第15話「未知と神秘への船出」
・今までのあらすじ
一度は竜騎兵団の竜騎士として、戦うすべを失ったカイム。
だが、彼は再び戦場へと、激闘の空へと戻ってきた。
失った右手も、セシリアの命も戻っては来ないが…
亡くす中で得た、屍棺機龍という力を振るって、彼は戦う!
そんな彼の前に、人型に変形するメタドロンが現れた!?
その姿を追って、皇立特務鋼龍戦隊ドラグマンサーズは東へ向かう!
航竜母艦バハムートへ戻ったカイムは、メディカルチェックを終えてシャワーを浴びた。
まだ右腕にも、その先にも鈍い痛みがある。
だが、痛み止めに頼ることなく初めての戦闘を乗り切ったのだ。
そして、用意された服に着替えてすぐ、ブリーフィングルームに集合する。
「あっ、お兄ちゃん! よかったあ、無事だ。すっごくハラハラしてたんだからね!」
出迎えてくれたのは、何故かメイムだ。
どういう訳か、集まったスタッフたちに熱い飲み物を配っている。
昔からメイムは、こういう娘だ。すぐに場に溶け込めるし、誰の心にもすんなり入り込んで、居場所を作ってしまう。持ち前の愛嬌と笑顔で、今も大人たちを笑顔にしていた。
「メイム、なにしてるんだよ。っとっと、ありがと。珈琲?」
「うんっ! お兄ちゃんは砂糖二つとミルクだよね」
「あ、ああ」
「わたし、さっきのおじさんにお願いしたの。お手伝い、したいって!」
さっきのおじさんとは、アッシュのことだ。イデヤの父で、この皇立特務鋼龍戦隊ドラゴマンサーズの総司令官である。
どうにも、カイムには好きになれない人間だ。
だが、不思議とメイムに気遣いを見せてくれたのも事実である。
正直、どういう人間かわからない。
信用ならないとも思えるし、どこか訳を抱え込んでいるように思える。
そんなことを考えていると、訳アリ親子の片方が背後から声をかけてくれた。
「カイム、お疲れ様です」
「ああ、イデヤ。無事? だよね?」
「はい」
「……その、さっきはありがとう。助かった。けど」
「少し、やりすぎました。次は……次こそは」
やはり、戦闘時とは別人だ。
彼女はまだ濡れた髪で、サイズの合っていない服を着せられていた。裾も袖もダボダボに余っており、あの厳つい義手義足が見えない。
イデヤはそんな服を引きずるようにして、カイムの隣に座る。
すぐにメイムが、ポットからマグカップに珈琲を注いだ。
「なにか入れる? イデヤお姉ちゃん」
「では、肉を……あ、いえ、ミルクだけで結構です」
「なんか、都会の人は変わったこと言うね、お兄ちゃん」
多分、イデヤだけだと思う。
そのイデヤだが、僅かに覗く黒い爪で、つまむようにしてカップを受け取った。
こうして見ていると、物静かでどこか静謐な雰囲気させ感じさせる。
屍棺機龍に乗ってる時の、修羅の如き戦いぶりが嘘のようだ。
「? ……カイム、なにか」
「い、いや、なんでもないっ!」
「そう、ですか」
見詰めていたら、気付かれた。
それで、慌ててカイムは目を逸らす。
メイムだけが、不思議そうに両者を見て首を傾げていた。
そうこうしていると、アディータを連れてリュミアがやってくる。勿論、アッシュも一緒だ。全員が起立したところで、どうやらブリーフィングが始まるらしい。
リュミアと二言、三言の言葉を交わして、アディータもこちらにやってくる。
周囲を見渡し、アッシュが低く小さな声を放った。
「では、リュミア君。始めてくれ給え」
「はい、司令。みんな、ご苦労さま! 座って頂戴」
室内には、100人前後の大人たちがいる。全てドラゴマンサーズの構成員で、主に屍棺機龍の整備や、このバハムートの操艦のためのスタッフである。
よく見れば、ちらほら義手や義足の者たちもいた。
そうこうしていると、隣に来ていたアディータが、肘で小突いてくる。
「な、なに? アディ」
「あとで技術室に行きなさいよ。義手、できたって」
「義手……僕の?」
「アンタ以外に誰がいるのよ。ったく、バカね」
リュミアが、ゴホン! と咳払いをした。
それで二人は、黙って前を向く。
軽く睨まれた。
そう、これは大真面目な作戦会議なのだ。
リュミアは、目の前のボードに何枚かの写真を貼る。
それを見て、カイムは目を丸くした。
「あれ……僕が見たやつだ。っていうか、ジークヒルトの見たままだ」
「バカね、母艦の方でも記録を取ってるに決まってるでしょ? この場合は、着艦後に参號騎のデータを引っ張り出したんだと思うけど。ってか、ジークヒルト?」
「参號騎じゃ、なんか味気ないからさ。ジークとヒルトの身体をもらったんだ。だから」
「ほんと、バカみたい。単純な奴」
張り出された写真は、全部で8枚。
そのどれにも、特殊なメタドロンが写っている。
室内を見渡し、リュミアは凛とした声を響かせた。
「ついに再び、アダムが現れたわ。このタイプが目撃されるのは、三年ぶりね」
滔々とリュミアは語り出す。
極めて珍しい希少個体……アダムと呼称される、変形型のメタドロン。天使の名を与えられた通常のメタドロンと違い、一騎当千の戦闘力を有する厄介な敵である。
基本的に、メタドロンは物量にものを言わせて襲ってくる。
どうにか竜騎兵団で対処できるのは、攻撃が単調だからだ。
そう、ゼンマイ仕掛けの玩具のように、ある程度動きが決まっている。
だが、アダムだけは別だ。
「アダムは必ず単体で現れる。でも、これが奴らの進化した姿なら……いつか必ず、アダムと同じタイプのメタドロンが大挙して襲来するわ。その時、人類は敗北するの」
リュミアの声に、誰もがごくりと喉を鳴らした。
カイムも、言葉にできぬ戦慄に身を震わせる。
だが、緊張感を煽ってきたリュミアが、眼鏡のブリッジを押し上げつつ笑った。
「ま、これじゃ人類全滅ね。このままじゃ、ね」
だからこそ、ドラグマンサーズの戦いは常に秘匿されながら続いてきた。新型兵器、屍棺機龍を開発し、量産するための秘密組織……それがここ、ドラグマンサーズである。
人型に変形するタイプのメタドロンも、屍棺機龍ならば勝負になる。
竜の強さをメタドロンの技術で繋ぎ合わせた、屍棺機龍なら勝てるのだ。
「現在、首都を襲ったメタドロンの一部は、そのまま東の国境へと向かってる。この時期、東に浮かんでるのはバルティア共和国ね」
――バルティア共和国。
リヴァリース皇国に比べて、比較的新しい国家である。まとまった浮島を持つ、今まで無人だった空域に移民たちが興した国だ。大小100前後の浮島が密集する珍しい国で、風の影響で位置関係がコロコロ変わる。
ようするに、他の国と違ってバルティアは高度も低く、逆向きの気流に乗ってるのである。
「皇家を通して、バルティアの政府には通信で通達してあるわ。私たちはこれより、退却したメタドロンの追撃戦に移ります。やられるだけで終わらせないってこと、奴らに教えてやらなきゃ、ね?」
えっ、と思わずカイムは声が出てしまった。
咄嗟のことで、この艦にはメイムも乗っているのだ。緊急避難的な措置とはいえ、彼女は一般人、しかも子供である。
だが、既にバハムートは首都から離れつつあるという。
このまま、さらなる戦場へと向かうのだ。
「参ったな……メイム、すぐに艦を降りるんだ」
「えー? でも、もう出港しちゃったんでしょ? いいよ、わたしはお兄ちゃんと一緒にいる」
「よくない! 軍艦だよ? 戦闘が続くんだ」
「大丈夫ッ! お兄ちゃんが守ってくれるもん。それに」
メイムはイデヤを見て、アディータを見てから、ウンウンと大きく頷いた。
「やっぱり、お兄ちゃんにはわたしが必要なのよ。もっと立派なお嫁さんが見つかるまで、わたしが面倒みてあげるからねっ」
「なっ……なによ、このチンクシャ! アタシ、こんなのと付き合ってなんかいないわ!」
「……お嫁さんはともかく、もっと立派な、とは……?」
周囲から笑い声が巻き起こった。
正直、カイムは死ぬほど恥ずかしい。
だが、弛緩した空気には先程の緊張感と違って、温かな笑顔をが並ぶ。
リュミアも苦笑しつつ、パンパンと手を叩いた。
「とにかく、これより本艦は第二種戦闘配置に移行、このまま国境を超えてバルディア領空に入ります。航海長、風はどうかしら?」
リュミアの言葉に、髭面の中年が立ち上がった。
壮年の顔にシワが刻まれた、歴戦の勇士を思わせるごつい巨漢だ。
「100空里ほど先に重い空気が早く流れてます。そいつを捕まえて、三日程ですな」
「メタドロンの群に追いつけるかしら?」
「まあ、風次第でしょうが……奴らは風も天気もお構いなしだ」
「当然ね……いいわ、任せます。帆を張って最大戦速、ヨロシク! 他の部署も悪いけど、暫くフル稼働よ! 足りないものや相談があったら、なんでも言って頂戴」
それだけ言うと、リュミアは振り返る。
背後に黙して立つアッシュに、彼女は「司令」と声をかけた。
「最後に総司令から! はい、どうぞ!」
「うん。とにかく、そんな感じでよろしく頼む。私は暫く工房にこもりきりになる。全てリュミア君に一任してあるから、万事そのように」
「では、解散!」
ブリーフィングは終わった。
早速カイムは、義手を受け取りに行こうと立ち上がる。
だが、振り向くとイデヤが父親に駆け寄る姿が見えた。その背中が、普段よりどこか普通の……どこにでもいる、ごく普通の女の子のように見えたのだった。
この小説は、萌えて燃えろよ男の娘×巨大ロボ!『聖女禁装ゼスマリカ.XES-MARiKA』の提供でお送りします。
聖女禁装ゼスマリカ.XES-MARiKA(完結済):東雲メメ先生著
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883341204
ロボット×女装男子!? 装甲<ドレス>を着せ替えて華麗に戦え……!
・次回予告
一路、東へ……航竜母艦バハムートは進む。
竜ならざる竜の成れの果て、屍棺機龍を搭載して。
新たに義手を得たカイムの、長い航海が始まった。
その船旅は希望への航路か、それとも破滅への難破か……!
次回、第16話「航海の中で、安らぎ」
――汝、人を象る龍となれ!




