第31話「人と竜との絆」
・今までのあらすじ
大地も海もなく、ただ空に浮島だけが流れ漂う世界。
少年カイムは、負傷により竜騎士としての戦いを失ってしまう。
だが、謎の少女イデヤに導かれるまま、再び彼は洗浄に戻る!
巨大人型兵器、屍棺機龍を通して、多くの仲間と船出するカイム。
そんな彼は、旧世紀の秘密と真実を知り、強敵に遭遇する。
死んだはずのセシリア先輩の声で、殺戮機械のアダムとイヴが迫る!
身体が燃えるように、熱い。
失われた右腕の先が、見えない巨大な力に接続されたかのようだ。
カイムは、灼けるような痛みと共に、それを知覚し、感じていた。
「おおおおおっ! まだだ……まだっ、終わりじゃない!」
砲声が聴こえる。
頭部を失って無防備な参號騎を、アディータの援護射撃が守ってくれているのだ。
同時に、イデヤの絶叫が響く。
まるで泣いている幼子のようだ。
割れ響く嘆きの声が、死神の鎌で風を奏でいた。
やがて、ミシミシと騎体が軋み出す。
リュミアの声が、母艦バハムートの慌ただしいやり取りと共に聴こえてきた。
『カイム君、下がって! もういいわ、十分よ!』
「敵は……奴は! アダムはどこですか、リュミアさん!」
『眼の前、もう避けようにも……お願い、逃げて! 君が拾った命は、こんなとこで捨てていい筈ない!』
だが、カイムは口元に笑みを浮かべた。
そして、感じる。
先程の不思議な筒、あれは剣の柄だ。そして、アディータが叫んだ通りそこから光が刃を形作ったのである。一瞬で参號騎の頭部は、刺し貫かれて蒸発した。
その膨大な熱量を、甲殻と鱗を通してカイムは今、感じていた。
目の前の熱源、つまりそれがアダムだ。
徐々に、参號騎の金属部分がひしゃげ、ボルトが次々と飛び出す。
「命は、捨てない! 命は、使うもの……燃やすものだ! そうだろっ、ジーク! ヒルト!」
瞬間、決意を叫んだカイムを異変が襲う。
明らかに今、闇の中で感覚が結び直された。
本来ある筈もない翼や尻尾を、今まで以上に強く感じる。
そして、周囲からは悲鳴があがった。
『ああ! カイムが! カイムッ、逃げてください! う、あ、ああ……いやああああああああっ!』
『なっ、なんなの!? 参號騎が、内側から……機械のパーツが次々と。って、いいからイデヤ! 泣き言いってないで戦うの! 棒立ちのカイムが死んじゃう!』
『いやだ……カイム、死んじゃ駄目……駄目だ! カイムを守らなきゃああああああっ!』
大丈夫だ。
僕は死なない。
そう心の奥に叫んだ瞬間、視界が開けた。
そして、無数の息を飲む気配が伝わってくる。
眼の前に浮かぶアダムも、僅かに身じろぎ後ずさった。
それがカイムには、四つの目で見えていた。
『なっ……モニターを! 参號騎になにがおこっているの!』
リュミアの驚きももっともだ。
今この瞬間……自分の体にも等しかった参號騎は、完全にカイムとシンクロした。それが、眠っていた竜の力を覚醒させたらしい。
だから今、余分なメタドロンの技術、機械的なパーツを全て吐き出したのだ。
そこには、人を象る龍の姿が翼を広げていた。
双頭の首を持つ、一回り大きくなった龍だ。
「いくぞっ、ジーク! ヒルト!」
もはや操縦桿を握る必要はなかった。
カイムが念じて集中するだけで、ジークヒルトは思い通りに動く。
屍棺機竜が、文字通り屍の詰まった棺ならば……そこから竜の因子だけが蘇った。そして、かつて参號騎だったジークヒルトには、二匹の竜が宿っているのだ。
眼の前でアダムが、飛行形態に変形した。
だが、炎の雲を引いて飛ぶその背中に、みるみるカイムは追いついてゆく。
既にセシリアの声は、引きつるように震えていた。
『なっ、なにが……馬鹿なっ! ナノマシンが感応して……竜の因子が活性化、超再生を!? いや、再生じゃない……進化しているのか!?』
「もうその声で喋るな! いいや、黙らせるっ!」
あっさりとジークヒルトは、左手をアダムの翼にかけた。
そのまま、背に乗り上げるようにしてパイルザンバーを振り上げる。
アダムはジークヒルトを振り落とそうと、錐揉みにロールを続けてカイムを揺さぶってくる。強烈なGが襲い来る中で、カイムは悲しい確信を得た。
「やっぱり……そこにセシリア先輩はいない! 誰も乗ってない! 人間が耐えられる動きじゃないからな!」
『なら、何故貴様は!』
「セシリア先輩は、僕のことを貴様だなんて呼ばないんだ。いつも、さ……お姉さんぶって。だから、お前はやっぱりセシリア先輩じゃない。なら、あとは倒すだけだ!」
二つの首が同時に、アダムに噛み付いた。
鋭い牙が、硬い装甲を容易く貫く。
カイムの頭部は一つだが、今のジークヒルトは双頭の龍神と化している。次々とアダムの背中を喰い千切る、その感触、喰い破るたびに連鎖する爆発の炎を感じる。
荒ぶる龍の化身と化したジークヒルトは、容赦なくアダムの翼を噛み砕いた。
失速する中で、人型に変形するアダム。
だがもう、カイムは敵を逃さない。
敬愛する先輩の死を汚したものを、許さない。
「逃がすものか……お前は潰すっ! 今ここで! 僕がっ!」
ヒュン、と長い尾が翻った。
それが、火器を内蔵したアダムの腕に絡みつく。
背後のジークヒルトに向けようとした銃口が、あらぬ方向へと捻じ曲がった。バチバチとプラズマがスパークしたが、構わずカイムはパイルザンバーを振り上げる。
袈裟斬りに振り下ろして、そのまま力任せに刃を押し込んだ。
たまらずアダムから悲鳴が走る。
『アアアアアッ! メタ・ドローンの希望が……ようやく自我を、意思を得た私が』
「お前はただ、セシリア先輩を真似ていただけ。あの戦いの空に散った、一人の女の人を拾って詰め込んだだけだ」
『我々は、優良なる自律兵器群……メタ・ドローン』
「いいや、今のお前は僕たちの……人類の敵、メタドロンだ」
そのまま、アダムを抱えるようにしてジークヒルトは降下する。
その先には、今まさにメタドロンによって空の底に沈められようとしている陸地があった。
そう、大地だ。
母星が砕けて霧散した、その欠片にすぎない土地。それでも、この空に生きる全ての生命が拠り所とする大地だ。植物は根を張り、虫も鳥も動物も暮らす場所なのだ。
真っ逆さまに頭から、アダムごと激突する。
意図的な墜落の中でも、ジークヒルトとカイムは無傷だ。
そして、大地にパイルザンバーを使って、アダムを刺し貫いて縫い止める。
「終わりだ……ジーク! ヒルト! 炎を……獄焔を持って奴を討て!」
翼を広げて浮き上がったジークヒルトの、二つの首が両方とも顎門を開く。その奥から、熱が膨張して光を放つ。
蒼と紅、二色の業火が解き放たれた。
それは互いに結ばれ絡み合うように螺旋を描く。
真っ直ぐ灼熱のブレスを照射すれば、その中でアダムが溶け始めた。
勝負あったとばかりに、二匹で一つの龍が勝鬨に吼えた。
「やった、か……!」
どっと疲れが出て、カイムは操縦席の背もたれに沈んだ。
グルル、と喉を鳴らしながら、両脚でしっかりとジークヒルトは着地する。
その目の前では、まだ白煙をあげながらアダムが動かない。
完全にその機能を停止したようにカイムには見えた。
「終わった……イデヤもアディも、無事だよね? それと、リュミアさん」
『……なにが、あったの? こちらから参號騎がモニターできなくなってるわ』
「多分、異物を全部出しちゃったから……今の参號騎は、ジークヒルトです」
『それって、カイム君がつけた愛称じゃ』
「ジークとヒルト、二匹の竜が人の姿になった状態……いわば、人龍です」
呆気にとられているのか、リュミアは沈黙してしまった。
その頃にはもう既に、周囲のメタドロンは離脱してゆく。
バルティア共和国首都、その下側の浮島に突き刺さっていたデュナメイスを残して、次々と遠くの空へ戻ってゆく。だが、危機は終わってはいなかった。
アディータの声が響く。
『あそこ! 上の島と下の島の結合部分! 橋が……柱が!』
轟音を立てて、巨大な質量同士が引きちぎられてゆく。
無数の柱で繋がり、何本か橋が渡されていた二つの浮島……その連結部は、どうやらかなりメタドロンの攻撃にやられていたらしい。
あるいは、下側の島を放棄するとして、この国の竜騎兵団が破壊したのか。
どっちにしろ、このままではメタドロンがいなくなっても、落ちそうだ。
行き着く先はあの、空の底。
カイムがイデヤと一夜を過ごした、さらにその下へと消えてゆく。
そこになにがあるのかは、誰もわからない。
ただ、誰もがその先に無と死を感じていた。
「まずいな、どうすれば……このままだと、結局この島を失ってしまう! ……ん? あ、あれはっ!」
カイムは驚き、思わずハッチを開く。
それは既に合金製の装甲板ではなく、幾重にも重なる甲殻だった。見た目も大きさもすっかり変わって、今では屍棺機龍とは言えない状態のジークヒルト。
その胸部が割れて、外の煙を孕んだ風が吹き込んできた。
そして、カイムは目撃した。
アダムの解けた装甲板が、内側から吹き飛ばされる。
その奥から、信じられない姿が持ち上がってきたのだった。
この小説は、近未来ミリタリーSF巨編!翼よ、牙を剥け!『ACES ~極東の翼達~』の提供でお送りします。
ACES ~極東の翼達~:柏沢蒼海著
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881500912
鋼鉄の翼に、無くした「希望」を乗せて……
・次回予告
汝は竜、人を象る龍なり!
屍棺機龍を超越し、メタドロンの技術を脱ぎ捨てた姿。
それをカイムは、頭に思い浮かぶままに龍人と呼んだ。
強敵アダムは、イヴと共に完全に無力化された。
そして、セシリアの死をも確信する。
それでも、目の前の光景にカイムは絶句する!
次回、第32話「人よ、大地に還れ」
――汝、人を象る龍となれ!




