第14話「その敵の名は、アダム」
・今までのあらすじ
謎の新兵器、屍棺機龍に乗り、再びカイムは戦場へと戻ってきた。
だが、竜の躯とメタドロンの技術で作られた人型兵器は、仲間からも恐れられる。
それでも戦うと決めたカイムに、迷いはない。
そんな中、明らかに異質なメタドロンが襲い来る。
そしてカイムは、屍棺機龍が人の姿をしている訳を知るのだった!
目の前の光景に、カイムは我を疑った。
そこには、屍棺機龍と同じ大きさの人型が浮かんでいる。先ほどの新型メタドロンが、瞬時に変形したのだ。翼が背に回って、格納されていた手足が伸びた。それはまるで、太古の聖典に登場する天使そのものだ。
その威容に、思わず魅入られてしまう。
美しくもおぞましい、金属でできた聖像が動き出す。
『なにやってんのよ、カイムッ! 避けて!』
アディータの声が耳に刺さった。
咄嗟にカイムは、操縦桿を引き絞る。
右腕を通じて神経接続された参號騎がダイブする。その軌跡を追うように、敵も加速を始めた。人型になったことで、そのスピードは落ちている。だが、逆に戦闘力は段違いに跳ね上がっていると感じた。
その証拠に、謎のメタドロンは両腕を突き出してくる。
たちまち、手の甲から鋼の礫が浴びせられた。
「グッ! 避けきれないっ!」
大きく回避したつもりが、何発かもらってしまった。
あっという間に、コクピットの中に警報音が満ちる。
赤いランプに照らされながら、瞬時にカイムはダメージを読み取った。
損傷は軽微だが、装甲が中途半端なために直撃をもらってしまった。
戦闘に支障はないが、長引けばパワーダウンの恐れがある。
筋肉制御用の潤滑液が、血液のように吹き出す感触が右腕に伝わってきた。
『カイム、動いて! アタシが背後からやるっ!』
「わかった!」
数の上では有利だが、アディータも動揺を隠せない。
そして、周囲のエクスシア級は新型を守るように殺到してきた。
あっという間に、乱戦になる。
アディータの矢が次々と敵を屠るが、物量の差はいかんともしがたい。
そんな中で、カイムは謎の人型メタドロンを追う。
後方の母艦バハムートから通信が入ったのは、そんな時だった。
『カイム君っ、下がって! まだ君ではアダムには勝てないわ!』
「リュミアさんっ! ……アダム? この人型メタドロンが!?」
『ええ! こっちでも参號騎を通してモニターしてるわ。そいつの相手はイデヤに任せて!』
「わかりました! ……クッ、下がるぞ、ジークヒルト!」
だが、敵がやすやすと逃してくれる道理もない。
四方を敵意に囲まれたまま、徐々にカイムは空の自由を奪われてゆく。狭まる機動限界の中、次々と飛ぶ場所が塗り潰されていった。
そんな中を、剣で道を切り開き、攻撃を盾で防ぐ。
アダムと呼ばれた人型メタドロンは、執拗に参號騎を狙ってきた。
「振り切れない……だったら!」
意を決して、カイムは翼を翻す。
このままでは、嬲り殺しだ。ならば、自ら攻めに転じて勝機を見出すしかない。
参號騎はその場で振り向き、翼を開いて風を捕まえる。
急反転、急制動。
そのまま突っ込んでくるアダムへと、真っ直ぐ突っ込む。
掠った銃弾の痛みが、思わず顔を歪ませた。
『カイム、ちょっとアンタッ!』
「アディ、撃って! こいつの動きを今から止めるっ!」
『アンタに当たるわ!』
「当たらない! アディの腕に、僕の命を預けたっ! 信じてるから、当たらない!」
肉薄の距離で、刺突を繰り出す。
耳をつんざく金属音と共に、相手の腕へ剣が突き立った。胴を狙った一撃だったが、相手は防御のために左腕を差し出してきたのだ。
だが、それも計算の内だ。
カイムには、奇妙な予感があった。
そしてそれは、確信に変わる。
「お前たちには、受ける痛みがないんだな……そして、人の姿である自分に、まだ慣れてない! だから、そうやって腕一本差し出せる! 差し出すしかない! なら!」
そのまま剣を払って、相手のガードを無理矢理こじ開ける。
空いたスペースへと、カイムは左腕を振りかぶった。
マウントされたシールドを、全力で相手へと叩きつける。竜騎士が戦場で使うものと同様に、盾の先端には格闘専用のスパイクが装備されていた。
互いにが砕け合う感触の中、初めてアダムがぐらりと体勢を崩した。
ひしゃげた盾をパージするや、そのまま左手でカイムは相手に組み付く。
そして、背の翼を強く意識して飛翔を念じた。
「ジークヒルトッ! こいつを群から引き剥がせっ! ――今だ、アディ!」
『わかってるわよ!』
あっという間に、乱れ飛ぶメタドロンの中から、カイムはアダムと共に抜け出る。
その先には、弓に矢を番えたアディータの弐號騎が待ち受けていた。
放たれた矢が、二本、三本とアダムに突き立つ。
だが、アダムはすぐに冷静さを取り戻した。
刺し貫かれた左腕を、自ら切り離したのだ。
「こいつっ、トカゲの尻尾切りを!」
カイムが叫んだ時にはもう、相手は参號騎を振り払った。
離脱と同時に、残った右腕から銃弾が浴びせられる。
装甲もなく盾を捨てた今、全力でカイムは避けるしかなかった。
だが、奮戦の努力に報いる声が響く。
『カイム、離れてください! そいつの相手は私がします! ――ハアアアアアッ!』
絶叫が空気を支配した。
そして、視界を影が通り過ぎる。
それは、漆黒の機体に鮮血の赤を散りばめた、イデヤの壱號騎だ。カラーリングも相まって、正にその姿は悪魔か死神か……手にした巨大な大鎌が振るわれる。
デタラメな機動でイデヤは、アダムの攻撃を全て避けていた。
そして、大振りな一撃を横薙ぎに解き放つ。
『くっ、浅い! ならあ! これでぇ、死ねえええええええええっ!』
普段の寡黙で物静かなイメージが、木っ端微塵に粉砕される。
荒ぶる戦鬼と化したイデヤは、怒りと憎しみに声を尖らせていた。
絶叫、咆吼、嘆きにも似た声が空気を沸騰させる。
「イデヤさん……凄い、あんな動きを」
『勝負あったって感じね。あーあ、やだやだ……操縦桿握ると人が変わるタイプよね、イデヤって』
「なんだか……泣いてる、みたいですね」
『ん? そう?』
上手く言葉では説明ができない。
だが、まるで泣きじゃくる幼子のようだ。
イデヤの壱號騎は、どんどんアダムを追い詰めていった。
だが、アダムも反撃に転じてくる。
それを察知した、母艦のリュミアが叫ぶ。
『みんなっ、気をつけて! なにか飛んでくるわ! ……速いっ!』
何かが高速で、カイムの側をすり抜けた。
それは、メタドロンというには小型だが、雲を引いて飛ぶ。自らを燃やして火を吹き、その推力で飛ぶ飛翔体だった。
咄嗟にイデヤも、アダムへの攻撃の手を緩める。
僅かに下がった、その間隙にアダムは上昇した。その、のっぺりとした顔に奇妙な光が紋章を浮かび上がらせる。そのままアダムは、飛翔体に相対速度を合わせた。次の瞬間、爆発の焔と煙が周囲を満たす。
『自爆した!? そうは見えない、けど、そこに……いるんだよねえ! ならっ、そこを動くなああああああああっ!』
壱號騎は両手で大鎌を振りかぶる。
そのままイデヤは、視界ゼロの黒煙に飛び込んだ。
そして、激しい剣戟の音と共に飛び出している。
アダムは片手で、激しく壱号機と斬り結んでいた。
そう、その手に剣を握っていたのだ。
リュミアの声に、カイムも戦慄を感じて息を飲む。
『さっきの……武器を運んできたっていうの? やはりアダム、危険だわ』
「リュミアさんっ、あのアダムっての」
『説明は後で! カイム君は戻って……よく、その騎体で無事で』
「でも、イデヤが」
その時だった。
もはや獣と化したイデヤの声が、気迫を叫んで痛撃を放つ。
『死いいいいねえええええっ! 殺す、殺す! 殺し殺すっ! ――チィ! 逃がすかあ!』
残る右手の剣でイデヤを捌きつつ、アダムが急降下しながら変形した。
元の飛行タイプに、瞬時に姿が変わる。
だが、突き出た右腕だけがそのままで、銃弾をばらまきながらイデヤを狙ってきた。
イデヤもまた、大鎌を回転させて全ての射撃を叩き落とす。
悲痛なまでの絶叫は、まるで慟哭だ。
殺意の塊となって刃を振るう、悲しい堕天使の姿がそこにはあった。
『クソッ、逃げるなあ! 逃さない! 皆殺しにいしてやるっ!』
『もういいわ、メタドロンが退いてゆく。イデヤ! もういいの!』
『うるさいっ! 逃さない……絶対に許さない! 殺す殺す殺す、ブッ殺すッ!』
思わずカイムは、参號騎で壱號騎に寄り添った。
全身を震わせる姿は、まさしく怒り猛る竜そのものである。その手にそっと手を重ねて、並んで飛ぶ。長い角を持つ壱号機の頭部が、こちらを振り返った。
そして、徐々にその全身から発する殺気が静かになってゆく。
『……撤収、します。カイムも、戻りましょう』
「う、うん。あの……大丈夫?」
『平気です。戦いは終わりました……倒すだけ倒したので、今日はまあ、良しとしなければいけませんね』
まただ。
また、イデヤは狂戦士の如く怒りの権化になり、その直後に脱力感も顕な声を弱々しく零す。
カイムはイデヤのことが、ますますわからなくなってくるのだった。
この小説は、明日の未来を掴むため……竜を滅する竜となれ!『鋼殻牙龍ドラグリヲ』の提供でお送りします。
鋼殻牙龍ドラグリヲ
https://ncode.syosetu.com/n4057be/
機械の龍と異能のケダモノが、未来を賭して殺しあう。
・次回予告
人型に変形するメタドロン、アダム。
その存在こそが、ドラグマンサーズに屍棺機龍を作らせた理由だった。
無事に帰還したカイムを、メイムたちが暖かく迎えてくれる。
そして、知る……メタドロンもまた、進化していると。
果たしてメタドロンとは、なにか?
次回、第15話「未知と神秘への船出」
――汝、人を象る龍となれ!




