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フルメタル・ドラグーン  作者: 長物守
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第22話「二人きりの、夜」

・今までのあらすじ


 竜騎士として戦えなくなった少年、カイム。

 彼は巨大人型兵器、屍棺機龍の操縦者として戦場へ戻る。

 再び民を守る戦いを始めたカイムへ、謎の敵アダムが迫る!

 奮闘虚しく、仲間のイデヤと共に撃墜されたカイム。

 彼は旧世紀の方舟に避難し、そこで真実の一端に触れたのだった。

 暖かな灯火(ともしび)は、人の心を落ち着かせる。

 無味無臭だった空気に、固形燃料が燃える臭いが(わず)かに入り混じった。

 缶詰(かんづめ)を温めつつ、カイムは飲料水でお湯を沸かしていた。こういう時でも、熱いお茶を飲めば心の疲れが取れるものである。

 そして、すぐ側ではイデヤが瞳を輝かせていた。

 まるで童女(どうじょ)の用に、先程からずっと缶詰を見詰めている。


「カイム、そろそろいいのではないでしょうか」

「いやそれ、さっきも言ったよね……もう少し待って」

「わかりました。……待ちきれません、そろそろでは」

「もう少し温めてから食べた方が美味しいよ? 多分ね」


 本当に子供だ。

 見えない手足をバタつかせないで、おとなしく座っててくれるのだけが救いである。かなり空腹らしく、待ちきれない様子なイデヤだった。

 そして、カイムはふと気付いて自分の義手を外してみる。


「ねえ、イデヤ。僕の義手……はまるかな?」

「あ……ごめんなさい。多分、ソケットの大きさが」

「そっか。イデヤの腕、細いもんね」

「そうでも、ない、ですけど」


 カイムの右腕、そしてイデヤの四肢……欠損してしまった断面を、外科手術でソケット化してある。これは義手義足を使うだけでなく、全神経を屍棺機龍(ドラグレイヴ)に接続するためだ。

 そういえばと、カイムは思い出す。

 自分は右腕だけだが、アディータは両脚だ。

 そして、イデヤに(いた)っては四肢の全てが義手義足である。

 しかし、今は鋼の手足はこの場所にはない。


「カイム、待ちきれません……もう食べてもよいのでは」

「はは、わかったよ。ちょっと待ってね」


 義手を付け直して、カイムは缶詰へと手を伸ばす。義手の右手でも、火に当ててた缶詰に触れれば熱さを感じる。この時代の義手よりも、ドラグマンサーズで造られているものは何倍も精度が高く、機能に優れている。

 素手ほどではないが、触れたものの柔らかさも感じることができた。

 缶詰を開封して、スプーンを取り出す。

 一口すくって、それをイデヤの口元へ運んだ。


「はい、あーんして」


 なんだか、少しドキドキする。

 今のイデヤは、カイムが世話してやらなければなにもできないのだ。この少女は、自分が守ってやらなければいけない。そう思うと、普段の頼もしい仲間である以上の気持ちが、心の奥底から浮かび上がってくるのだ。

 イデヤは桜色の(くちびる)を開いて、スプーンに勢いよくパクついた。

 そして、大きな瞳をさらに大きく見開く。


「っん! んんんっ!」

「熱かった? って、ちょっとイデヤ? ねえ、ちょっと」


 イデヤの口がスプーンを放さない。

 そして、(うる)んだ瞳がゆるゆると炎の光に揺れていた。

 ようやく彼女の口からスプーンを引き抜くと、イデヤは珍しく熱っぽい声で(つぶや)く。


「これは……お肉です。美味(おい)しい……お肉です、カイム」

「そ、そうだね。えっと、鶏肉(とりにく)かな?」

「さあ、カイム。もっとお肉をください。そして、カイムも食べてください」

「う、うん、じゃあ」


 缶詰の中身は、鶏肉の煮込(にこ)みだ。保存食として、かなり強い味付けがしてあるようである。とろみのあるタレの中から、一欠片の肉をスプーンですくう。

 そして、ふとカイムは手が止まった。

 このスプーンは、先程イデヤがかじりついていたものである。よほど鶏肉が美味しかったのか、なかなか口から放そうとしなかった。そのスプーンで今、カイムも一口御相伴(ごしょうばん)に与ろうとしている。

 いいのか……いいのだろうか。

 そう思っていると、視線を感じた。

 (となり)のイデヤが、じっとカイムを見詰めてくるのだ。

 正確には、カイムのスプーンに乗る、ほろほろの鶏肉に見入っている。


「あ、えと……食べる?」

「いえ、カイムが食べてください。貴重な食料は、公平に半分ずつ食べるべきです」

「いや、その……凄く、食べ(づら)いんだけど。い、いいよ、ほら、もう一口」

「……カイムは優しいですね。では」


 あんむ、とイデヤは鶏肉を食べる。

 なんだか、赤子の世話をしているみたいだ。そして、普段より何倍も今のイデヤは子供っぽさを感じる。

 そう思っていると、咀嚼(そしゃく)し終えたイデヤが小首を(かし)げた。


「カイム……なにか、こう、手慣れていませんか?」

「ああ、孤児院では下の子たちを世話してたからね」

「そうでしたか……よかった、です。私はてっきり、過去にも自分のような手足の不自由な美少女とこうしていたのかと思ったのですが」

「こういう経験、そうそうあるもんじゃないと思うよ。年を取れば別かもだけど」


 というか、自分のことを今、美少女って言った?

 言った、さも当然のように言った。

 イデヤは(まさ)しく、(はかな)げな印象がある美しい乙女だ。手足がないことも、どこか背徳的(はいとくてき)な魅力を感じさせてくる。だが、基本的に肉食だし、そっけなくて無愛想(ぶあいそう)仏頂面(ぶっちょうづら)鉄面皮(てつめんぴ)である。

 そのイデヤが、表情一つ変えずに視線で(うなが)してくる。

 あまり食欲はなかったが、結局カイムも一口缶詰を食べた。

 そうして、二人で缶詰を一つ空けてしまった。

 勿論(もちろん)、大半がイデヤのお腹におさまった訳だが。


「ふう……少し物足りないですが、食料は貴重です。ごちそうさまでした、カイム」


 口元を拭いてやると、イデヤは(おおむ)ね満足したようだ。

 そして、そのまま後ろに倒れて寝そべってしまう。


「食べてすぐ横になると、牛になるよ? イデヤ、お行儀が悪い」

「二人きりですから、問題ありません。それに、牛は好きです」

「いや、君が好きなのは牛肉でしょう」

「そう、ビフテキやビーフシチュー、焼いてよし、煮込んでよし」

「本当にお肉が好きだなあ、イデヤは」


 だが、イデヤには全く贅肉(ぜいにく)がついていない。あれだけの食欲で摂取したタンパク質は、いったいどこへと行くのだろうか。メリハリのある体型で女性的なシルエットのアディータに比べて、イデヤはガリガリに()せている。

 薄い胸に、浮いた脇腹(わきばら)肋骨(ろっこつ)

 腰などは酷く細くて、触れれば折れてしまいそうだ。

 そういう一種の危うさというか、言葉にできないなにかが庇護欲(ひごよく)をそそるのだろう。

 そんなことを思っていると、真っ直ぐ天井を……逆さまの床を見上げて、ぽつりとイデヤは(こぼ)した。


「カイム、先程の……メルキオールさんの話ですが」

「ああ、うん」


 ()いた湯でお茶を準備しながら、カイムも先程の出来事を思い出す。

 幽霊のように浮き出た、謎の人物……メルキオール。彼は意味不明な言葉ばかりを並べたが、その中に興味深い単語があった。

 メタ・ドローン……それが、今はメタドロンと呼ばれている敵の始まりか。

 千年前、母星が砕かれ散らばる以前の時代。今は旧世紀と呼ばれる忘却の過去に、いったいなにがあったのだろうか? そのことへと想いを馳せれば、疑問は尽きない。


「あの人は、わけのわからないことばかり言ってたね。ええと、エーアイ? とか、イデンシ? とか。でも、気になることがあって」

「メタ・ドローン、ですね? 今の私たちが戦っているメタドロンだと思われます」

「そう、それは人の手が造り出したものみたいだ。それも、戦争を抑止(よくし)するためだとあの人は言ってた」

「ですが、実際には私たちは、そのメタドロンとの戦いで滅びつつあります」

「……ひょっとしたら、人間自体が駄目だって思われてるのかなあ」


 何故(なぜ)、旧世紀の人々はメタドロンを生み出したのか。

 戦争や紛争を根絶するために、武力を感情無き機械に任せてしまったように思える。そして、自分たちで自制することを放棄し、まさに神の(ごと)き存在を生み出してしまった。それが、メタドロンだ。

 人が平和を望んで生み出したメタドロンが、平和のために人間を攻撃し始めたとしたら? その(いびつ)なパラドクスを、完全な矛盾と思えないのがカイムだった。

 そして、それはイデヤも同じらしい。


「今でも、浮島(うきじま)の国家同士で戦争はあります。また、国内に紛争を抱えた国もなくなりません。本来メタドロンと戦う竜騎兵団(りゅうきへいだん)も、その活動の半分は国防や侵略行為だったりします」

「だね……(さいわ)いなことに、僕はメタドロン以外とは戦ったことはないけど」

「リヴァリース皇国は比較的平和な国ですから。私も、人に剣を向けたことはありません」


 人間というものについて、ついつい考えてしまう。

 こうして今は、身を休めて英気を養うしかできないからだ。

 助けを待ちつつ、脱出の方法も考えなければいけない。だが、ついつい先程のメルキオールの話した過去が気になるのだ。

 そして、理解不能な単語ばかりだが、カイムもおおよその見当がつく。

 旧世紀の人たちは、メタドロンに自分たちを管理させようとして、自爆した。そして母星は砕け散り、人々はこのような巨大な船を建造して遠くへ逃げてしまったのだ。


「残された僕たちのことも、考えてほしかったなあ」

「カイム?」

「いや、さ……脱出船団がどうとか言ってたから、大多数は安全などこかへ逃げたんだと思うんだ。でも、僕たちは今も陸地のない世界に取り残されている。千年間ずっと」

「ギリギリの選択だったのかもしれません。それに……私たちには竜がいてくれて、屍棺機龍があります。ただメタドロンに滅ぼされるのを、待つ必要はありません」


 イデヤの言う通りだ。

 旧世紀の人たちのことは、考えてもわからないし、知らないことが多過ぎる。そして、メタドロンは天使の名を冠する敵でしかない。滅びを招いてしまったのは旧世紀であって、今を生きるカイムやイデヤではないのだ。

 熱い茶をマグカップに入れて、カイムはイデヤに向ける。

 イデヤはもそもそと這うようにして、なんとカイムの(ひざ)の上に乗ってきた。


「あ、そっか。手が……って、イデヤ!? あの、近い! 近いから!」

「ふーふー、してください。私、猫舌(ねこじた)なので」

「いや、そういう問題じゃなくて! 飲ませてあげるから、ちょっと離れて」


 こうして、少年少女の夜が()けてゆく。

 なるべく体力を消耗しないよう、このあとすぐに二人は寝ることにするのだった。

この小説は、遥かな未来で地球の少年と火星の少女が巡り会い、太陽系の星々の運命が巡り回る『オービタルエリス』の提供でお送りします。


オービタルエリス:jukaito著

https://ncode.syosetu.com/n6181df/

宇宙の神話が動き出す……超本格派SF、少年少女が手にする力の意味とは!?




・次回予告


 披露の蓄積がカイムを、深い眠りへと誘う。

 だが、ここは未開の空、人の手が及ばぬ旧正規の方舟だ。

 一度は撃退したアダムにとっては、庭にも等しい空域だった!

 再び襲い来る脅威を前に、頼れる援軍が到着する!?


 次回、第23話「逆襲のアダム」


 ――汝、人を象る龍となれ!

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