表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フルメタル・ドラグーン  作者: 長物守
5/33

第05話「絶吼の狂戦士」

・今までのあらすじ


 戦いの中、右腕と共に先輩の女性を失った少年、カイム。だが、再び首都が襲われる中、彼の前に死んだはずの先輩セシリアが現れた!? よく見れば別人だが、酷似した顔立ちの少女は、彼を半ば無理矢理に引きずり込む……謎の新兵器、全高7mの巨人『屍棺機龍』へ! しかし、アクシデントが二人を襲う!

 警告音(アラート)と赤い光の中で、必死にカイムは手を伸ばす。

 座席の上では今、うなだれたようにアディータが動かない。それでも、彼女の両手はまだレバーを握っていた。

 唯一残った左手を、小さな少女の手に重ねる。

 屍棺機龍(ドラグレイヴ)の操縦などわからないが、このままでは落ちてしまう。浮島(うきじま)のどこかに降りられればいいが、その下にはなにもない空間がどこまでも続いているのだ。


「くっ……とにかく、立て直さないと。アディータさん、起きてくださいっ!」


 どうやら、先程の衝撃で頭部を強打したようだ。

 苦悶(くもん)の表情で眉根(まゆね)を寄せて、アディータは(ひたい)から血を流している。

 そんな彼女に密着しながら、揺れる操縦席でカイムはレバーを握った。


 先程、横から見ていてなんとなくフィーリングはわかる。どういう理屈かはわからないが、ボタンがずらり並んだ左右一対のレバー……これだけの操作で、この屍棺機龍は複雑な動きを全てこなしているようには思えない。

 だが、今は試すしかない。

 カイムにはそう思えた。

 直感と、あとは横で見てて感じたことが全てだ。


「とりあえず、レバーを引いてみる……上昇を!」


 意外に重い手応えに、握る手に力がこもる。

 レバーを、手前へ引く。

 強く、ゆっくりと倒す。

 感覚的には、上昇する際にアディータがそういう操作をしていたような気がする。肺腑(はいふ)が浮き出すような無重力状態の中、必死でカイムは力を振り絞った。

 そんな彼の脳裏に、去ってしまった優しい声が蘇る。


『カイムってさ、(きみ)さあ……やっぱ天才だよね。フッフッフ、おねーさんにはお見通しだぞ?』


 セシリアの声が聴こえた気がした。

 それはもう、自分の胸の奥で永遠になってしまった(はず)だ。

 死んだ人間は生き返らない……セシリアは死体さえ残らなかった。

 だが、すぐ側にその面影(おもかげ)が、アディータという名の少女となって存在する。彼女がお姉ちゃんと呼ぶのは、恐らくセシリアなのだろう。


『君は、洞察力(どうさつりょく)と判断力がジバ抜けてる! ま、まあ、私もいい線いってるけどね。でも、君は良し悪しを見抜いて最善手を見つけ出し、実行する決断力があるって感じ?』


 そういえば昔、セシリアがそんなことを言っていた気がする。

 互いの竜の世話をしながらの、激戦の合間の(おだ)やかな時間。

 いつもなにかと姉貴面(あねきづら)して、セシリアはカイムに構ってきた。休日の日など、宿舎に押しかけ洗濯や掃除までしてくれたのだ。自分でできると言っても、彼女は笑うだけだった。

 思えば、竜騎兵団(りゅうきへいだん)でセシリアだけが、偏見も警戒心もなく接してくれた気がする。

 16歳の若さで竜騎士となったカイムは、誰からも距離を置かれていたから。


『私、さ……結構助かってる。だからカイム、いい? 君は他のみんなもきっと助けられる。力になれるし、やがて必要とされて一人前になるんだ。ふふ、私のこういうのって、当たるんだぞ?』


 (なつ)かしい声が去っていく。

 そしてカイムは、気付けば絶叫を張り上げていた。

 そんな彼の視界に、敵が迫る。

 態勢を崩して落ちる屍棺機龍へと、エクシアス級のメタドロンが迫っていた。放たれた弾丸が、装甲の上でカンカンと歌う。

 これは、竜騎士(ドラグーン)だった頃に受ければ致命傷になりかねない射撃攻撃。

 竜の上に生身で乗る竜騎士は、どんなに甲冑を着てても(はち)の巣になってしまう。

 だが、屍棺機龍は全くの無傷。

 その揺るがない防御力が、カイムを冷静にさせた。


「片方のレバーだけじゃ駄目なのか……でも、ここをこうして。さっき、弓矢を使う時に確か……」


 メインのレバーに寄り添うように伸びる、小さなコックレバーを倒す。

 同時に、並ぶボタンをゆっくり押し込み、力を込める。

 屍棺機龍の視界に、(いか)つい右手がゆっくりと伸びた。

 それは、こちらを切り裂くべく迫る刃を(つか)んだ。

 火花が散って、金切り声が響く。


 エクシアス級は、メタドロンの中でも数で押すタイプの雑兵だ。その鋭利な翼は、触れる全てを容易(たやす)く両断する。

 だが、その翼を屍棺機龍が鷲掴(わしづか)みにしていた。

 肉薄の距離に敵を睨んで、(たけ)るカイムが絶叫する。


「うおおおおっ! こいつを掴んで、潰すっ! ただ、まだ浮いててもらうっ!」


 鋭い爪の並んだ五指が、バキバキとエクスシア級の翼を(むしば)んだ。

 まるで紙屑(かみくず)でも握り潰すように、あっさりと掴む。

 それでエクスシア級はバランスを崩したが、足掻(あが)いて藻掻(もが)くように飛び続ける。

 そうこうしてる間に、頼もしい声が蘇った。


「イチチ……気絶してた? にしても、いい気迫じゃない! そしてっ、お前はもういい、落ちろおおおおおっ!」


 不意にガクン! と、巨体が浮かび上がる衝撃が伝わった。

 意識を回復したアディータが、密着してくる。

 二人で座席に重なりながら、気持ちを一つにレバーを押し込んだ。

 背の翼を(ひるがえ)すや、屍棺機龍は腰の剣を抜刀する。その切れ味たるや、バターのようにエクスシア級の装甲が切り裂かれた。そのまま敵は、爆発の花を咲かせてる。

 その時にはもう、脚でその残骸を蹴って屍棺機龍は上昇していた。


「凄い……これが屍棺機龍の、力」

「クソッ、弓を落とした! ……って、アンタ! いつまで張り付いてんのよっ!」

「あっ、ご、ごめん」

「ったく……でも、どうやって? アタシ、何秒位寝てた?」

「いや、ほんのちょっと。でも、動かし方が半端にしかわからなくて」

「ふーん。ま、(うわさ)通りね……お姉ちゃんの言う通り、か」


 手の甲でグイと、アディータは額の流血を拭う。

 そして、そのまま再びカイムを後ろに下がらせると、愛機に加速を命じた。その操作も一挙手一投足を見ていたが、まだわからないことが沢山ある。

 やはり両手のレバーだけで動かしてる訳ではないようだ。

 ガチャガチャと忙しくアディータは、複雑なボタンの組み合わせでレバーを手繰(たぐ)る。

 二人を載せた屍棺機龍は、次々と剣でメタドロンを()としていった。


「……あのさ、アンタ。カイムだっけ?」

「は、はい」

「もう気付いてると思うけど、セシリア・アーベントはアタシの姉よ」

「それで、お姉ちゃん、って」

「ま、アーベント家は由緒ある騎士の一族だけど、アタシは落ちこぼれ。この(あし)じゃ、ね」


 ちらりとカイムは、アディータの両脚を見た。

 太腿(ふともも)の中ほどから、機械で座席に繋がっている。つまり、()()()()()()()

 そして、先程のイデヤを思い出す……彼女に至っては、両手両足が義手義足だったのだ。


「もしかして……脚を?」

「生まれつきそういう病気でさ。最後には、切れって言われた。でもっ! この力があればアタシも戦える! お姉ちゃんの(かたき)を、取るんだからああああああっ!」


 激しく不規則な機動で、屍棺機龍が天を引き裂く。

 アディータは次々と、メタドロンを撃墜していった。


 この時代、竜騎兵団の戦いは近接戦闘がメインだ。固い金属の肉体を持つメタドロンは、弓や大砲では倒せない。当てるのも至難の技で、装甲を抜くには近付くしかない。

 高速で動くメタドロンを確実に仕留めるには、援護射撃で動く範囲を削り取り、竜騎士が竜に乗って格闘戦を挑むのが定石(セオリー)である。


 人類は常に、他者と連携して戦うことでしか(あらが)えない。

 だが、屍棺機龍はその戦術概念(ドクトリン)をひっくり返す恐るべき新兵器だった。


「アディータさんっ、右下! 本島への直撃コースにスローンズ級が! 数は3!」

「あーもぉ、忙しい! しっかり踏ん張ってなさいよ!」


 アディータが急降下で風に乗る。

 あっという間にカイムは、狭い部屋の壁に押し付けられた。

 自在に空を舞う竜でさえ、これだけの加速で飛ぶことは(まれ)だ。

 屍棺機龍……果たして、いかなる技術がこの過激な性能を実現させているのか? そんな疑問よりも先に、カイムはわかり始めていた。理解が進む程に、確信を得る。


「……この力があれば、僕もまた戦える」

「ん? なにか言った? てゆーか、耳元で喋らないで! 気が散るっ!」

「アディータさん、あれは? 奴らの向かう先に、妙な風が」

「風? ああ、竜騎士って風が見えるってやつ……目、いいんだ。それより――」


 不意に、巨大なスローンズ級の編隊が速度を緩めた。

 巨体を揺るがし旋回しようとした先で、逆巻く気流の中から何かが飛び出してくる。

 それは、死神……(いな)、断罪の堕天使(ルシフェル)

 両手に大鎌(デスサイズ)を構えた、もう一騎の屍棺機龍だった。

 そして、怒りと(なげ)きの声が響く。


『あああああああっ! メタドロン……殺すっ、倒す! 残らず駆逐し、殲滅する!』


 まるで(けもの)のような咆哮(ほうこう)だった。

 そしてそれは、様変わりしてしまったイデヤの声だった。

 先程の可憐(かれん)(はかな)げなイメージが、燃え盛る憎悪(ぞうお)の炎に消えてゆく。

 そう、憎しみだ……身を裂くように叫ばえる声には、煮え(たぎ)る憎しみに燃えていた。


「イデヤ、さん?」

「あっちゃ……ま、あれなら心配ないわね」

「え、いや、だってあれ」

「いつもイデヤはああなの。さ、それより残敵を掃討するわ。……本土にとうとう来たのね、連中。忙しくなるかも」


 カイムは目撃した。

 それはまさに、悪鬼羅刹(あっきらせつ)(ごと)き戦いの権化(ごんげ)

 イデヤの屍棺機龍は、暴力的な加速で次々とスローンズ級を真っ二つにしてゆく。手にした得物(えもの)は次々と、力任せに翼を断ち割ってゆく。

 背に竜の翼を広げた、破壊の奔流(ほんりゅう)となって暴れ回る。

 だが、不思議とカイムは胸の奥が疼痛(とうつう)(きし)る。

 ()(すさ)ぶイデヤの声は、どこか泣き叫んでいるようにカイムには聴こえていたのだった。

この小説は、遥かな未来で地球の少年と火星の少女が巡り会い、太陽系の星々の運命が巡り回る『オービタルエリス』の提供でお送りします。


オービタルエリス:jukaito著

https://ncode.syosetu.com/n6181df/

宇宙の神話が動き出す……超本格派SF、少年少女が手にする力の意味とは!?




・次回予告


 激しい戦闘をくぐり抜け、どうにかカイムはアディータと生き残れた。

 しかし、リヴァリース皇国は初めて首都の襲撃を受けた……

 それは、さらなる戦いを予感させ、不安で心を冷えさせる。

 それでも生還したカイムが見たのは、イデヤの意外な姿だった。


 次回、第06話「虚ろなる魂の御座」


 ――汝、人を象る龍となれ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ