第18話「イデヤの瞳が見詰めるもの」
・今までのあらすじ
屍棺機龍を得て、再び人類を守る戦いにカイムは舞い戻った。
イデヤとアディータ、二人の少女も仲間として戦ってくれる。
謎の組織ドラグマンサーズに加わり、カイムたちは新たな戦いへと船出する。
だが、その先で待っていたのは、再び暴走するイデヤと、メタドロンの大群。
そして、少女が暴走してでも助けたかったものとは……!?
あっという間に、目の前にメタドロンが迫ってくる。
カイムは急いで戦闘態勢を取った。腰の後ろにマウントされた鞘から、新しい剣を引き抜く。通常のものよりも長くて重く、鋭い輝きの刃は独特の形状をしていた。
「なんだこれ……真ん中になにかが」
『ちょっとカイム! 来るわよっ! アンタ、そのバカを守りつつ下がりなさい!』
アディータの声が響き渡る。
彼女はボウガンの長いバレルを、敵へと向けて身構えた。
同時に、接敵。
あっという間に三騎の屍棺機龍はメタドロンに囲まれてしまった。
すぐ背後には、母艦のバハムートも近付いてくる。
やるしか、ない。
「イデヤ、僕と一緒にオフェンスに! アディ、援護を頼む!」
『ちょっとアンタ! なに仕切ってんのよ! もうっ! 流れ弾に当たったら承知しないから!』
すぐに、無数の銃弾が浴びせられた。
カイムは背後の壱號騎を庇うように、盾を振りかざした。以前のものより一回りも二回りも大きく、全身を覆い隠す事ができるカイトシールドだ。その表面には、竜の頭部をあしらったレリーフが描かれている。
この盾については、おやっさんこと整備長から説明があった。
特殊な盾で、その特性は『攻撃は最大の防御』だという。
シールドバッシュの有用性は、竜騎士だったカイムにはよくわかる。時には剣や槍より、盾のような面での打撃攻撃が有効である。
「それと確か……ええい、今はそれよりイデヤを! ……イデヤ? どこか具合でも悪いの? イデヤ――」
奇妙な形の剣で、次々とエクスシア級を切り払う。
背後からも、アディータの射撃が死角をカバーしてくれた。
だが、イデヤは沈黙したままだ。
そして、微動に震える壱號騎の、その頭部の双眸に凶暴な光が走る。
突如として壱號騎は、翼を広げるや飛び出した。
「イデヤッ!」
『殺す! ブチ殺すっ! お前たちにもう、やらせない……やらせはしないっ、うわあああああああっ!』
それは正しく、荒れ狂う暴力の嵐だった。
長柄の大鎌をしならせ、壱號騎は不気味な機動で鋭角的に飛ぶ。まるでデタラメなその動きに、メタドロンは全くついていけないようだ。
光の線が走って、無数の敵が一度に切り裂かれる。
羽撃くイデヤが宙に描く軌跡が、そのまま全てを断ち割る刃の斬閃だった。
「まただ……滅茶苦茶だ。待って、イデヤ! ねえ!」
『いいから追いかけてっ! ケツはアタシがもってやるから、早く!』
「ありがとう、アディ!」
『一個、貸しだかんね?』
急いでイデヤを追いかけるが、互いの距離はじりじりと離されてゆく。
剣と盾とが以前よりも重くて、その分だけ機動力が低下しているのだ。
それでも必死に食らいついていけば、メタドロンが割り込んでくる。
眼の前に今、エクスシア級とはまるで違う鋭角的な敵意が飛んでいた。
「こちは確か、デュナメイス級! やっかいな奴が出たか」
デュナメイス級は、突進力と加速性に特化した、格闘戦を得意とするメタドロンである。翼は小さく一対しかないが、回転する尾羽は十時の形に4枚持っている。長く伸びた胴体はまるで鉛筆のようで、鋭く尖った戦端は突撃用の衝角だ。
シンプルに、真っ直ぐ飛んで相手を突き刺し、穿ち貫く。
ただそれだけのために存在する、恐るべき敵が襲い来る。
だが、カイムが相対するのは始めてではない。
そして、既に手の内は読めていた。
「悪いけど、先を急いでるっ! お前ばかりに構ってられない!」
群がる雑魚を蹴散らしつつ、向かってくるデュナメイス級に盾を向ける。
刹那、耳をつんざく音が響いた。
金属と竜の甲殻がぶつかる、神経を逆なでするような金切り声だ。
だが、すぐにカイムは思念をジークヒルトに注ぐ。
同時に騎体を操縦桿で倒して、向かうべき先へと導いた。
盾の角度をずらして、相手の突撃をいなしてかわす。
背後に猛スピードで遠ざかった敵は、その場でバックしながら向き直った。アディータからの援護射撃が、その突進馬鹿の影だけを射抜いてゆく。
『ああクソッ! 当たらない! このボウガンでも無理か!』
「いいよ、アディ! あとは母艦を……こいつは僕が! 大丈夫、手はある!」
今度は盾を使わず、大きく翼を翻して回避した。
同時に、次の突進を真正面に捉えて待ち構える。
デュナメイス級には、突進以外の攻撃手段がない。それだけのために先鋭化し、洗練されたメタドロンなのだ。そして、並の竜騎士では逃げ惑うのが精一杯だろう。竜騎士だった頃は、カイムも苦戦したものである。
だが、今はそれも過去の話だ。
カイムにはもう、屍棺機龍という新しい力があるのだから。
「――捕まえたっ!」
激しい衝撃音。
そして、振動。
参號騎の胸に、デュナメイス級の切っ先が突き刺さった……かに、見えた。実際には、僅かに触れるか触れないかの距離で、その尖った先端が止まっていた。
カイムのイメージした通りの状況が生まれていた。
参號騎は、フル加速で飛び退きながら、左手で鋭利な先端を鷲掴みにしていたのだ。鋭い爪の光る五指は、竜の鉤爪をそのまま人の手にあつらえたものだ。
フルパワーで握れば、思った通りに動きを止められた。
後退して相対速度を合わせたのも功を奏したらしい。
動きさえ止めてしまえば、既に敵に有効な戦術は存在しない。
「あとはこいつだっ、使ってみる! パイルザンバー!」
――パイルザンバー。
それは、酷く奇妙な両刃の剣だ。重く巨大で、その中心には円筒状のユニットが挟まっている。それは、バレルだ。ピタリと刃と刃の間に収められた、巨大な杭打機である。
右手に構えたそれを、カイムは大きくかざして、振り下ろす。
断頭台の如き切れ味が、一発でデュナメイス級の先端を両断した。
間髪入れずに、今度は両手で握って振り上げた。
ガンッ! と硬い感触が伝わってくる。
深々とパイルザンバーは、相手の胴体にめり込んだ。
瞬間、カイムは気迫を叫ぶ。
「スイッチ! ――インパクトッ!」
炸薬が撃発して、刀身に仕込まれた杭打機から空薬莢が飛び出る。
同時に、合金製の杭が深々と打ち込まれた。
そして、デュナメイス級はそのまま動かなくなる。
パイルザンバーを抜くと、力尽きた敵はそのまま落ちて見えなくなった。
「少し手間取った。イデヤは!?」
すぐに壱號騎を目視で捉えた。
カイムはその先を見て驚く。
そこには、雲海の天より降下してくる巨大な影があった。
「なっ……あれは! 輸送船! どこかとの定期便か!?」
そして、すぐに理解した。
もとよりカイムの天才としての力は、状況判断力と想像力だ。すぐにわかった、理解した。イデヤはこの飛翔船の存在を、わかっていたのだ。
彼女には、見えていたのだ。
竜騎士は風を読み、その目で流れを捉える。
僅かな気流の乱れで、大型の船舶が近くにいることをイデヤは感じていたのだ。
「そうか、それで……あの船を守るため、エクスシア級を。でも、言ってくれれば僕たちだって!」
当然だが、輸送船は発光信号で救援を叫んでいた。
その光の瞬きへと飛びながら、次々とカイムはメタドロンを倒してゆく。
いつものようにイデヤは、獣のような雄叫びと共に乱れ舞っていた。その太刀筋は、ぞっとするほどに恐ろしく、美しい。この空に踊る壱號騎は、メタドロンを鎧袖一触で次々と斬り伏せていた。
目に光る赤い光が、残像となって幽鬼のように漂う。
怒りの堕天使は今、死を振るって全てを破壊の渦に巻き込んでいた。
「イデヤさんっ、僕がこの船を誘導します。周りをお願いできますか!」
『殺す! 全部! 殺す! もう、誰も……一人も、殺させない!』
「僕もです!」
『ガアアアアアアッ! 命を殺すものは、死ねええええええっ!』
輸送船は、甲板に船員たちが出てボウガンや弓で応戦している。
だが、効果はないに等しい。
訓練された竜騎兵団の兵士でさえ、遠距離武器では牽制程度にしかならない。まして、普通の船員では自衛にすらならなかった。
それでも、カイムは彼等に生きる意思を垣間見た。
諦めずに戦う者がいる限り、それを助けて守るのがカイムの生きる意味だ。
「いいぞ、足掻け! 藻掻いてくれ! 絶対に僕たちが助ける! 諦めないでくれ!」
だが、無情にもカイムの願いが打ち砕かれる。
幾重にも響く悲鳴が、一瞬で全てを爆発に飲み込んだ。
鈍重な輸送船は、その真ん中からへし折れて爆散した。
そして、その炎の中から鋭い殺気が走る。
「あれは……アダムッ!」
前へと突き出た左右の翼が、空気を切り裂き雲を引く。
突如現れたアダムは、カイムの前をすり抜けた。あまりに早くて、反応が遅れた。それで急いで追いかけた時には……暴れるイデヤの壱號騎へと死が迫る。
急制動と同時に変形すれば、空気抵抗が人の姿に変わったアダムを包んだ。
そのままアダムは、翼にマウントされていた雌雄一対の剣を振り抜く。
二刀流の斬撃がクロスして、イデヤの小さな悲鳴が沈黙を連れてくるのだった。
この小説は、宇宙の中で雲を飼う話『雲粒親娘』の提供でお送りします。
雲粒親娘:Wakei Yada著
https://note.mu/wakei_yada/n/nd1c6ad303e9c
宇宙の神秘は女体の神秘、交わり混じれば……!?
・次回予告
作戦を無視した、イデヤの突撃。
それは、近海を航行する輸送船を守るためだった。
だが、屍棺機龍と一体化したイデヤには、言葉が通じない。
言葉を話すが、話が通じないのだ。
そして、カイムは知る……助けたイデヤの真実を。
そう、屍棺機龍と一体化する、その意味を!
次回、第19話「旧世紀との邂逅」
――汝、人を象る龍となれ!




