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フルメタル・ドラグーン  作者: 長物守
32/33

第32話「人よ、大地を還せ」

・今までのあらすじ


 大地と海を失った、空だけの世界で少年は生きていた。

 名は、カイム……一度は竜騎士としての戦いを失った男だ。

 だが、謎の人型機動兵器、屍棺機龍を得て彼は戦いを再開する。

 頼れる仲間と共に、謎の敵メタドロンから人々を守るのだ。

 そんな彼が遭遇した、旧世紀の真実、千年前の破滅の正体。

 そこに連なる敵との戦いを経て、その先を見据えてカイムは翔ぶ!

 完全に機能を停止して(なお)も、アダムは人の姿を残していた。

 だが、その全身は白い装甲が溶けて煙を(くゆ)らしている。ジークヒルトの双頭(そうとう)から放たれたブレスが、渦巻(うずま)き火炎の螺旋(らせん)となって炸裂したからだ。

 それでも、胸部が左右に割れると……その奥からなにかが持ち上がってくる。

 肉眼で目撃して、カイムは言葉を奪われた。


「そ、そんな……セシリア先輩っ!」


 確かにあの声は、アダムから発せられていたのだ。

 最初は本人としか思えぬ口調で、その息遣いさえ本物以上に本物だった。

 それが、失われてからずっと求めていた、取り戻したいものだったから……その気持ちを否定しても、戦いの中に迷いと戸惑いを完全には忘れられなかった。

 その答えが、目の前にある。


『カイム……たす、けて……私、まだ……生きてる、ぞ?』


 アダムの中から現れた、それは円筒状のカプセルだ。透明な硝子(ガラス)に取り巻かれて、薄荷色(はっかいろ)の溶液が満たされれている。

 そして、そこにはセシリアが浮いていた。

 一糸(いっし)まとわぬ全裸の姿が、髪だけを揺らして(たたず)んでいた。


「セシリア先輩がやっぱり? じゃあ、僕は」

『痛かった……酷いよ、カイム。ずっと、助けて、ほしかった、のに』


 取り返しのつかないことをした。

 罪悪感が一気に、自分を咎人として貫く。

 常軌を逸した機動性能に、人間には耐え(がた)い加速……アダムにセシリアは乗っていないと判断した。そもそも、もうセシリアはこの世にいないと思ったのだ。

 死んだ人間は、決して生き返りはしない。

 それでも、死そのものを否定したくなるほどに、彼女の声は誘惑的だった。


『こっちに、来て……ね、もっと近くて……話そ? 君の、顔……近くで』


 思わずカイムは、右腕で繋がったジークヒルトとの接続を切った。そうして義手をはめるのも忘れ、操縦席から出ようとしてしまう。

 (つがい)の竜の頭が、それぞれ警戒心に(のど)を鳴らしていた。

 それでも、ついついカイムは騎体を降りそうになった。

 だが、砲声が響いて着弾の砂煙が上がる。

 力尽きたアダムのすぐそばに、上空からの射撃が炸裂した。


『ちょっとカイム! 目を覚まして! アンタねえ……いつもの余裕はどうしたのよ! よく見て……あれがお姉ちゃんなの?』


 アディータだ。

 彼女の弐號騎(にごうき)が、再度発砲した。

 先程より近い場所に砲弾が炸裂して、土砂が宙へと舞い上がる。


「アディ、でも、あれは」

『だから、よく見ろっての! お姉ちゃんは死んだの! ……そう、死んだ。今日、また殺された。だから、お姉ちゃんが死ぬのはこれで最後にしなきゃ……カイムッ!』


 アディータの声が、カイムに冷静さを取り戻させてくれた。

 そして、深呼吸して目の前のセシリアを(にら)む。

 確かに見間違えようがない。あの溶液の中に浮いているのは、セシリアだ。まず、それを客観的な事実として受け入れる。

 その上で、洞察力を励起させれば……すぐに違和感を拾えた。


「……セシリア先輩、だ」

『そうよ、カイム……助けて。また、一緒に……』

「それは、セシリア先輩だ! セシリア先輩だったんだ! それを、お前はぁ!」

『な、なにを……!?』


 まるで瓶詰(びんづ)めの妖精のように、ゆらゆらと髪を揺らして佇むセシリア。

 だが、その瞳はカイムを向いていても、なにも映してはいなかった。

 (つや)めく桜色の(くちびる)は、彼女の声が響いても全く動いていない。

 呼吸すらしていないとすぐにわかった。

 そして、目を凝らせば怒りに全身が総毛立(そうけだ)つ。

 そこに閉じ込められているのは、セシリアの死体だった。


「セシリア先輩は死んだ! 僕を助けようとして……僕の代わりに死んだ! それを、お前たちは……ッ!」

『――ようやく気付いたか。だが、どうする? お前に私が討てるか! この姿を見ても、戦えるか!』


 メタドロンが馬脚(ばきゃく)を現した。

 セシリアは生きていた、これは間違っていた。

 セシリアは死んでいる、乗っていない……これも正しくはない。

 アダムは、その内部に死んだセシリアを内包していたのだ。

 その訳を、饒舌(じょうぜつ)にマシーンが語り出す。


『忘れてはいないか? お前たちは本来の人類ではない……かつて地球だった母星の残骸に残り、人を捨てて竜へと()した者たちとは違うのだ』

「僕たちは……メタドロンが作った、第二の人類」

『そうだ! 本来ならば、聡明(そうめい)思慮深(しりょぶか)く、文化を愛する穏やかな人類になる(はず)だった。それが、トカゲ風情になった者たちによって、下劣な闘争本能に目覚めてしまった』


 まだ、セシリアの声がしていた。

 だが、その口調も声色も、まるで別人だ。

 どこか機械的で、ただ音の波長だけが同じだけの別人だ。

 今ならそう言える……アディータが気付かせてくれた。

 そして、彼女は(さら)に叫ぶ。


『アタシが討つわ、カイムは下がって! お姉ちゃん、ゴメン……アタシがケリをつける。お姉ちゃんだって、カイムに自分を討たせたくはない筈よ!』


 だが、(むな)しく撃鉄がカチン! と乾いた音を立てる。

 弾切れにアディータが(あせ)った、その時だった。

 漆黒の翼が急降下してくる。

 各所に配した朱色は、まるで鮮血のように燃えていた。


『カイム! アディも! 下がって……そういうのはぁ! 私がやるんだあああああっ!』


 逆落としに、イデヤの壱號騎(いちごうき)が降りてきた。

 (いな)、降ってきた……落ちてきた。

 彼女は、大鎌(デスサイズ)の一撃を断頭台(ギロチン)のように振り下ろす。

 あっという間にアダムの胴体が弾け、カプセルは木っ端微塵に割れた。その中に封入されていたセシリアの死体が、もう一度死ぬのがカイムには見えた。

 ビシャリと湿った音が響いて、壱號騎が血に汚れる。


『……ごめん、でも……アディには辛いし、カイムにも死んで、欲しく、なくて』


 イデヤの声は泣いていた。

 なんの面識もないセシリアだから、自分がもう一度殺し直した……それを引き受けて平然としているほど、彼女は感情を凍らせてはいなかったのだ。普段から無愛想(ぶあいそ)で無表情だが、人一倍繊細な一面をイデヤは持っている。

 カイムはゆっくりと操縦席に戻り、右腕を繋げてハッチを閉じた。


「ねえ、イデヤ……気にしないで。ありがとう、セシリア先輩もこれで……だから、ね? お願いだから泣かないで」

『でもっ! 私が、カイムの大事な人を!』

「セシリア先輩は、あの日、あの時、あの瞬間……死んでた。死に終えた。その常理を捻じ曲げた悪意から、イデヤは救ってくれたんだ。だから、泣かないでよ」

『だって! アディもカイムも泣かないから! 私はこうしていると、ただの竜だから……全身で繋がって、竜になってるから。だから、人の気持ちに寄り添えて、なにかできるかもって』


 カイムは、心からイデヤに感謝した。

 そして、アディータにもだ。

 だからこそ、この戦いの最後を勝利で飾りたい。

 アダムとの因縁は決着がつき、悪意が引きずり出したセシリアの死も守られた。

 だからこそ、このままの結末に満足できない。

 いい話だった、気持ちが救われた……そういうレベルでの戦いを求めたつもりはない。


「さあ、イデヤ。泣かないで。アディもね」

『アタシは泣いてないわよ! ……人前じゃ、泣かないわ。泣けないじゃない、イデヤがこんなじゃ』

『ぐすっ、ごめんなさい。私、泣くのをやめなきゃ。まず、やることやってから……全部終わってからぁ! 泣かなきゃ!』


 カイムはジークヒルトを飛び立たせる。

 すぐに仲間にも意志が伝わった。壱號騎と弐號騎を連れて、カイムは浮島(うきじま)の真下へと回り込む。バルティア共和国の首都、その片方の島はもうじき沈む。

 メタドロンたちが下へ下へと押し込んだから、その落下はもう止められない。

 普通ならば、止めようとすら思わないだろう。

 カイムは頭上に見上げる島の底へと、そのままジークヒルトをぶつけた。


「このまま押し上げる! もうこれ以上……大地を失ってたまるか!」

『当たり前でしょ! こんな岩の(かたまり)でも、アタシたちの住む場所、大地なんだから!』

『だから、絶対に沈めさせない! ……見て、カイム。みんなが……ぐっ、あああああああっ! アモンッ、私に力を! 浮かべえええええええっ!』


 アディータの強がりと、イデヤの絶叫も一緒だ。

 そして、沈降を阻もうとするのはカイムたち三騎だけではなかった。

 見れば、周囲に次々と共和国の竜騎士(ドラグーン)が集まり始める。皆、命を預けた竜の翼に()けた。自分の命すらチップにして、前代未聞の大博打(おおばくち)に打って出たのだ。


「メタドロンが大地を沈めて奪うなら、僕たちは戦う! 僕らの空に居場所を取り戻すっ!」


 周囲に次々と、竜騎士が集まってくる。どの竜も、体当たりで羽撃(はばた)き浮島を押し返そうとしていた。だが、あまりに質量差がありすぎる。既にもう、頭上の巨大な岩盤は首都から切り離されているのだ。

 だが、皆の声を、叫びを聴いてカイムは死力を振り絞る。

 メタドロンを倒すだけでは駄目だと、ジークとヒルトが教えてくれた。かつて人だった者たちの、声なき声が伝えてくれたのだ。


流石(さすが)に無理、なの? イデヤ、もう少し踏ん張りなさいよ! アタシ、こんなんじゃ死んでも死にきれないっ!』

『共和国の竜騎士たちも手伝ってくれてる! ぐあああああっ、浮かべえええええええっ!』


 その時、無意識にカイムは愛騎に命じていた。否、祈り願った。

 そして、ジークヒルトは一瞬だけ浮島から離れて……即座に翼を広げるや、肩口から背で己をぶつけてゆく。

 カイムは身を声にして、気迫を叫んでいた。

 双頭の人龍(じんりゅう)は、(あお)(あか)いブレスを真下へ吐き出し……自身が支える巨大な浮島を持ち上げたのだった。

この小説は、近未来ミリタリーSF巨編!翼よ、牙を剥け!『ACES ~極東の翼達~』の提供でお送りします。


ACES ~極東の翼達~:柏沢蒼海著

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881500912

鋼鉄の翼に、無くした「希望」を乗せて……




・次回予告


 亡くし、失う中で戦いは続く。

 失われたその手が、なにを掴んだ?

 戦う力を取り戻して、なにが得られたのだろうか?

 その答えをもう、カイムは知っている。

 守ることで、知っていたと感じるのだ。

 だから今日も、海と大地を忘れた空に風が舞う。


 次回、最終話「新しい朝へ」


 ――汝、人を象る龍であれ!

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