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フルメタル・ドラグーン  作者: 長物守
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第29話「楽園にそびえし絶望の城」

・今までのあらすじ


 謎の敵メタドロンに脅かされる世界で、少年カイムは戦う。

 竜の死骸とメタドロンの技術で造られた、屍棺機龍に乗って!

 祖国を防衛し、メタドロンへの追撃戦に出たが、カイムは仲間のイデヤと遭難する。

 誰も訪れたことのない、空の底で彼は見た……旧世紀の滅びた文明の一端を。

 そして今、目の前にその真実を突きつける最強の敵が現れた!

 決戦と呼べる戦いは、今だ。

 今この瞬間こそが、全てだった。

 カイムは、左手で操縦桿を握り直す。同時に、右腕の先で(つな)がってる愛騎(あいき)の、その(はがね)巨躯(きょく)に宿る(たましい)に呼びかけた。


「ジーク、そしてヒルト……僕を勝たせてくれ。こいつを野放しはしておけない!」


 眼の前には、さながら荘厳な神殿の如くエデンがそびえ立っている。

 原初の人間、神に似せて(つく)られた男女……アダムとイヴが暮らしていた楽園がエデンだ。セシリアの名を(かた)った悪意は、自らを守る最強の(よろい)にその名を与えたのだった。

 後方の母艦バハムートから、リュミアの逼迫した声が響き渡る。


『なっ……こんな巨大なメタドロンが! まずいわ、三人共! いったん退()いて! 体勢を立て直すの!』


 だが、(すで)にイデヤの壱號騎(いちごうき)は敵に襲いかかっていた。さながら鬼哭(きこく)(ごと)咆吼(ほうこう)と共に、荒々しい太刀筋(たちすじ)が光の線を引く。アディータも88mm(メリル)砲での援護射撃を開始した。

 カイムは参號騎(さんごうき)に騎士の儀礼で剣を(ささ)げさせる。

 ここより先は、人類を守る決意と覚悟が試される空だ。


「リュミアさんっ! 奴を破壊、無力化します! このままでは、バルティアの下側が!」

『もう無理よ、カイム君っ! 既に竜騎兵団(りゅうきへいだん)と協議して、下側を切り離す、放棄することが決まったの!』

「そんなの、嫌ですっ! セシリア先輩の名を騙って、(はずかし)めて……その上まだ、貴重な大地を! 僕たちの土地を!」

『えっ、カイム君? なにを言って……カイム君!』


 翼を広げてカイムは飛び込む。

 屍棺機龍(ドラグレイヴ)とエデンとでは、五倍近い質量差がある。微動だにせず胸を貼るエデンの周囲では、カイムたちは飛び交う羽虫(はむし)も同じだ。

 だが、この虫は鋭い(はり)を持っている。

 そして、だれもが決して一人ではない。

 乱れ飛ぶ周囲のメタドロンに囲まれながらも、カイムは目標をエデンだけに見定めた。


「アディ! 僕はイデヤをフォローする! 装甲を破壊し、その奥へ攻撃しなきゃ……砲弾を温存して!」

『うっ、そりゃ、そうだけど……いいわ! なら、こっちの弾をお見舞いしてやるっ!』


 背後でアディータが、巨大な大砲に差し込まれたカートリッジを取り替える。腰に同じものが沢山ぶら下がっていたが、砲弾は何種類かにわかれているらしい。

 援護を期待しつつ、カイムは疑うことなく背中を預けた。

 そして、前を飛ぶイデヤの背中を守るべく加速する。


「イデヤッ! 聞いて、イデヤ! ただ我武者羅(がむしゃら)に攻めても駄目だ! 敵が大き過ぎる!」

『ぐ、ぐぐぐぐ……どう、すれば。うっ、うう……ああああああっ!』


 デタラメに見えて、イデヤの攻撃は鋭さを増してゆく。

 夜空を乱舞する流星の如く、無数の斬撃がエデンを(きざ)んでいった。

 だが、硬い装甲の表面を引っ掻いているだけに過ぎない。あらゆる命を刈り取る死神の鎌も、楽園の門をこじ開けることは叶わなかった。

 意を決して、カイムはイデヤの壱號騎に愛騎を寄せる。

 接触して腕を掴み、そのまま語りかけた。

 どうして接触の必要を感じたか、それはわからない。

 だが、神経が接続された参號騎の手を通して、イデヤと繋がる壱號騎の震えが伝わってきた。


「イデヤ! アディの援護に合わせて、そして二人で!」

『あ、うぅ……わ、わかった。カイム、たちに、合わせる』

「僕、たち? 僕たちって」

『この子が、そう、言ってる……私は、今……アモンの見てきた、ものが、見えてる』


 カイムと違って、イデヤは四肢の全てで壱號騎と繋がっている。だからだろうか? 恐らく、カイムが以前見た以上のものを見て、それ以外にも沢山のものを感じ取っている筈だ。

 不思議と屍棺機龍同士で接触したから、それが酷く実感だ。

 カイムにも今、かつてアモンと呼ばれた竜の血肉が、骨格と筋肉が熱を伝えてくる。

 だが、アディータの叫びでカイムは我に返った。


徹甲榴弾(てっこうりゅうだん)、いくわよ! 派手に爆発するから、目くらましくらいになら!』


 砲声が響いて、咄嗟(とっさ)にカイムはイデヤと逆に()けた。

 同時に、爆音が響いて炎が燃え上がる。

 ダメージは感じないが、僅かな(すき)を作ることができた。翼を(ひるがえ)してエデンを見下ろすや、カイムはイデヤに合わせて突撃する。

 聴き慣れた声色はもう、その持ち主の意思や人格を全く感じさせなかった。

 セシリアの声で喋る悪意が、哄笑(こうしょう)を響かせる。


『ハハハハッ! 無駄よ、無駄ァ! 我々メタドロンは……メタ・ドローンは完全な機械生命体! 自律制御され、自己増殖、自己修復、自己進化を繰り返す!』

「それももう覚えた! 話に聞きかじった! けど、今はそんなこと考えない!」

『カイム君、ねえ……カイムッ! カイム・セレマン! 藻掻(もが)いて足掻(あが)(おろ)かしさが、愛おしいぞ! この身に収めた生命の残骸、データ化した知識の中でも輝いて見える!』

「お前はっ……セシリア先輩の名を(けが)してっ! セシリア先輩の想いまで、(よご)す気かああああっ!」


 エデンが初めて動いた。

 その(いか)つい両腕を突き出し、手の平を開く。

 屍棺機龍の胴体ほどもある太い指が、それぞれ別方向に向いて光り出した。

 一拍の間を置いて、(まば)い光が炎となって走る。

 先程イヴの射出した武器、長銃(ライフル)と一緒だ。

 有質量の弾丸ではなく、光自体が照射される旧世紀の武器。それはさながら、天罰となって全てを灰燼(かいじん)に帰すメギドの炎だ。

 イデヤがランダム機動で、縦横無尽に走る光を避ける。

 そのたなびく尻尾を追って、どうにかカイムも避け切った。


『面白い……流石(さすが)は、我々メタ・ドローンが優良種として生み出した人間だ。いい反応速度、そして適応能力。一度滅ぼした人類よりも、何倍も高スペックだ!』

「人を数字で語るな! 言葉にできない想い、文字に(つづ)れない気持ちがこっちにはある! イデヤッ!」

『ここっ、だあああああっ! うわああああああああああ!』


 イデヤの壱號騎が、手にした大鎌(デスサイズ)を持ち替えた。まるでまさかりのように、(とが)る刃を下にして振り下ろす。その一撃は、エデンが防御に振り上げた椀部……その、複雑に折れ曲がる肘関節(ひじかんせつ)に吸い込まれてゆく。

 鼓膜をかきむしるような金切り声が響いて、そのままイデヤは武器を振り抜いた。

 鮮血のようにオイルが宙を舞った。

 明らかにエデンの中で、息を()むような気配があった。


『グッ! ガァ! 関節部のヒンジやシリンダを!?』

『ハァ、ハァ……まだ、まだっ! 私は、許さない……見えるの、海が……見えるの! 大地が! アモンが教えてくれる、この全てをお前たちは! はあああああああっ!』


 身を(よじ)って、壱号機が巨大な鎌を振りかぶる。そのまま全身の筋肉をバネに、現界まで引き絞ってゆく。

 刹那(せつな)、まるで空気を切り裂く戦輪(チャクラム)の如く、イデヤは横回転で刃を振り抜いた。

 翼を立てて渦を巻き、壱號騎は触れる全てを切り裂く竜巻となる。

 そのまま金属音を連ねて、無数の連撃がエデンの肘を襲った。

 屍棺機龍ほどの大きさの右腕が、その前腕部が完全に断ち切られた。


『ハァ、ハァ……次は、左腕! ブッタ斬ってやる! はあああああっ!』


 即座にカイムは、かざしたブレイズシールドへパイルザンバーを押し込む。

 竜の怒りを体現する、灼熱のブレスが放たれた。 

 それが、風斬り(うな)るエデンの左手を焼く。

 効果は期待していないが、炎が照射されるその勢いが、イデヤを握りつぶそうとする巨腕からスピードを奪った。呼吸を合わせて、アディータの射撃が炸裂する。

 イデヤの壱号機は、炎に包まれた巨人の左腕を踏み台に、()んだ。

 荒天(こうてん)の空に稲光(いなびかり)を集めて、大鎌が鋭く光る。


『死ぃぃぃぃぃぃ、ねえええええええっ! 私と、カイムとアディと! みんなの、ためにっ! 死ぬまで殺してやるぁぁぁぁぁ!』


 一閃(いっせん)

 あまりにも鋭い一撃が、エデンの左肘から下を切り落とした。

 次の瞬間には、両手を失ったエデンの全身が解放されてゆく。次々と開いて、その奥から真っ赤な突起物が(いく)つも(のぞ)くのが見えた。強固な装甲はその下に、ずらりと並んだ砲弾を用意していたのだ。

 そして、それが真っ直ぐ飛ぶだけの砲弾ではないことをカイムは知っている。

 数少ない交戦経験が、想像力に結びついて警告を発していた。


『みんなっ、見て避けて! 見切って! こいつは――』


 エデンの全身が火を吹いた。

 それは()えて言うなら、イヴが以前使っていた武器運搬用の飛翔体に似ている。違いは、アダムが使う剣や銃の代わりに、地獄の炎が内包されていることだ。

 瞬時にカイムは察した。

 理解した。

 自動的に誘導される武器の運び手は、必殺必中の爆弾足り得ると。

 そして、その予測が真実になる瞬間に、大気は震えて沸騰(ふっとう)した。


『二人とも、下がって! こういう時は……散弾っ! こいつで!』


 アディータが咄嗟に、両手で腰溜(こしだ)めに構える大砲を撃つ。

 放たれた砲弾は、空中で弾けて無数の鉄球をばらまいた。

 あっという間に、空を埋め尽くした星々が誘爆する。それでも、半分ほどがその爆炎をかいくぐって殺到した。

 カイムは必死で、パイルザンバーを振るう。

 あらゆる角度から迫る弾頭を切り払う。

 だが、数があまりにも多過ぎた。

 アディータが半数ほどを無力化していなかったら、あっという間に火だるまだ。


「くっ、キリがない! イデヤ、そっちは避けてる? よね!」

『これしきで……こんなっ、ものでえ! グッ、クゥゥ……ッ!?』


 あっという間に、空が真っ赤に染まった。

 エデンの全身から放たれた炎が、爆発を連鎖させて紅蓮(ぐれん)業火(ごうか)で空を燃やす。

 その中に飲み込まれたカイムは、盾を構えて仲間を探した。

 アディータはギリギリで離脱したようだが、なにかを叫んでいた。

 そして、イデヤの壱號騎が爆炎の中に飲み込まれるのが見えて、そこでカイムの意識は漂白されてゆくのだった。

この小説は、機械の鼓動を秘めて今、鋼鉄の怪獣が目を覚ます!『甲王牙 ーKO-GAー』の提供でお送りします。


甲王牙 ーKO-GAー:王叡知舞奈須著

https://kakuyomu.jp/works/1177354054882739477

その異形、静穏を願う守護者也




・次回予告


 今、絶望に抗う翼が奇跡を呼ぶ。

 千年の刻を越えて、カイムは旧世紀の希望に触れた。

 それは、祈りであり願い……望まれた可能性。

 竜に身をやつしてまで、未来を求めた者たちの贖罪が報われる!

 ならば唱えよ、汝! 汝! 汝!


 次回、第30話「汝、人を象る龍となれ!」

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