第13話「参號騎、咆吼!」
・今までのあらすじ
戦場で右腕を失い、親しい先輩をも亡くした少年、カイム。
そんな彼は、ひょんなことから新たな戦いの術を得る。
それは、竜の亡骸を機械で紡いだ、恐るべき人型兵器……屍棺機龍。
そして、共に戦う二人の少女と、皇国の秘密組織だった!
カイムは今、空の中にいた。
そして、本来自分にはない器官の雄々しい羽撃きに身を委ねている。
背の翼は、竜の亡骸より移植したものだ。
巨大な異形の人型兵器、屍棺機龍が夕闇を裂いて翔ぶ。
「凄い……ニュアンスがどうとかじゃないぞ、これは。僕は今、参號騎と……ジークやヒルトと一つになってるんだ」
あっという間に、近衛の竜騎士たちを追い越す。
接触を避けて飛んだつもりだったが、向こうの竜たちは口々にギャアギャアと鳴き出していた。なだめようとする竜騎士たちは、首都防衛の最精鋭部隊だが、珍しく四苦八苦している。
一瞬で通り過ぎた、そうした光景の全てが認知できた。
右腕を通して神経が繋がっているため、そこから情報が流れ込んでくるのだ。
「……やっぱり、竜たちから見ると気持ちいいもんじゃないのかな。っと、来た!」
どうやら空の低いところでは、嵐が渦を巻いているらしい。
黒い雲が気流に捻れて逆巻く中、稲妻のひらめきが見えた。
そして、忍び寄る夜と共に、無数の敵影が迫り来る。
それは、カイムには黒い乱気流の塊に見えた。
竜騎士が風を読む目で見ても、まるで竜巻だ。実際には、あまりにも多いメタドロンが密集していて、それ自体が一つの大きな敵意に見えるのだ。
「行くぞ、ジーク! あ、いやでも、ヒルトも一緒か……セシリア先輩の、ヒルト。お前も、そこに……ここに、いるよな」
空中で停止ささせた参號騎に、風にはためくシートを脱がせる。それを捨てて、腰の剣を抜き放った。
叩きつける重い風が、装甲の心もとなさを伝えてくる。
まだ、参號騎は完成していない。
本来ならば、鉄壁の防御力が与えられる筈なのだ。
竜の甲殻と鱗、そしてメタドロンから得た知識を鎧に変える力。
それはまだ完全ではないが、それでもカイムは盾を前に突き出し構える。
「よし! 参號騎……ジークヒルト! 僕をもう一度、戦わせてくれっ!」
見えない大地を踏み締め、蹴り上げる。
唸りを上げて、翼が空を掴んで弾いた。
急加速で、参號騎はグンッ! と前へ出る。
あっという間に、周囲をメタドロンが取り囲んだ。だが、対流が全身を撫でてゆく、その温度と重さが、カイムには手に取るようにわかる。
身体が勝手に反応して、手にした剣が手近な殺意を斬り伏せた。
鎧袖一触、あまりにも簡単にエクスシア級が蹴散らされてゆく。
数の不利など、今のカイムには些細な問題に過ぎなかった。
「全身が目になったみたいだ……見える以上に、感じるっ!」
『ちょっと、カイムッ! アンタ、前に出過ぎっ!』
「その声、アディ? どこから!」
「アタシが援護してあげるんだから、当たるんじゃないわよっ!」
アディータの声がした。
その方向を、操縦席で振り返る。
無線による通信のようだが、ちゃんと相手が声を発した場所から聴こえてきた。このコクピットは正に、ジークヒルトと名付けた参號騎を内包する世界そのものなのだ。
同時に、風の流れが大きく変わる。
瞬時にカイムは、乱れ飛ぶメタドロンの中を急上昇した。
背後から放たれた矢が、次々と敵を刺し貫いてゆく。
「援護か、ありがたいっ!」
『アンタ、それはまだ未完成なんだからね! ……なにさ、格好いいじゃん、男の子』
「大丈夫だ!」
アディータの弐號騎がずっと背後で弓を構えていた。
弐號騎は白地にグリーンのアクセントが入った、明るい基調の色合いだ。だから、この雷雲に囲まれた嵐の中でも、目立つ。装甲を纏って完成すれば、参號騎にも鮮やかなカラーが塗られるだろう。
だが、今はメタドロンの吐き出す血にもにたオイルに濡れて、翔ぶ。
「小物ばかりだ、けど……数が多いっ! ッ! そこの竜騎士っ! 危ない!」
次々とメタドロンを一刀両断しながら、不意にカイムは騎体を翻した。
竜騎兵団もかなりの戦力を空域に展開している。
なにせ、見上げれば首都……その心臓部である工業地帯が並んでいるのだ。
既に周囲には、竜騎士たちも相棒の竜と共に戦いを広げている。
だが、以下に甲冑を着込もうとも、生身の人間が戦うにはメタドロンは危険過ぎる。それでも、誰かの前に立って戦わなければ行けないのが竜騎士だ。そして、カイムもまたそうした戦いの中に身を置いた日々があった。
『うっ、た、助かっ、た? な、なんだこれは……!』
メタドロンに囲まれていた、近衛の竜騎士を助けた。
参號騎は、まるで蜘蛛の子を散らすように剣を踊らせる。軽やかなその太刀筋は、まるで重さを感じさせない。今のカイムは、鎧を纏った風の指揮者だ。
タクトのように剣を振るえば、嵐の楽団が斬撃の調べを奏でる。
あっという間に、まとめて数十体のメタドロンが薙ぎ払われた。
だが、命を拾った竜騎士は、兜の奥で怯えを瞳に灯していた。
「大丈夫ですか? 僕は……えっと、ドラゴマンサーズ? そう、ドラゴマンサーズの者です。加勢します、一気に押し返しましょう!」
『あ、ああ……バケ、モノ』
「ッ! ……そう、ですね。では、お互いの武運を!」
主を載せた竜もまた、激しく怯えて叫んでいた。
大空を舞う巨人は、竜の骸と屍でできている。
死んだ同胞を辱めた、死体に鞭打つ戦いが屍棺機龍のありかたなのだ。
気付けば隣に、アディータの弐號騎が並んで飛んでいた。
『アンタさあ……ま、いいわ。アタシでも助けたし。で、アタシなら言ってやった。バケモノに助けられたくなかったら、もっと仕事しろっての!』
「いや、いいんだ。…己の身一つでメタドロンと戦うの、さ……恐いことなんだよ」
『あ……そっか、アンタも竜騎士だったんだっけ』
「竜騎兵団はみんな勇敢だけど、恐いもの知らずって訳じゃないんだ」
そう、恐怖は決してなくならない。
だからこそ、怯える自分に打ち勝つ。恐れを克服し、心の底に捻じ伏せて飛ぶのだ。竜騎士は皆、他の兵士の弓や弩の援護を受けて戦う。艦の上からの遠距離攻撃では、メタドロンの動きを封じ込める程度しかできない。
メタドロンを確実に撃墜するには、接近しての格闘戦しかないのだ。
「あの、ところでイデヤは」
『いつも通り暴れてるわよ。ん、あ……アタシだって、好き勝手やるつもりだったんだから! たまたまアンタのヘマが目に見えたから。突っ込み過ぎなのよ、バカッ!』
「す、すみません」
『そういう時、違うでしょ! アタシに言わせんの?』
「あ、ありがとうございます! ……なんだかなあ。ん? あれは」
その時だった。
銀翼を唸らせるメタドロンの群から、何かが急上昇した。
それは、まるで前後が逆になったような姿だった。
風になびく翼ではなく、風へと切り立つ前傾した刃。そう、両翼の刃を前方へと突き出している。見たこともないタイプだ。
そして、アディータも鋭い観察眼を光らせる。
『なにあれ……見て、あの尾羽』
「回転、してない? むしろ、火を吐いて」
『こっち! 来るっ!』
二人同時に、左右へ別れた。
その直後、一秒前のカイムが引き裂かれる。
鋭い突っ込みで、そのメタドロンはこちらへ狙いを定めてきた。そのスピードは、エクスシア級やスローンズ級の比ではない。
あまりに速過ぎて、小回りはきかないようではあるが。
だが、鋭角的なターンを空に刻んで、再び殺意が襲い来る。
『くっ、速い! ……ああもぉ、外した! 全然当たらないッ!』
アディータの弐號騎が弓に矢を番えて、解き放つ。
だが、竜騎士のランスよりも巨大な矢が、一発も当たらない。
全て、新型メタドロンの影を僅かに掠めるだけである。
ならばとカイムは愛機に命じて飛翔する。
動きを止めて、直接剣で叩くしかない。
「曲がる時にはスピードが落ちる……ギリギリでやり過ごして、今っ!」
相手の突進を、紙一重で避ける。
ビリビリと気流が撫でる痛みが、騎体の筋肉を伝って神経に流し込まれた。
だが、すぐに翼を翻すや、相手を追う。
こちらを攻撃するためにターンする、その瞬間に斬撃を合わせた。
激しい衝撃とともに、剣と相手の装甲とが金切り声を歌う。
手応えはあったが、表面を僅かに引っ掻いたに過ぎない。
しかし、再び加速しようとした敵を矢の雨が襲った。
『カイム、ナイスッ! 速いなら、向かう先に! 矢を、置いとくっ!』
カイムの接触で、相手に隙が生まれた。
その進路上に、予めアディータが矢を打ち込んだのだ。
直撃とまではいかないが、何本かの矢が相手の進路を妨害し、翼をかすめて傷付ける。明らかに速力が鈍った、その瞬間をカイムは見逃さなかった。
「取った! この距離なら……竜騎士の剣でも墜とせる! ――ッ、なにっ!」
一撃必殺の剣を振りかぶった、その時だった。
ありえない光景がカイムの眼の前に開かれてゆく。そして、彼はすぐに察した。鋭敏な直感がそう結論付けたのだ。
何故、屍棺機龍は人の姿をしているのか。
その答えが今、目の前にあった。
『ちょっとカイム! なにあれ……変身したわ! 変形した!』
そう、アディータの叫んだ通りだ。
眼の前で謎のメタドロンは、瞬時に鈍色の巨人へと姿を変えたのだった。
この小説は、明日の未来を掴むため……竜を滅する竜となれ!『鋼殻牙龍ドラグリヲ』の提供でお送りします。
鋼殻牙龍ドラグリヲ
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機械の龍と異能のケダモノが、未来を賭して殺しあう。
・次回予告
突如現れた、アンノウン!
新型のメタドロンは、人の姿に形を変えた!
そう、屍棺機龍が人をかたどっている理由…
それは、同じ人型の巨大兵器と戦うためだった!
今、恐るべきメタドロンの脅威が襲い来る!
次回、第14話「その敵の名は、アダム」
――汝、人を象る龍となれ!




