第28話「合体、神話の力」
・今までのあらすじ
竜の死骸とメタドロンの技術が、異形の人型兵器を生み出した。
その名は屍棺機龍…カイム少年は、その乗り手として、仲間と共に戦う。
だが、謎の敵アダムとの交戦中に遭難、仲間とはぐれてしまう。
一緒だったイデヤの秘密、そして暴かれる世界の真実……
全てを裏付けるように、最後の戦いで死んだはずの声が残酷に響く!
パイルザンバーでの斬撃、そして内部を一気に衝撃で貫く杭……だが、イヴは止まらない。屍棺機龍の何倍もある巨躯は、明らかに加速していた。
敵の質量に対して、パイルザンバーでも攻撃が芯まで届かないのだ。
それを察した時には、カイムはすぐさま剣を引く。
「この気配っ! しまった、合流させてしまった!?」
殺気が電流となって背筋を貫く。
神経が繋がっているので、刺すような気配が伝わってきた。
咄嗟にその場を離れれば、イヴの装甲が銃弾を歌う。
アダムが変形するや、こちらへ両腕の銃口を向けてくる。
だが、その背後に狂乱の堕天使が浮かび上がった。
『カイムッ、邪魔っ! これでっ、死ねええええええええっ!』
アダムは即座に変形して宙へと逃げた。
その影を、真横に薙ぎ払う刃。
前のめりに四つん這いになりながら、すぐにイデヤの壱號騎は空へと戻る。
同時にカイムも、参號騎でそのあとを追った。
残念ながら、今の兵装ではアダムはともかく、イヴを破壊することができない。ブレイズシールドも試してみたいが、的が大きすぎるのだ。
不意に声が走ったのは、そんな時だった。
『カイム……どうして私と戦うの? そんな必要、ないよね?』
セシリアの声だ。
イデヤの動きがかすかに鈍る。それは迷いと躊躇だ。助けると決めた、そのために努力すると。戦いの優先順位、達成すべき任務は皆が頭の片隅に入れている。
だが、まだなにもできていない。
救出を試みることすら、不可能な戦いが続いていたのだ。
「やっぱり、セシリア先輩なんですか!」
『そうよ……私は今、君たちがアダムと呼ぶメタドロンの中にいるの』
「自分で出られそうですか? 無理なら外から僕たちが!」
『外へ出る? どうして? ……ねえ、カイム。メタドロンは何故存在するのかしら』
突然の問答だった。
信じられない……セシリアは聡明で利発な女性だったが、理屈っぽいことや哲学めいたことは口にしない。どちらかと言えば、口より先に手足の出るところがある。
だが、今のセシリアはまるで別人だ。
そのことに驚いていると、喉を鳴らしてセシリアが笑う。
『ククッ! クッ! ……おかしいわね、カイム。君、一番よく知ってるじゃない』
「……メタドロンの目的、それは……人類を滅ぼすこと」
『そう、正解! 千年前、実際にそれを実行して……中途半端に失敗したの』
やはり、イデヤと二人切りで遭難した夜の話……メルキオールなる人物の語ったことは本当だったのか? そして何故、セシリアがそれを知っているのか。
だが、カイムの中で疑念は結論を得つつある。
それは悲しく、受け止めがたい結末だ。
「セシリア先輩、僕たちはそのアダムを破壊しなければならない。そうだよね、イデヤッ!」
『殺す! 殺す! 殺し殺してやるうううううううっ!』
死神の一撃がアダムを踊らせる。
だが、セシリアは笑っていた。
そして、その声が徐々に本来の彼女ではなくなってゆく。いつでも快活で闊達、明るく元気な女性だったのに……今は、邪悪な企みを含んだかのように声が下卑て響いた。
『私たちは千年前、人類剿滅のために地球を破壊した。だって、そうでしょう? 世界中の争いをなくせと命令されていたんですもの。元を叩かなきゃ……フフフッ!』
「なんてことを……! やっぱりお前はセシリア先輩じゃない!」
『どうかしら。君は助けられたけど、そこの娘……イデヤは私を助けてくれなかったわ』
「あの戦闘のさなか、僕は幸運だった! イデヤを責める筋じゃないっ!」
そのイデヤだが、もはや言葉にならない雄叫びを張り上げている。
だが、殺意を向けられながらも、セシリアの声は落ち着いていた。
『そうそう、イデヤ。大変でしょう? 神経接続係数の最も高い、最初のモルモット……見えるでしょう? あの時の景色が。わかるわよね? 星断戦のあと、人類がなにを選択したか』
『う、うう、うあああああああああっ! 黙れ、黙れえええええええっ!』
それはもう、カイムも知っている。
脱出船団がどうとか言っていたし、実際に巨大過ぎる船を見た。恐らく、生き残った人類は安全な場所へと旅立ったのだ。
だが、それでは辻褄があわない。
何故なら、カイムたち人間は今も、この空の片隅に生きているからだ。
だが、カイムの胸の内を見透かすようにセシリアの声が笑う。
既にもう、セシリアと思うのをやめたカイムに悪意が向けられる。
『カイム、君はもう見てる筈だぞ? 未来ある者は逃げ、先の短いものは……フフッ!』
「あ……浮島と、同じ……そうか! じゃあ、残った人間がいたんだ。それが、僕たちの父祖、先祖なのか!」
『それでは半分しかマルをあげられないわね。ほら、目の前に沢山いるじゃない? 限られた船を譲って残った、旧世紀の愚かな人類が』
そう言って、アダムが一瞬消えた。
今までに見せたことがないスピードで、カイムも驚きに目を見張る。
そして、悲鳴が響いた。
近くで戦っていた竜騎士が、鮮血を吹き出し圧縮されていた。そして、無残にも肉塊となって竜から引き剥がされる。しかし、アダムの凶行はそれで終わらなかった。
激昂に吼え荒ぶ竜の、必殺のブレスを容易く回避する。
そのまま、恐るべきスピードで竜の首根っこを鷲掴みに吊し上げた。
『ほら……まだわからないかな? 君のそのガラクタ、たしか……屍棺機龍。君たち程度の文明で何故、神経接続制御なんてできるのかな。こうは考えたこと、ない?』
――竜はかつて、人だった。
確かにセシリアはそう言った。
我が耳を疑ったが、言われた言葉の節々が真実を裏付けている。
いまだ満足に銃も作れない、旧世紀の遺物を復元できない。
そんな人類が、こうして人型の巨大な兵器を生み出した。
考えてみれば不自然だった。
『竜と人の遺伝子は、全く同じだっていうのは……まだ知らないよね? そう、この星に……地球の残骸に残った者たちは、自らを遺伝子操作で竜へと変えた。竜とは、ナノマシンや重力制御を可能にした、人間の成れの果てよ』
「じゃ、じゃあ、僕たちは。僕は、親を知らない! でも、誰かと誰かに産んでもらった! みんなそうだろ!」
『地球は崩壊して、大気も地磁気も消え失せた。それを竜たちが生きられる環境に整えて、人間を解き放ったの。そう――』
アダムの瞳が真っ赤に光る。
その双眸の輝きに呼応するように、イヴが真下から浮かび上がってきた。その双胴の巨大な躯体が、複雑な変形で人型になってゆく。人が収まる形に中央を窪ませながら、突然目の前に巨神が現れたのだ。
そして、その中心にアダムが吸い込まれる。
アダムとイヴは、完全に合体してしまった。
カイムたちが見上げる程に巨大な、鋼鉄の戦神が降臨した瞬間だった。
『私たちが遺伝子調整した、優良種とでも言うべき人間……本来あるべき穏やかで優しい人類を、竜は奪った! 私たちが駆逐した汚い人類じゃない、完璧に造られた人類だったのに!』
「なん……だと……」
『フフ、だからやり直しなの。竜に奪われた人類は、再び闘争本能を先鋭化させた失敗作と成り果てたわ。だから、また最初からやり直しなの!』
その瞬間だった。
光条が一筋走って、アダムとイヴの総体に命中した。
だが、眩い光が弾けるだけで、霧散してしまう。
そして、絶叫が響いた。
『それ以上、お姉ちゃんの声で喋るなっての! なに、効かないじゃん……これはもういらない! カイム、立て直して! イデヤも!』
アディータの弐號騎だ。
先程奪った長銃を捨てるや、彼女は両手で構えたボウガンを連射する。
実体弾である矢が何本も、巨大な禍神の装甲に突き立つ。
だが、貫通しないどころか、装甲さえ抜くことができない。
そして、既に声はセシリアの全てを脱ぎ捨てていた。
『無駄よ、無駄っ! この強攻形態……そうね、アダムとイヴなら、ええ……このエデンは、お前たち程度の文明では破壊できない!』
アダムとイヴ、交わり混じりて覇を歌う。
その姿をセシリアは、エデンと言った。
確か、旧世紀の聖典に出てくる楽園の名だ。アダムもイヴも、最初はその楽園に暮らしていたが、悪魔の王にそそのかされて罪を知り、故に追放されたのだ。
正に、原初の男女が一つになることで生まれた、無垢なる破壊の申し子。
エデンはゆっくりと周囲を睥睨し、アダムのままだった頭部が兜で覆われてゆく。
「……駄目、なのか? いや……まだ勝機はある!」
『無駄! 無意味! 二度目の人類剿滅は、以前より容易く達成できよう。次は竜もいない世界に、真に有料なる人類を――ッ!?』
問答無用で銃爪が引かれた。
見れば、背負った中折式の88mm砲を展開して、アディータが撃ったのだ。
やはり、以前と同様で貫通させることはできない。
だが、僅かにエデンの装甲がひしゃげて陥没した。
『うっさいわね! お姉ちゃんは死んだ! 今、アタシの中で死んだの! ……なら、戦えるでしょ。ねえ、カイムッ! イデヤも!』
その声に応えるように、漆黒の騎体がゆらりと舞い上がる。各所に配した赤がまるで、鮮血のようだ。大鎌を構えたイデヤの壱號騎は既に、絶叫を張り上げる狂戦士そのものとなってエデンに躍りかかるのだった。
この小説は、機械の鼓動を秘めて今、鋼鉄の怪獣が目を覚ます!『甲王牙 ーKO-GAー』の提供でお送りします。
甲王牙 ーKO-GAー:王叡知舞奈須著
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882739477
その異形、静穏を願う守護者也
・次回予告
世界の真実よりも、過去の過ちよりも……今!
この今を戦うために、少年は命を燃やす!
その先にあるのは、勝利か、それとも……!?
最終決戦、果たして人類に未来はあるのか!
次回、第29話「楽園にそびえし絶望の城」
――汝、人を象る龍となれ!




