第21話「星断戦の真実」
・今までのあらすじ
戦場へと舞い戻ったカイムが得た、新たな戦う力。
それは、竜の死骸を敵の技術で紡いだ人型兵器、屍棺機龍だった!
圧倒的な屍棺機龍の戦闘力を持って、皇立特務鋼龍戦隊ドラグマンサーズは出撃。
しかし、謎の変形メタドロン、アダムにカイムは撃墜されてしまう。
イデヤを救いたい一心で、彼女とたどり着いた空の底には……!?
ランタン一つの明かりを頼りに、探索が始まった。
既に航竜母艦バハムートを出て、半日が経っている。もうすぐ夕暮れなのだが、見知らぬ空の見たこともない構造物に入って、時間の感覚がかなりあやふやだ。
この時代、まだまだ時計は高級品だし、小さいものほどさらに値が張る。
そんな時、キュゥゥゥ、と可愛らしい腹の虫が鳴いた。
「……お腹が減りました、カイム」
「ま、待って、とりあえずもう少し」
「お肉が食べたいです」
「意外と肉食系だよね! でも、だんだんわかってきたんだ。これ、船じゃない?」
そう、カイムがイデヤを背負って彷徨う謎の構造物……旧世紀に造られたらしい巨大な物体の正体は、船だ。それも、上下が逆さまになって転覆している。
船底に空いた大穴から、カイムとイデヤは入ってきたことになるだろう。
つまり、今歩いている廊下が天井で、頭上には本来の床が広がっている。
全く開く気配のないドアの全てが、その配置がカイムに教えてくれたのだった。
「つまり、逆さまになってるんですね。では、こうして下に降りるということは」
「そう。船なら、下に……本来の上に、艦橋かそれに類する部屋がある筈だ」
「……そこに、お肉があると。そこまで行けば、食事になりますか?」
「ごめん、わからない! ふふ、でも……とりあえず、安全で暖かい場所を探すには、そこに行くのが一番手っ取り早い。船内の見取り図とか、あるかもしれないし」
残念ながら、その旅はなかなかにハードなものになった。
この船は、全てのドアがノブのないものである。調べればすぐに引き戸なのだとわかったが、手をかけるところが見当たらない。
それもその筈、なんと扉は自動的に開くのだ。
妙な光がまだ点滅している箇所があって、カイムたちが近付くだけで開いた。
だが、その中は残念ながら先客がいた。
とりあえず弔う余裕もないので、白骨化した化石のような死体に手だけを合わせて先を急ぐ。
「あった、下へ降りる……上に昇る階段だ。でも、妙じゃない?」
「です、ね。どうして、これだけの巨大な船なのに、小さな階段が一つだけなのでしょう。上下に人員が移動する際、不便ではないでしょうか」
「えっと……非常、階段? って書いてるみたいだ」
「よく探せば、きっと大勢が行き来できる階段もあるのでしょう。進んでください、カイム」
涼やかなイデヤの声に、再度キュゥゥゥ、と腹の虫が返事をする。
肩越しに振り返れば、僅かに頬を染めてイデヤが視線をそらした
年頃の乙女に相応の羞恥心があるらしく、妙に安心する。
そして、そっぽを向いた横顔がとても綺麗だった。
自然と、口移しに薬を飲ませた唇の柔らかさ、今こうして密着してくる胸の暖かさを意識してしまう。慌ててカイムは、朽ちた手すりに掴まり下へと降りた。
イデヤがとんでもないことを言い出したのは、そんな時だった。
「カイム、もしなにかあったら……私を捨てて逃げてください」
「えっ? ちょっと待って、なにを」
「今の私では、文字通り手も足も出ません。足手まといです。気配を感じませんが、メタドロンと接敵した場合、カイムが危険です。カイムには、自分を守ってほしいのです」
突然のことだが、言わんとしていることはわかる。
だが、そういうイデヤはあまりにも体重が軽過ぎて、苦にならないのだ。
「……僕には、メイムが待ってるから?」
「はい」
「なら、イデヤも一緒に帰らなきゃね。お父さんがいるじゃないか」
「父は……そう、ですね。父は私が戻ったら、喜んでくれるでしょうか」
「それはわからない。でも、僕はイデヤと一緒に帰れる方が嬉しいよ」
今、手持ちの武器はサバイバルキットに入っていた山刀だけだ。ちょっとした料理から樹木の伐採、狩りにも使えそうなすぐれものである。竜騎士として訓練されているから、その気になればカイムは自信がある。
それに、イデヤのためには頑張りたいと思えてくるのだ。
だから、上下逆さまな船の中を、磯で先へ進む。
「随分降りてきたけど、イデヤ。もうすぐ、ブリッジだと思う」
「はい。一つのフロアが、だいぶ狭くなってきました。上に行くほど細くなる、艦橋の構造に合致します。……カイムは、お腹がすきませんか?」
「僕? はは、そこまでキモが太くないよ。逆に、イデヤは大物だなあって思った」
「て、照れます」
そうこうしているうちに、一際大きな扉の前に辿り着く。
両開きの引き戸で、中途半端に開いている。だが、他の多くがそうであるように、動く気配はない。光が灯っていれば、自動で開くことは確認済みだが、これではどうしようもない。
だが、カイムは周囲を見渡し、手にしたランタンを掲げる。
他に部屋はなく、廊下も左右で途切れている。
ここが艦橋部分の最上階だった場所だ。
「よし、ちょっとこじ開けてみよう」
「気をつけてください、カイム」
「平気さ、メタドロンとの戦いに比べればこれくらい」
「……私も、義手があればお手伝いできるのですが」
「いいって、早く安全な場所を確保して、ごはんにしよう」
「はい」
微かに開いた隙間に手を差し入れて、全力で押し開く。多少の抵抗を感じたものの、重い扉は左右に割れて開けた。
すると、目の前に無数の光が浮かんでいた。
上を見上げれえば、座席がいくつか並んでいる。
その一つは、どうやら船長席のようだ。
「見て、イデヤ。ここも光が……なにかしらの電源が生きてるんだ」
驚くカイムが、更に息を飲むことになった。
不意に光が集って像を結んだのだ。
ぼんやりと浮かぶ人影は、男のようでもあり、女のようでもあった。だが、上下が逆さまなので、カイムたちと違って頭を下に浮き上がっている。そして、時々ノイズが走って輪郭が酷くぼやけていた。
『本艦は現在、総員退艦命令が出ておりマス。自沈処理まであと、-8,742,017時間デス』
「な、なにを……あなた、誰です? どこにいたんです!」
『ワタシは本艦のサポートAI、メルキオール。繰り返します、本艦は現在――』
意味がわからない。
ただ、とりあえず人間ではないことだけは理解できた。
「エーアイ? 参ったな……幽霊にでくわすなんて。まあ、船には幽霊話の一つや二つは」
「カイム、とりあえずこのメルキオールさんから、有益な情報は得られないでしょうか」
「本艦のサポートを、とか言ってたね……あの! どこかに安全な場所はないですか?」
思わず、具体性のない言葉を発してしまった。
慌てて言葉を継ぎ足そうとした、その時だった。
メルキオールと名乗った影は、突然静かに喋り出した。
『既に地球脱出船団は、新天地へと出港しまシタ。地球崩壊は防げず、本艦も被弾。よって半径5,000km四方に、メタ・ドローン反応のない場所は確認できまセン』
「カイム、kmとは1,000m、私たちの言うkmでしょうか」
「それより、メタ・ドローンだって? それってもしかして。それはメタドロンのことか!?」
不思議な影は沈黙を挟んだ後、何度か歪んで消えそうになる。
ややあって、不気味な程に平坦な声が語り始めた。
『西暦2140年、第一世代のメタ・ドローンによる世界秩序の維持システムが可動し始めまシタ。完全なドローン……自律型の滞空型制圧兵器群により、恒久平和が訪れたのデス。翌年、プーチングラード条約により、一部の光学銃器を除く武器、兵器が全廃されままシタ』
「……ちょっと待って、それは」
「カイム、続きを聞いてみましょう。続けてください、メルキオールさん」
メルキオールの語った話は、こうだ。
今から千年前、旧世紀の人間たちは絶滅の危機に貧していた。差別と貧困、食料とエネルギーの枯渇……故に、絶えず戦争が耐えなかった。しかも、それは同時多発的に各地で発生し、国家では対処が不能なレベルで母星を覆っていったのである。
そこで、メタ・ドローンと呼ばれる下僕を生み出した。
自分で考え、公正なルールによって人を裁く、自己進化と自己修復、自己増殖の力を与えられた機械の生命体だった。
『しかし、人類の戦争を根絶、絶滅させ、ル、シス、テ……は、最終的に、自己完結……究極の、結論……戦争が、人類から、シカ……生まれ、ナ、イ……』
「それって……なあ! 待ってくれ、もう少し話してよ。それって、僕たちが今戦ってる、メタドロンのことじゃ。あいつらがじゃあ、星断戦を?」
『星断、戦……人類ハ、選択……次世代、ハ……地球脱出、船団……残ル者タチ、ハ、遺伝子……環境ヲ、維持……ナノマシン、散布……空間、ノ……安定化……』
メルキオールの姿がたわむ。
そのまま乱れた光の波となって、彼の姿は消えてしまった。
彼女だったかもしれないし、それはわからない。
理解できないことが多過ぎる。
ただ、今まで光っていた周囲の機械も、静かに沈黙してしまった。
「なんだったんだ……イデヤ、意味がわかる?」
「私にも少し、難しいですね。ただ、言葉の断片や文脈、重要そうなキーワードは記憶しました。帰って父に報告すれば、あるいは……父は、旧世紀の研究では第一人者ですから。それと」
「それと?」
イデヤは周囲を見渡し、ぐいと身を乗り出してきた。
すぐ耳元に、彼女の静かな呼気が感じられた。
「この部屋は、どの場所よりも暖かいですね。恐らく、機械が出す熱かもしれません。もう止まってしまいましたが、他の部屋よりはよさそうです」
そう言って、彼女は食事の時間にしようと提案してくる。
まるで食欲を感じないのだが、二度あることは三度ある……イデヤのお腹がまた、キュゥゥゥと鳴った。それはどこか、小さな子猫が鳴くようなか弱さがあった。
とりあえず周囲に危険もなさそうなので、カイムはそっとイデヤを背から下ろすのだった。
この小説は、現代日本でドラゴンに家族を奪われた少年がダンジョンに潜り復習を果たす物語『東京ドラゴンスレイヤー』の提供でお送りします。
東京ドラゴンスレイヤー:パクリ田 盗作著
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888763311
我が名は園田! 園田善治! 我は竜を狩る虎の牙なりっ!!
・次回予告
メタ・ドローン、地球脱出船団、そして星断戦……
謎が謎を呼ぶ中で、謎の人物メルキオールは消えた。
残されたカイムとイデヤは、とりあえず束の間の休息を得る。
だが、改めてカイムは思い知ることになった。
イデヤは今、無力で、儚げで、美しい少女なのだった。
次回、第22話「二人きりの、夜」
――汝、人を象る龍となれ!




