第23話「逆襲のアダム」
・今までのあらすじ
屍棺機龍の力を得て、再び戦いを選んだ少年、カイム。
彼は仲間たちと共に、謎の敵メタドロンへ反撃に出る。
だが、そのための船旅のさなか、偶発的な戦闘で苦戦。
仲間の少女イデヤを助けるため、誰もが見知らぬ空の底へ落ちた。
そこに待っていたのは、旧世紀と呼ばれる千年前の真実だった!
カイムは浅い眠りの中、覚醒を繰り返す。
どうにも寝付けず、寝入っても寝た気がしない。
原因は、イデヤだ。
毛布が二枚しかないため、二人で一緒に寝ているのだ。下方を硬い床に敷き、もう片方を二人でかけて横になる。すぐ肌の触れる距離に、年頃の女の子がいるのだ。孤児院だってそうだったが、訳が違う。
イデヤは仲間で、同じ元竜騎士で、決して抵抗できない乙女なのだ。
だが、ようやく睡魔が誘惑してきた、その時だった。
「カイム、起きてください」
すぐ耳元で、囁かれた。
吐息がこそばゆい。
だが、ようやく眠りかけていたカイムは、返事を躊躇った。
瞬間、鼻に小さな痛みが走る。
「痛っ! ……イデヤ? なに、もう」
「そこまで痛くはない筈です。本気で噛んではいません」
「……普通は噛みつかないよ」
「私も寝過ごした時など、よくアモンに鼻を齧られたものです」
アモンとは、以前竜騎士だったイデヤの相棒である。
思い出したが、確かに待機中や移動時など、竜の側で休むことがあった。そういう時、カイムのジークはグイグイと鼻を押し付けてくる。一度、それでも起きぬから、ゴロゴロと丸太のように転がされ、航竜母艦のデッキから落ちそうになったことがあるくらいだ。
そんなことを思い出しつつ、眠い目を擦ってカイムは立ち上がった。
すぐ側では、器用に身を捩って腹筋でイデヤも上体を起こした。
「カイム、敵です。聴こえませんか? 風の中に、なにかが飛んでます。この独特の対流を生み出す翼は、もしや」
「……アダム、か? ここが見つかったのか!」
「わかりません。ただ、急いで騎体に戻ろうと思います。あれを破壊されてはいけません」
「わかった、緊急事態ってことだね。じゃあ、ゴメン!」
「ほへ? あっ!」
毛布をどけて、イデヤを両手で抱き上げる。
サバイバルキット一式は時間がないから置いていく。必要になったら、また取りに来ればいいのだ。すぐに全速力で、カイムは走り出した。
行きと違って、戻るのは手早い。
道は登りだが、着陸した場所までは迷わず行ける。
最初こそアレコレなにかを言っていたが、イデヤはおとなしくなってしまった。
「今は僕にもはっきり聴こえる。この音、間違いない!」
転がり込むように、開けた空間に出る。
その瞬間、足元を逆さまになった文字が通り過ぎた。
それはどうやら、だだっ広いこのフロアが格納庫だということを告げている。やはり、普通の船ではなかったようだ。軍艦かもしれない。
だが、それも今はどうでもいいことだった。
「イデヤ、壱號騎は?」
「飛べませんが、戦闘に問題はありません。……空中戦ができない時点で、戦力とは言えませんが」
「僕も駄目なんだ。左の翼をやられてる」
ひょい、とイデヤを持ち替えて、肩へと小麦袋のように担ぐ。
酷く軽い彼女は「ひあっ!」と妙な声をあげた。
そのまま、まずは片膝を突く壱號騎の操縦席へと向かう。片手でよじ登って全身を突っ張らせると、そっと座席にイデヤを押し込む。座席というよりは、まるでパーツをはめ込むような感覚だった。
ハーネスを固定して、イデヤの両手両足を屍棺機龍へ接続する。
「ところで、イデヤの壱號騎、やられてるのは右の翼みたいだ。だから、いいことを考えたんだけど……イデヤ? どうしたの、痛む? すこしハーネスを緩めようか?」
脱出のアイディアが浮かんだ、その時だった。
パズルの最後のピースのように、イデヤが屍棺機龍の一部になる。
瞬間、彼女は苦悶に瞑った目を見開いた。
「う、ああ……また、まただ……見える、なに、あれは……あああああああっ!」
「イデヤッ!」
「殺してやるっ! 早く! すぐに、急いで! 戦わなきゃ……倒さなきゃ、殺さなきゃ!」
ガクン! と壱號騎が揺れた。
まただ。
また、イデヤが暴走を始めた。
そして、奇妙な言葉の断片を拾った。
心当たりがあって、受け身を取って転がりながらも、立ち上がると同時にカイムは呟く。
「見える、だって? もしかして……まさか!」
だが、思考を巡らせている暇はなかった。
カイムたちが落ちてきた穴から今、両手に剣を持った巨躯が舞い降りる。
それは、人型に変形したメタドロン、アダムだ。
急いでカイムは、自分の参號騎へと駆け上がる。
その時にはもう、大鎌を翻して壱號騎が走り出していた。
『うああああああああっ! 死ねっ、死ねっ! 壊れ死ねぇ! またアレを見せるのか! ああっ! あ、ああ……ああああああっ!』
まるで泣き嘆くような絶叫だ。
イデヤの壱號騎が、アダムへと躍りかかる。着地したアダムは、その薙ぎ払うような斬撃を両手の剣で受け止めた。刃と刃がクロスして、イデヤの一撃を挟んで阻む。
ようやく操縦席で参號騎と繋がったカイムも、急いで剣と盾を構えた。
だが、次の瞬間……カイムは突然のことで、固まった。
ありえない、それは絶対に聴こえない筈の、声。
最後に聴いた時と同じ、澄んで張りのある声だった。
「そんな、まさか……いや、でも! 今、確かにっ!」
イデヤも聴こえたようで、武器を引いて一歩下がる。
そして、再度その声がゆっくりとカイムに呼びかけてくる。
『もう、やめましょう? ね、カイム。そっちのキミも』
「嘘だ……セシリア、先輩?」
そう、少女の声だ。
年上で、姉貴面して世話をやいてくる女性だった。
それは、間違いなくセシリア・アーベントの声。
間違えない、間違いようもないくらいに鼓膜に染み付いている。どんな小さな声でも、カイムはセシリアの声に言葉と意思とを拾うだろう。
今、アダムからセシリアが語りかけていた。
『私たちが戦うことに意味はないわ、カイム。お願い、話を聞いて。その呪われた兵器から、降りて』
「……ど、どうして。でも、確かにアダムからは人の気配を……ほんの僅かに、感じていた。それって、もしかして」
『そうよ、私が乗ってるの。だから、キミとは戦いたくないわ。ホントだぞ?』
どこかノリが軽くて、強い意志を秘めた声だ。
イデヤも混乱しているのか、いつもの鋭い動きが鳴りを潜めている。
飛べない二騎の屍棺機龍は、その歩みさえも止められてしまったのだった。
『キミたちももう、気付いているんでしょう? そんなものに乗っていると、どうなるか』
「えっ? セシリア先輩、それって……いや、でも! セシリア先輩なら、姿を見せてくださいよ! 僕、ずっとお礼が言いたくて。あの時、僕を助けてくれて!」
無防備にも、カイムは操縦席のハッチを解き放った。
だが、剣を構えたままアダムは動かない。
そして、絶叫が振ってきたのはそんな時だった。
『見つけたわっ! って、アダムも一緒!? ならっ、好都合ね!』
アディータの声だ。
同時に、無数の弾丸が雨と注ぐ。
アダムは最小限の動きで、ゆらゆらと揺れるように攻撃を避けた。そして、空からズシャリと弐號騎が降りてくる。その手が、握っていたボウガンを投げ捨てた。
同時に、腰の後部にマウントされた新しい武器を引っ張り出す。
『カイム、イデヤ! 無事ね! ……二人切りだからって、おかしいことになってないでしょうね』
「い、いやっ! なな、なんにもないって、それよりアダムは――」
『あとでキッチリ! ねっちり! たっぷり! 説明してもらうんだから! ン、でえええっ! コイツの出番ねっ!』
弐號騎が両手で、中折式の巨大な大砲を展開した。
それは、戦闘艦などに搭載するもので、今の人類がかろうじて作れる火器の一つだ。重火器の類は極めて少なく、旧世紀の発掘品は全く修復できない。そして、マスケット銃が徐々に普及しつつある中、艦船の大砲は優先的に開発が急がれていた。
艦からの砲撃は、メタドロンには基本的に当たらない。
だが、屍棺機龍の反応速度で狙いをつければ……?
『喰らってぇ、寝てろおおおおっ!』
「待って、アディ! 駄目だ、セシリア先輩がっ!」
轟音が響いた。
同時に、床を掴む弐號騎の両脚が大きく後ずさる。
火を噴く巨大な大砲は、流線型の砲弾を撃ち出した。丸い砲弾を放物線状に打ち出す、古いタイプの砲ではない。竜騎士だったカイムには、流れる空気の動きと音とで、砲弾の速さと形をはっきり感じ取っていた。
そして、アダムは直撃を受けてゆらりと揺れる。
その時にはもう、カイムはハッチを閉じて弐號騎に駆け寄っていた。
『ちょっとなによ、邪魔! カイム、なにやってんのよ!』
「あれにセシリア先輩が乗ってる! アディ、君のお姉さんじゃないか!」
『はぁ? 寝ぼけてんの? ……お姉ちゃんは、死んだの。アタシを残して、死んじゃったの!』
「そのセシリア先輩が、生きてたんだよ! もっとだから、言葉を」
だが、アダムはひしゃげた胸の辺りを気にするように、そっと手で触れ空を見上げた。そのまま宙に浮くと、目の前で飛行形態へ変形、飛び去ってしまう。
呆然とするカイムは、自分たちが助かったことすら忘れてしまうのだった。
この小説は、遥かな未来で地球の少年と火星の少女が巡り会い、太陽系の星々の運命が巡り回る『オービタルエリス』の提供でお送りします。
オービタルエリス:jukaito著
https://ncode.syosetu.com/n6181df/
宇宙の神話が動き出す……超本格派SF、少年少女が手にする力の意味とは!?
・次回予告
どうにかカイムは、イデヤと無事に母艦に帰投する。
だが、張り詰めた緊張が解けたのか、イデヤは倒れた。
彼女に代わってカイムは、総司令アッシュへと報告する。
そして、断片的な真実がいよいよ姿を見せ始めた!?
次回、第24話「帰還、報告、そしてまた」
――汝、人を象る龍となれ!




