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フルメタル・ドラグーン  作者: 長物守
30/33

第30話「汝、人を象る龍となれ」

・今までのあらすじ


 メタドロンと呼ばれる謎の敵が、空しかない世界で人類を襲う。

 少年カイムは屍棺機龍と呼ばれる人型兵器で、メタドロンと戦う。

 そのさなか、仲間の少女イデヤと遭難し、旧世紀の秘密に触れた。

 千年前、母星たる大地が砕けて散った、その意味を知ったのだ。

 そして今、最強の敵アダムとイヴが合体し、目の前に立ちはだかる!

 カイムは暗闇を彷徨(さまよ)っていた。

 なにもない空虚な空は、酷く寒い。

 自然と己の肩を抱けば、凍えた身が震える。


(ここは……ああ、そうか。僕は、死んだのか?)


 どこまでも落ち行く感覚は、奈落(ならく)深淵(しんえん)にも似ていた。

 なにも見えず、なにも聴こえない。

 死のイメージが具現化したような、それでいてどこか安らぐ落ち着きが感じられた。少なくとも、ここではもう戦わなくても済みそうだ。

 そう思っていると、脳裏にまたあの映像がフラッシュバックする。


(ッ! ま、まただ……海と大地が見える。ああ……なんて、(まぶ)しい)


 カイムは落ち行く闇の中で、見た。

 幻覚だとしても、確かに見たのだ。

 青い海。

 緑の大地。

 それは、地球と呼ばれた母星の原風景か。

 そして、無数の声が頭に流し込まれる。


『――地殻の破壊による重力圏の喪失、止まりました!』

『ナノマシンによる力場の形成に成功、ただ……恒久的な散布を続けなければ』

『かろうじて大気を圧縮、隔離。外からの電磁波や放射線、紫外線も危険値以下です』

『クソッ! メタ・ドローンが暴走するなんて。戦いを止めるマシーンじゃなかったのか!』


 メタ・ドローン。

 それが今の世に、メタドロンとして伝わっている。最も高貴なる天使の名を与えられ、空しかない世界に残った人類を(おびや)かしているのだ。

 やはり、以前遭難した時に聞いた話と合致する。

 旧世紀の人間は、争いや(いさか)いの解決のために武力を選び、その全てをメタ・ドローンに全任してしまったのだ。


『機械ならば、エゴや欲がない。合理的かつ速やかに、戦争地域の鎮圧が可能という話だったが』

『まさか、奴らが戦争根絶のために、人類を地球ごと亡きものにしようとは』

『地球脱出船団は無事、外宇宙まで離脱したようだが』

『ならば、我々も最後のプランに手を付けよう。この環境下で生き残り、ナノマシンと融合した全く新しい姿に遺伝子を調整せねば……本当に地球は滅んでしまう』


 カイムには理解不能な話ばかりだ。

 だが、わからないなりに見えてくる。察しの良さと鋭い洞察力、そして双方の間を補完する想像力こそがカイムの武器だ。

 恐らく、無数の声は残留した者たちだ。

 メタ・ドローンに地球を破壊された時、大半がどこかへと去っていった。

 しかし、残った人間も少なくなかったのだろう。

 そして、彼らはまだ生きている。

 今の人類、カイムたちに寄り添う竜として。


(そうか……それで竜は、常に僕たちに……人間たちに寄り添ってくれていたのか)


 元は同じ人間だった。

 否、竜こそがかつての正当なる人類だったのだ。

 カイムたちはただ、後にメタドロンと呼ばれるようになった殺戮マシーンが、戦争を起こさぬ優良種として生み出したのである。


(でも、僕にはまだ戦う意志がある! この気持ちが、戦いを呼ぶ悪しきものでも、僕は……大事な人たちのためなら戦える!)


 刹那(せつな)、不意に視界が開けた。

 それでカイムは、気絶していた自分に気付く。

 何分? いや、数秒か?

 見上げる空は、ひび割れている。

 操縦席の傾きで、カイムは参號騎(さんごうき)が仰向けに倒れていることを知った。接続された右手を通して、周囲を見渡すように念じる。

 どうやら、切り離されつつある下側の浮島に墜落してしまったらしい。

 そして、亀裂の入った眼前のスクリーンに、まだイデヤの戦いが映っていた。


「いけない、急いで戻らなきゃ!」

『その声、カイムッ! ちょっとアンタ、無事!? 無事なのよね! そうじゃないって言ったらアタシ、怒るわよ!』

「……はは、もう怒ってるじゃないか。ゴメン、どれくらい寝てた?」

『ぐっすり寝てたら今頃生きちゃいないわよ。ほんの一瞬、かな?』


 すぐさま参號騎を空へと戻す。

 ダメージをチェックするまでもなく、騎体(きたい)に刻まれた傷の一つ一つが感じられた。だいぶやられているが、致命傷はない。だが、コクピットの中まで肉の()ける臭いが漂ってくる。人体の形に練り上げられた筋肉の各所が、先程の爆発で焦げて燻る臭いだ。


「ごめん、ジークヒルト! もう少しだけ……あと少しだけ、付き合ってくれ!」


 そう叫ぶや、風になる。

 最後の力を振り絞るように、参號騎は飛ぶ。

 その先では、イデヤが苛烈(かれつ)剣戟(けんげき)に踊り狂っていた。

 もはや目でさえ追えない、光の螺旋(らせん)の中の壱號騎(いちごうき)

 すぐさまカイムは、ブレイズシールドを構えさせた。


「イデヤ! 避けて!」

『ハッ!? カイム!? 無事か! 無事だなっ! なら!』


 竜のレリーフをエデンへ向けて、パイルザンバーを装填する。

 だが、(すで)に両腕を失ったにもかかわらず、エデンは無数の光で弾幕を張っていた。そのどれもが、直撃すれば致命傷である。(かす)っただけで、ジュウ! と音を立てて装甲が溶けた。

 あらゆる攻撃に耐える竜の甲殻(こうかく)(うろこ)が、いとも容易(たやす)く切り裂かれる。

 だが、臆することなくカイムは零距離(ゼロきょり)に飛び込んだ。

 そして、エデンの顔面へとブレイズシールドを密着させる。

 (なつ)かしいはずなのに、エデンから向けられる声音(こわね)はもう先輩の面影(おもかげ)がない。


『無駄ッ! 我らは、メタ・ドローン……最優にして最良、最強の自律兵器群! たとえ竜の吐息(といき)とて!』

「なら、試してみろっ!」


 撃発(げきはつ)、発火、溢れ出る焔の奔流(ほんりゅう)が荒れ狂う。

 だが、眼前で浴びせられた炎の中で、エデンの頭部に並ぶ目が光る。

 余裕を見せたと踏んだ、その時にはカイムはパイルザンバーを両手で握る。左腕のマウントを外して、ブレイズシールドを捨てた。かに、見せかけて、回転する。


『な、なにっ! 小賢(こざか)しいぞ、人間っ!』

「人間は! 人類は! 学ぶんだ! そのスピードは機械から見れば、遅いかもしれない。けどっ!」


 ブレイズシールドはまだ、煮え滾る業火を吐き続けている。それを推力に変えれば、回転の力が何倍にも加速した。

 そのまま参號騎は、両手で握った剣……否、()()()()()()()()()()()()()()()()

 ブレイズシールドが粉々に砕け散る。

 だが、エデンの頭部もまた、アダムを包む兜状(フルヘルム)の装甲が弾け飛んだ。

 そこにイデヤが、怒りの絶唱(ぜっしょう)で一撃を歌う。


『もう一撃っ、うわああああああああっ!』


 咄嗟(とっさ)にエデンが避けよう下がる。

 だが、空いたスペースを一気に殺して、肉薄の距離でイデヤの連撃が炸裂した。渾身の痛打が、エデンの胸部に十字傷を刻んだ。

 それはまるで、罪の十字架だ。

 その中心へと、(あらわ)になったパイルザンバーをカイムは突き立てた。


『カイムッ! やっちゃえ! チャンスだし!』

『トドメをっ! カイム……お願い、殺してええええええええっ!』


 アディータとイデヤの声が重なる中、深々とパイルザンバーが突き刺さる。

 連続して杭打機(パイルバンカー)を起動させれば、次々と空薬莢(からやっきょう)が宙を舞う。

 手応えはあった……巨大なエデンの中に衝撃が届いたと思える一撃だった。やがて、炸薬(さくやく)が切れてパイルザンバーはただの剣になる。

 だが、金属の(きし)む音と共に、破壊され尽くしたイヴをアダムは脱ぎ捨てた。

 ゆらりと浮き上がる姿は、無傷。


「クッ、弾切れでもこいつの切れ味はっ!」


 パイルザンバーを抜き、両手で構えて斬りかかる。

 だが、アダムはその時……腰から円筒状の何かを掴んで抜いた。

 次の瞬間、カイムの世界から光が消える。

 なにが起こったか、認識でなかった。

 ただ、外でアディータの悲鳴と砲声が響く。


『なによあれ! 光の剣みたいなの! カイムが、このままじゃカイムがやられちゃう!』


 ようやくカイムは理解した。

 参號騎の頭部が一発で潰されたのだ。それがどれほど痛かっただろうかと、操縦桿を離した左手で右腕に触れてみる。

 人間を模して造られた屍棺機龍(ドラグレイヴ)は、竜の眼球を流用して映像を操縦席に移している。

 他にも通信系などを満載した頭部が破壊されたのだった。


「そんな……いやっ! まだだ! まだ僕は、ジークと! ヒルトと! 繋がってる!」


 右腕を掴む手に力を込める。

 既に痛みを通り越して、痺れた感覚が徐々に遠ざかっていった。

 だが、精神を集中してカイムは目を瞑る。

 参號騎は今、自分の肉体も同然……吹き荒れる風も、沸騰(ふっとう)した空気も肌で感じるように伝わってくる。その感度を上げれば上げるほど、激しい痛みがカイムを貫いた。

 そして、頭の中に声が響く。


『――汝、人を象る龍となれ! 人を超え、竜をも超え……荒ぶる龍へとシンカせよ!』


 何かが身体の中で弾けた。

 神経接続された右腕から、圧倒的な力が流れ込んでくる。

 それが自分と入り交じる中で、確かにカイムは感じた。

 懐かしい二匹の竜の()える声を。

この小説は、近未来ミリタリーSF巨編!翼よ、牙を剥け!『ACES ~極東の翼達~』の提供でお送りします。


ACES ~極東の翼達~:柏沢蒼海著

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881500912

鋼鉄の翼に、無くした「希望」を乗せて……




・次回予告


 ――決着。

 その時、その瞬間が二度目の別れの時。

 カイムは今、改めてさよならを呟くだろう。

 そして、失われゆく大地を守るべく、再度彼は飛ぶ!


 次回、第31話「人と竜との絆」


 ――汝、人を護りし龍となれ!

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