手に重ねる。
屍棺機龍の操縦などわからないが、このままでは落ちてしまう。浮島のどこかに降りられればいいが、その下にはなにもない空間がどこまでも続いているのだ。
「くっ……とにかく、立て直さないと。アディータさん、起きてくださいっ!」
どうやら、先程の衝撃で頭部を強打したようだ。
苦悶の表情で眉根を寄せて、アディータは額から血を流している。
そんな彼女に密着しながら、揺れる操縦席でカイムはレバーを握った。
先程、横から見ていてなんとなくフィーリングはわかる。どういう理屈かはわからないが、ボタンがずらり並んだ左右一対のレバー……これだけの操作で、この屍棺機龍は複雑な動きを全てこなしているようには思えない。
だが、今は試すしかない。
カイムにはそう思えた。
直感と、あとは横で見てて感じたことが全てだ。
「とりあえず、レバーを引いてみる……上昇を!」
意外に重い手応えに、握る手に力がこもる。
レバーを、手前へ引く。
強く、ゆっくりと倒す。
感覚的には、上昇する際にアディータがそういう操作をしていたような気がする。肺腑が浮き出すような無重力状態の中、必死でカイムは力を振り絞った。
そんな彼の脳裏に、去ってしまった優しい声が蘇る。
『カイムってさ、君さあ……やっぱ天才だよね。フッフッフ、おねーさんにはお見通しだぞ?』
セシリアの声が聴こえた気がした。
それはもう、自分の胸の奥で永遠になってしまった筈だ。
死んだ人間は生き返らない……セシリアは死体さえ残らなかった。
だが、すぐ側にその面影が、アディータという名の少女となって存在する。彼女がお姉ちゃんと呼ぶのは、恐らくセシリアなのだろう。
『君は、洞察力と判断力がジバ抜けてる! ま、まあ、私もいい線いってるけどね。でも、君は良し悪しを見抜いて最善手を見つけ出し、実行する決断力があるって感じ?』
そういえば昔、セシリアがそんなことを言っていた気がする。
互いの竜の世話をしながらの、激戦の合間の穏やかな時間。
いつもなにかと姉貴面して、セシリアはカイムに構ってきた。休日の日など、宿舎に押しかけ洗濯や掃除までしてくれたのだ。自分でできると言っても、彼女は笑うだけだった。
思えば、竜騎兵団でセシリアだけが、偏見も警戒心もなく接してくれた気がする。
16歳の若さで竜騎士となったカイムは、誰からも距離を置かれていたから。
『私、さ……結構助かってる。だからカイム、いい? 君は他のみんなもきっと助けられる。力になれるし、やがて必要とされて一人前になるんだ。ふふ、私のこういうのって、当たるんだぞ?』
懐かしい声が去っていく。
そしてカイムは、気付けば絶叫を張り上げていた。
そんな彼の視界に、敵が迫る。
態勢を崩して落ちる屍棺機龍へと、エクシアス級のメタドロンが迫っていた。放たれた弾丸が、装甲の上でカンカンと歌う。
これは、竜騎士だった頃に受ければ致命傷になりかねない射撃攻撃。
竜の上に生身で乗る竜騎士は、どんなに甲冑を着てても蜂の巣になってしまう。
だが、屍棺機龍は全くの無傷。
その揺るがない防御力が、カイムを冷静にさせた。
「片方のレバーだけじゃ駄目なのか……でも、ここをこうして。さっき、弓矢を使う時に確か……」
メインのレバーに寄り添うように伸びる、小さなコックレバーを倒す。
同時に、並ぶボタンをゆっくり押し込み、力を込める。
屍棺機龍の視界に、厳つい右手がゆっくりと伸びた。
それは、こちらを切り裂くべく迫る刃を掴んだ。
火花が散って、金切り声が響く。
エクシアス級は、メタドロンの中でも数で押すタイプの雑兵だ。その鋭利な翼は、触れる全てを容易く両断する。
だが、その翼を屍棺機龍が鷲掴みにしていた。
肉薄の距離に敵を睨んで、猛るカイムが絶叫する。
「うおおおおっ! こいつを掴んで、潰すっ! ただ、まだ浮いててもらうっ!」
鋭い爪の並んだ五指が、バキバキとエクスシア級の翼を蝕んだ。
まるで紙屑でも握り潰すように、あっさりと掴む。
それでエクスシア級はバランスを崩したが、足掻いて藻掻くように飛び続ける。
そうこうしてる間に、頼もしい声が蘇った。
「イチチ……気絶してた? にしても、いい気迫じゃない! そしてっ、お前はもういい、落ちろおおおおおっ!」
不意にガクン! と、巨体が浮かび上がる衝撃が伝わった。
意識を回復したアディータが、密着してくる。
二人で座席に重なりながら、気持ちを一つにレバーを押し込んだ。
背の翼を翻すや、屍棺機龍は腰の剣を抜刀する。その切れ味たるや、バターのようにエクスシア級の装甲が切り裂かれた。そのまま敵は、爆発の花を咲かせてる。
その時にはもう、脚でその残骸を蹴って屍棺機龍は上昇していた。
「凄い……これが屍棺機龍の、力」
「クソッ、弓を落とした! ……って、アンタ! いつまで張り付いてんのよっ!」
「あっ、ご、ごめん」
「ったく……でも、どうやって? アタシ、何秒位寝てた?」
「いや、ほんのちょっと。でも、動かし方が半端にしかわからなくて」
「ふーん。ま、噂通りね……お姉ちゃんの言う通り、か」
手の甲でグイと、アディータは額の流血を拭う。
そして、そのまま再びカイムを後ろに下がらせると、愛機に加速を命じた。その操作も一挙手一投足を見ていたが、まだわからないことが沢山ある。
やはり両手のレバーだけで動かしてる訳ではないようだ。
ガチャガチャと忙しくアディータは、複雑なボタンの組み合わせでレバーを手繰る。
二人を載せた屍棺機龍は、次々と剣でメタドロンを墜としていった。
「……あのさ、アンタ。カイムだっけ?」
「は、はい」
「もう気付いてると思うけど、セシリア・アーベントはアタシの姉よ」
「それで、お姉ちゃん、って」
「ま、アーベント家は由緒ある騎士の一族だけど、アタシは落ちこぼれ。この脚じゃ、ね」
ちらりとカイムは、アディータの両脚を見た。
太腿の中ほどから、機械で座席に繋がっている。つまり、両脚がないのだ。
そして、先程のイデヤを思い出す……彼女に至っては、両手両足が義手義足だったのだ。
「もしかして……脚を?」
「生まれつきそういう病気でさ。最後には、切れって言われた。でもっ! この力があればアタシも戦える! お姉ちゃんの仇を、取るんだからああああああっ!」
激しく不規則な機動で、屍棺機龍が天を引き裂く。
アディータは次々と、メタドロンを撃墜していった。
この時代、竜騎兵団の戦いは近接戦闘がメインだ。固い金属の肉体を持つメタドロンは、弓や大砲では倒せない。当てるのも至難の技で、装甲を抜くには近付くしかない。
高速で動くメタドロンを確実に仕留めるには、援護射撃で動く範囲を削り取り、竜騎士が竜に乗って格闘戦を挑むのが定石である。
人類は常に、他者と連携して戦うことでしか抗えない。
だが、屍棺機龍はその戦術概念をひっくり返す恐るべき新兵器だった。
「アディータさんっ、右下! 本島への直撃コースにスローンズ級が! 数は3!」
「あーもぉ、忙しい! しっかり踏ん張ってなさいよ!」
アディータが急降下で風に乗る。
あっという間にカイムは、狭い部屋の壁に押し付けられた。
自在に空を舞う竜でさえ、これだけの加速で飛ぶことは稀だ。
屍棺機龍……果たして、いかなる技術がこの過激な性能を実現させているのか? そんな疑問よりも先に、カイムはわかり始めていた。理解が進む程に、確信を得る。
「……この力があれば、僕もまた戦える」
「ん? なにか言った? てゆーか、耳元で喋らないで! 気が散るっ!」
「アディータさん、あれは? 奴らの向かう先に、妙な風が」
「風? ああ、竜騎士って風が見えるってやつ……目、いいんだ。それより――」
不意に、巨大なスローンズ級の編隊が速度を緩めた。
巨体を揺るがし旋回しようとした先で、逆巻く気流の中から何かが飛び出してくる。
それは、死神……否、断罪の堕天使。
両手に大鎌を構えた、もう一騎の屍棺機龍だった。
そして、怒りと嘆きの声が響く。
『あああああああっ! メタドロン……殺すっ、倒す! 残らず駆逐し、殲滅する!』
まるで獣のような咆哮だった。
そしてそれは、様変わりしてしまったイデヤの声だった。
先程の可憐で儚げなイメージが、燃え盛る憎悪の炎に消えてゆく。
そう、憎しみだ……身を裂くように叫ばえる声には、煮え滾る憎しみに燃えていた。
「イデヤ、さん?」
「あっちゃ……ま、あれなら心配ないわね」
「え、いや、だってあれ」
「いつもイデヤはああなの。さ、それより残敵を掃討するわ。……本土にとうとう来たのね、連中。忙しくなるかも」
カイムは目撃した。
それはまさに、悪鬼羅刹の如き戦いの権化。
イデヤの屍棺機龍は、暴力的な加速で次々とスローンズ級を真っ二つにしてゆく。手にした得物は次々と、力任せに翼を断ち割ってゆく。
背に竜の翼を広げた、破壊の奔流となって暴れ回る。
だが、不思議とカイムは胸の奥が疼痛に軋る。
吼え荒ぶイデヤの声は、どこか泣き叫んでいるようにカイムには聴こえていたのだった。
この小説は、遥かな未来で地球の少年と火星の少女が巡り会い、太陽系の星々の運命が巡り回る『オービタルエリス』の提供でお送りします。
オービタルエリス:jukaito著
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宇宙の神話が動き出す……超本格派SF、少年少女が手にする力の意味とは!?
・次回予告
激しい戦闘をくぐり抜け、どうにかカイムはアディータと生き残れた。
しかし、リヴァリース皇国は初めて首都の襲撃を受けた……
それは、さらなる戦いを予感させ、不安で心を冷えさせる。
それでも生還したカイムが見たのは、イデヤの意外な姿だった。
次回、第06話「虚ろなる魂の御座」
――汝、人を象る龍となれ!




