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フルメタル・ドラグーン  作者: 長物守
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第20話「忘却された方舟」

・今までのあらすじ


 再び戦うすべを得て、カイムは皆を守るため空に戻った。

 戦場での新たな力……それは竜の死骸と未知の科学で造られた、屍棺機龍。

 だが、謎の敵メタドロンも変形する新型、アダムを投入してくる。

 激しい戦いの末に、イデヤを守ろうとして墜落するカイム。

 二人はそのまま、誰も生きて帰らなかった空の底に落ちたのだが……!?

 謎の構造物、その内部へと落ちてゆくカイム。

 程なくして、薄暗がりの中に底面が見えてきた。そこは、なにやら見たこともない機械が散乱している。周囲にメタドロンの敵意は感じられない。

 そっとイデヤの壱號騎(いちごうき)を降ろし、その隣へとどうにか着陸した。


「ふう……なんだ、ここは? 安全、みたいだけど」


 屍棺機龍(ドラグレイヴ)の外へと、目を凝らす。

 うっすらと差し込む光の向こう側は、闇。

 この場所だけが、陽だまりのように弱々しい日光に照らされていた。

 耳が痛くなるほどの静寂に満ちて、人や生き物の気配は全くない。

 意を決して、カイムは参號騎(さんごうき)に接続された右腕を引っこ抜く。そして、座席の背後にしまってあった義手をサバイバルパックと共に取り出した。

 カイムは義手をはめ込みつつ、その感触を確かめる。

 意を決して、彼は操縦席のハッチを開けた。

 ひんやりとした空気が、肌を刺す。

 片膝(かたひざ)を突いて屈んだ参號騎から飛び降り、一度だけ振り向いた。


「ごめん、ジークヒルト。ちょっと周囲を見てくる。それに、イデヤも心配だ」


 勿論(もちろん)、屍棺機龍は言葉を返さない。

 かつて一緒だった竜のジークのように、ゴロゴロと(のど)を鳴らして(なつ)いてもこない。

 それでも、カイムにとっては今や、参號騎は大事な相棒だった。

 そしてそれは、恐らくイデヤも同じだろう。

 うなだれたように、四つん這いで壱號騎が側に停止している。すぐに駆け寄り、外装に手を伸ばす。竜の甲殻(こうかく)(うろこ)(つむ)いだ、無敵の装甲板は冷たい手触りだ。

 どうにかメンテハッチを見つけ、その中の強制解除ボタンを押し込む。

 ブシュッ! と圧搾された空気の音が響いて、ハッチが開いた。


「イデヤ、大丈夫? 今助けて、あ、げ――ッ!?」


 絶句。

 思わず鼓動や呼吸も止まった。

 そう錯覚する程に、カイムは驚いた。

 そして、気付く……屍棺機龍がどのような兵器だったかを。繊細な動きの全ては、肉体の欠損した部分を接続して、竜の成れの果てへ神経を張り巡らせるのだ。

 見上げる目の前に今、イデヤが両手両足を接続されたままぶら下がっている。

 まるで、(はりつけ)にされた殉教者(じゅんきょうしゃ)のようだ。

 操縦者の着る、体のラインが浮き出たインナー姿で埋め込まれている。まるで、イデヤ自体が屍棺機龍の一番高価で美しい部品のようだ。


「っと、とにかく、一度降ろしてあげないと」


 コクピットによじ登って、カイムはイデヤを解放してやる。ソケット化された両手両足を外して、細い腰を固定していたハーネスからも解き放つ。

 あまりにも軽い彼女の体は、片手でらくらくと抱き寄せられた。

 呼吸はしているし、ひんやりとした体の瑞々(みずみず)しさも生を告げてきた。

 命に別状はなさそうだが、イデヤは(ひたい)眉根(まゆね)を寄せ、苦痛に顔を歪めていた。

 そっと床に降ろして、額に手を当てる。

 熱はないが、イデヤは苦しげに(うな)るだけだ。


「んっ、っ……ァク! う、うう……」

「イデヤ、しっかりして!」

「んぁ……い、いた、い……」

「痛い? あっ、ちょっと待って」


 まるで悪夢にうなされるように、イデヤが身を捩る。

 有りもしない手足をばたつかせ、身をのけぞらせる。

 確かに彼女は、痛いと呟いた。

 それでカイムは、出撃前に渡された痛み止めの存在を思い出す。あまり激しい痛みがないから、自分では使ったことがなかった。


「って、錠剤(じょうざい)だ!? 注射とかじゃなくて、飲み薬なのか」


 竜騎兵団(りゅうきへいだん)竜騎士(ドラグーン)として在籍していたから、ある程度は応急処置の心得はある。

 痛み止めの白い錠剤を、意を決してカイムはイデヤの(くちびる)に押し当てた。同時に、義手の右手で器用にサバイバルキットを開けてゆく。飲料水が入っていて、そのボトルを取り出した。


「っと、上手く飲ませられない……イデヤが目を覚ましてくれれば。……ええい、ごめん!」


 イデヤは唇と(ほお)を水で濡らすだけで、なかなか錠剤を飲んではくれなかった。

 そして、より一層苦しげに唸り続ける。

 意を決して、カイムは自分の口に水を含んだ。

 錠剤を飲ませて、さらに唇を重ねる。

 細く白い(のど)が、ゴクンと小さくなった。

 どうにかイデヤは、薬を飲み込んでくれたようである。

 だが、離れたカイムは手の甲で唇を拭う。酷く柔らかくて、ひんやりと冷たかった。イデヤの赤く薄い唇は、カイムの唇に忘れ得ぬ感触を刻みつけてきたのだった。


「こ、これでよし! ……あとで謝らなきゃ。それと、壱號騎からも」


 その場にとりあえずは、毛布を敷いて再度イデヤを改めて寝かせる。

 ようやく周囲に注意を配る余裕ができたが、床は金属だ。やはり、この構造物は人間が作り出したものであることは間違いない。

 だとすれば、恐ろしい話だ。

 こんな巨大なものは、今の人間には到底建造不可能だろう。

 改めて今、カイムは自分が失われた歴史の一部に触れていると気付いた。

 ここは恐らく、旧世紀に造られた何らかの施設かもしれない。


「っと、イデヤの手足がないや。あ……そういえば、アディもだけど、母艦に置いてきてるんだっけか。とりあえず、サバイバルキットを」


 イデヤは両手両足が義手義足だ。

 そして、アディータも両足が義足である。

 狭い操縦席の中に持ち込むには、少しばかり荷物になると思ったのだろう。

 それでカイムが再び戻ると、イデヤが目を覚ましていた。

 だが、カイムを見て身を起こそうとするが、手足をばたつかせるだけだった。


「えっと……起こそうか? イデヤ」

「お願いします。それと……助けてくれて、ありがとう」

「いっ、いい、いいって! いや、ほら……仲間、だからさ」

「はい。でも、何故(なぜ)赤くなるのですか? 耳まで真っ赤です」

「いや! なにも、なんでもないんだ! そ、そうだ……痛みはどう? なんか、うなされてて」

「薬が効いているみたいです。飲ませて、くれたんですね」


 平然と無表情で、イデヤは淡々と言葉を紡ぐ。

 逆に、前後不覚と言えるほどにカイムはうろたえてしまった。彼女の華奢(きゃしゃ)な身を起こしてやり、そのまま片腕で支えてやる。唇はまだ、先程の甘やかな感触を覚えていた。

 どうやらイデヤは、口移しで痛み止めを飲ませたことを知らないようだ。

 そして、まるで()き物が取れたようにおとなしい。


「ここは……?」

「わからない。僕たち、アダムとの戦闘中に落ちたんだ」

「では、ここは空の底なんですか?」

「それも、まだ。なんとか浮かび上がろうと上昇したけど、翼をやられてて」


 事情を話せば、イデヤの壱號騎も翼を損傷しているという。

 このままでは、上へは戻れない。

 だが、とりあえずの危険は去ったようだ。

 幸いなことに、ここに逃げ込んでからはメタドロンの追撃も止んでいた。

 だが、突然イデヤは首を巡らせ、じっと自分の壱號騎を見上げる。

 そして、意を決したようにカイムを見詰めてきた。


「カイム、()()()()()()()()()

「わかった、ちょっと待っ――はぁ!? ま、待って! そういうのはまだ早い! っていうか、なにを(やぶ)から棒に。駄目だよ、よくない! 健全じゃない!」

「……カイム? あの、サバイバルキットの中に多目的用のワイヤーがありますので」

「でっ、ででで、でも、僕はですね、ええと」


 きょとんとしてしまったが、イデヤは相変わらず無表情で話す。

 その声はとても落ち着いていて、カイムの想像したこととは全く違う内容を話した。


「私はこのままでは、移動ができません。私を背負ってほしいのです」

「……あ、そういう……意味?」

「はい。他にはどのような」

「なんでもない! うん、そうだね! 不便だものね!」


 誤魔化すようにして、カイムはイデヤに背を向けた。そして、二人分のサバイバルキットをチェックする。飲水は、多分節約すれば一週間分はありそうだ。食料も同じく。他には、山刀(マチェット)と固形燃料、コンロとセットになった小さな鍋。医薬品も少々あって、他にもワイヤーや工具が少し入っている。

 一番短いワイヤーを選んで、カイムは再びイデヤに向き直った。


「じゃあ、背負うけど……これからどうするの?」

「まず、落ち着ける場所へ移動しましょう。ここは少し寒いですし。私が思うに、ここはがらんとしていますが、他の場所へ移動すれば居住スペースか、それに類する場所が見つかるかもしれません」

「……これが旧世紀に造られた、人間の暮らした場所なら、そうだね」

「まずは身を休める場所を見つけて、改めて現状把握のために情報を整理しま――っぷし!」


 イデヤが小さくくしゃみをした。

 確かに、お互い薄着だから少し寒い。

 毛布が二枚あるので、今まで敷いてた方のを、そのままイデヤを包むように羽織(はお)らせ、その上にワイヤーを通す。赤子を背負う要領で、背に招いてカイムはイデヤを固定した。

 ぴったりと密着してくるイデヤの胸が、その奥の鼓動まで伝えてくる。

 立ち上がると、荷物を纏めて周囲を見渡した。


「……では、行きましょう。アモン、またあとで。それまで少し、おやすみなさい」


 それは、かつて竜騎士(ドラグーン)だったイデヤの相棒、竜の名前だ。彼女の壱號騎はやはり、アモンの死骸から造られているのだ。

 どこか無機質で無感情な彼女が、自分の愛騎に見せた優しさが嬉しかった。


「さて、どっちに行けば」

「向こうから風を感じます。小さな隙間から、風が漏れ出てる……そんな感じです」

「わかった、行ってみよう」


 カイムも風には敏感だが、イデヤはそれ以上だ。

 そして、彼女の吐息(といき)が首筋に感じられて、変に意識してしまう。

 カイムは邪念とも言える桃色の感情を頭から振り払い、なるべく考えないようにして歩き出すのだった。

この小説は、現代日本でドラゴンに家族を奪われた少年がダンジョンに潜り復習を果たす物語『東京ドラゴンスレイヤー』の提供でお送りします。


東京ドラゴンスレイヤー:パクリ田 盗作著

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888763311

我が名は園田! 園田善治! 我は竜を狩る虎の牙なりっ!!




・次回予告


 旧世紀時代のものと思しき、謎の構造物。

 空の底で重い空気に沈んで、幽霊船のようにそれは漂う。

 そう、船……これは巨大な船だった。

 そして、残されたデータが開示される。

 まだ一部の機能が、どうやら生きているようだが……!?


 次回、第21話「星断戦の真実」


 ――汝、人を象る龍となれ!

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