第27話「決戦の空」
・今までのあらすじ
秘密組織ドラグマンサーズで、戦いに戻ったカイム。
新たな力は、竜の骸とメタドロンの技術を用いた、屍棺機龍。
仲間と共に戦う中で、カイムは千年前の真実に近づいてゆく。
そして今、死んだはずの先輩が、最強の敵アダムの中から呼びかけてくる!
雷雨の中、風は刃のように叩きつける。
痛みを感じるほどではないが、自分の体でそれを味わうような感覚がカイムを震わせた。だが、その敏感過ぎる竜の身体が、時には便利なこともある。
神経を繋いでいるので、本当に自分で嵐の中を飛んでるようだ。
「アディ、援護を頼むよっ!」
『また仕切って! いい、こういう時はアタシが――』
『うっ、うう……あああああっ! 殺す殺す、殺すっ!』
いつものように、イデヤの壱號騎が飛び出してしまった。
あとはもう、彼女の強さを信じるしかない。
カイムも参號騎の右腕で、腰のパイルザンバーを抜き放った。そして背後で、アディータの弐號騎がボウガンの撃鉄を引き上げる音を聴く。
普段となにも変わらない。
戦場でやるべきことは、常に一つだ。
『ほら、アンタも行って! イデヤのこと、頼むわよ?』
「ああ。アディも気をつけて」
『ハン! 誰に言ってるのよ、誰に!』
軽口を叩きながらも、アディータが射撃を開始した。
吐き出される矢に案内されるように、カイムは愛騎を降下させる。二つ重なった特異なシルエットの浮島は、下側が既に無数のメタドロンによって制圧されつつあった。
だが、その中に剣戟の光が瞬いて見える。
泥沼の地上戦と化した低空域で、竜騎士や竜騎兵団の兵士たちが戦っているのだ。
そのさなかへと、カイムは翼をしならせ飛び込んだ。
「そこの人っ、助太刀します!」
乱れ飛ぶエクスシア級に包囲されてる、竜騎士を見た。
次の瞬間には、騎体ごとぶつかるようにして群へと分け入る。手当たり次第に剣を振るえば、冴え渡る切れ味が次々と爆発を連鎖させる。
刀剣としても、パイルザンバーは業物の威力だった。
助け出した竜騎士が、驚いている顔が見えた。
逆に竜は、興奮気味に吼え立てる。
『な、なんだ……味方、なのか? 助かったが』
「皆さんはなるべく、二人一組で! 互いの死角を庇い合えば、そうそう墜とされはしません!」
『しかし、竜騎士の誇りは』
「生きて帰ってこそでしょ! 生き残って、また戦う! そして生き抜く! 早くしてください!」
勿論、誰にだってプライドはあるし、最精鋭たる竜騎士となった者たちは皆が胸に誇りを抱いている。だが、それだけではなにも守れないし、生き残れない。
メタドロンは感情も思考もない、ただの殺人機械だ。
強いて言うなら、本能をもって人類を狙ってくる。
どんな手を使ってでもその脅威を排除し、少しでも多くの人を救うのだ。それが、禁忌とも言える屍棺機龍に乗ってからの、カイムの心境の変化だった。
そのままカイムは高度を音して、市街地の中を飛ぶ。
「ここにももう、デュナメイス級が……くっ、沈ませるものか!」
触れる全てを剣が切り裂く。
街は燃え、人々が逃げ惑う中をカイムは翔んだ。風切る速さで、すれ違いざまに無数のメタドロンを破壊してゆく。その中には、地面に突き立ち下へと浮島を動かすデュナメイス級もあった。
竜騎兵団も必死の抵抗を見せている。
だが、数が全く違うのだ。
ならば、質で勝るドラグマンサーズの三騎の働きに全てはかかっている。
「っと、戦うだけでは!」
不意に視界を、見逃せぬ光景が走った。
それでカイムは、鋭角的なターンで着陸を試みる。
見れば、瓦礫に挟まって身動きの取れぬ民間人がいた。その者の娘なのか、幼子が泣きじゃくってその場を動かない。そして、巨大な瓦礫は小さな女の子には動かせそうもなかった。
カイムは、外へと声を送るスピーカーの接続を再確認して、声を張り上げる。
「ちょっと待ってて! 今、瓦礫をどける!」
『わわっ、びっくり……な、なに? 恐い……これも、メタドロン?』
「ちょっと違うかな。さ、これで大丈夫。歩けそうかな?」
鉤爪のような屍棺機龍の手で、軽々と瓦礫がどけられた。
這い出た女性はなんとか立ち上がり、駆け寄る娘を抱き締めている。
まだまだ、戦場となった下側の浮島には市民が取り残されているようだ。そうした人たちを助けるためにも、早くメタドロンを追い返すしかない。
だが、半ば陥落状態の首都は、既に見上げる空もメタドロンが満ちている。
絶望に負けないよう、カイムが心を強く引き締めた、その時だった。
『がああああああっ! 墜ちろぉ!』
絶叫を張り上げ、壱號騎が上空を通り過ぎた。その巨大な刃が追いかけるのは、前後を逆にしたような前のめりの翼……飛行形態のアダムである。
カイムが見てもぞっとするような、あまりにも常軌を逸した空中戦が展開されていた。
アダムは変形を繰り返しながら、自由自在に宙を舞う。
対するイデヤも、全く負けていない。
まるでデタラメに見えて、イデヤの動きは的確にアダムを追い込んでいった。
ならばと、カイムは母子を見送り飛び立つ。
「このパターンッ! 読めている……そこだっ!」
アダムには、援護を担当する僚機がいる。
後方に控えて姿は見せず、アダムが使う兵装を送り届ける下僕を放つのだ。
今回もきっとそうだと、カイムには確信がある。そして、こういう時の直感が外れた試しはない。
程なくして、アダムとイデヤを追うように、飛翔体が接近してきた。
その時にはもう、カイムの参號機はその隣に並んでいる。
「渡さない! そして、どうせなら……その武器、貰い受ける!」
ガンッ! と左手で触れて、鋭い爪を食い込ませる。
火を噴く加速で飛ぶ下僕の、その装甲板を無理矢理歪ませ、パイルザンバーを突っ込む。そのままテコの原理でこじ開ければ、中には不思議な武器が入っていた。
それは、古い文献や伝承でしか見たことがないものだ。
「これは、銃だな! サイズは……いけそうだ! たしか、こう!」
引きずり出した長銃を構えて、見よう見まねで撃ってみる。あっという間に、アダムへ武器を運ぶ下僕が爆散した。
本などで見たことはあるが、今の人類では復元が難しい、それが銃だ。
ようやくマスケット銃を作れるようになったが、旧世紀の発掘品はお手上げである。一説には、発掘品はどれも火薬を使わず、有質量の弾丸も必要ないものらしい。そこまではわかっているが、どうしても動かすことができなかった。
だが、この銃は違う。
アダムに渡る予定だった、それはさながら天罰の光だ。
「凄い……光の矢が撃てる銃か! それより、これなら!」
すぐにカイムは、イデヤの位置を確認する。
アダムと死闘を繰り広げる壱號騎は、既にバルティアの竜騎士たちすら近付けない領域へ踏み込んでいた。激しい刃の奥州はもう、目で追うのもやっとだ。
それでカイムは、頭上にアディータの弐號騎を見つけて高度を取る。
「アディ、これを使って! 多分、僕よりアディの方が上手い」
『なにこれ……えっ、まさかアンタ!』
「アダムの武器、多分銃ってやつだと思う! 嫌なら僕が使うけど」
『面白いじゃない! ちょっとそれ、貸しなさいよ、ほらっ!』
なかば強奪されるように、弐號騎へと銃を渡した。
うけるとるなりクルリと銃身を回して、アディータはあっという間に敵を撃墜してみせる。全く違和感なく、彼女はボウガンと銃の二丁を交互に撃ち始めた。
同時に、カイムは次の行動に移る。
先程ので、アダムの僚機を捉えられそうだ。
再度武器を射出した時、その方向にいるメタドロンを叩く。
「っと、言ってる側からきた! アディ、あれを狙撃して!」
『見えてるわよ! あれもお宝なんじゃないの?』
「さっきみたいな余裕、もうないよ。それより……大元を叩くっ!」
背中で爆発を聴いた。
アディータの狙撃が成功したのだ。
そして、雷雲の中へとカイムは飛び込む。
その先で、恐るべき殺意がゆっくり翼を翻した。稲光に浮かび上がるシルエットは、双胴の巨大なメタドロンだ。以前からずっと、アダムを援護していた個体である。
「バハムート、リュミアさんっ! そっちでも見てますか? こいつがアダムの支援機です! 映像、届いてますか!」
『バッチシよ、カイム君っ! ……こんなものまで用意してたなんてね。以降、この個体をイヴと呼称します! アダムとイデヤから引き剥がして、カイム君!』
「了解ですっ!」
だが、見た目によらずなかなかに機敏な動きだ。
イヴは速度を増して、カイムを振り切ろうとしてきうる。
二つ並んだ胴体の下部が開いて、そこからなにかが一斉にばらまかれた。思わず盾をかざした、その瞬間……周囲が無数の爆発に包まれる。
爆弾の類なのだが、宙を漂い次々と爆炎を連鎖させていった。
それでも、構わすカイムは業火の中を突っ切る。
ジークとヒルト、二匹の竜が残してくれた装甲を信じる。
「逃さない……イデヤの邪魔はさせないっ!」
真上を取って追いつくと、そのままイヴへと剣を振り下ろす。
鋭い斬撃がめり込んだ、その瞬間にカイムは撃発を命じた。
内蔵された杭打機が、合金製の杭でイヴの胴体、その片方を深々と刺し貫いたのだった。
この小説は、影から影へと闇の中、現代の防人たちは鋼の魂に火を灯す!『KASTARD』の提供でお送りします。
KASTARD:王叡知舞奈須著
https://cervan.jp/story/p/3715
柿丘市警察所・秘設特殊技能部隊群〈KASTARD〉――出動!
・次回予告
激戦の中、またしても響くセシリアの声。
そして明かされる、千年前の秘密。
本当にセシリアは生きているのか?
セシリアをカイムたちは救えるのか!
次回、第27話「合体、神話の力」
――汝、人を象る龍となれ!




