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フルメタル・ドラグーン  作者: 長物守
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第12話「蘇る翼」

・今までのあらすじ


 先輩の死、相棒たる竜の死から、カイムは立ち直る。

 改めて、屍棺機龍に乗って、戦うことを決意。

 そんな彼の元へ、郷里から幼馴染が訪れる。

 カイムを兄と慕う少女、メイムはなにをもたらすのか?

 そして再び、メタドロンが人間たちに襲い来る!

 石畳(いしだたみ)の道を、オートモービルが疾走する。

 先程仕事から戻ってきたリュミアは、すぐさまカイムたちを乗せてU(ユー)ターンである。勿論(もちろん)、その場に居合わせたメイムまで一緒だ。

 狭い後部座席で、カイムは右に左にと揺さぶられる。

 警報のサイレンで街は、再び混乱の渦中(かちゅう)へと放り込まれていた。


「ちょ、ちょっとリュミアさん! 安全運転で、んごっ! な、殴った!?」

「アンタが抱きついてくるからでしょ! ほら、そっち行って!」

「お兄ちゃんに乱暴はやめて! お兄ちゃん、そういうのはわたしにすればいいんだよ! 合法だよ!」


 左右でアディータとメイムがうるさい。

 だが、それ以上に乗り心地が最悪だ。

 荒い運転で、車は港へ向かっている。ハンドルを握るリュミアは、先程から残業がどうとか、書類の決裁がとわめきながら運転していた。

 助手席のイデヤだけが、静かに空を(にら)んでいる。


「あーもぉ、やっと一人になったから仕事が回り始めてたのに……メタドロンのやっろー、ブッ殺す! いい、イデヤ! アディも! ブッ潰すのよ!」


 過激な言葉を発しながら、リュミアは更にアクセルを踏み込む。

 往来の人々が、蜘蛛(くも)の子を散らすように左右へ割れていった。

 そして、走る先に軍港が見えてくる。


 多くの飛翔船(クラフトシップ)が、メタドロンを避けるべく出港していた。どこにいても危険は同じだが、少しでも遠ざかることは懸命だし、港の中で攻撃されれば爆発する恐れもある。

 竜騎兵団(りゅうきへいだん)(ふね)は次々と高度を下げつつ、浮島の下側に布陣しようとしていた。

 どうやら、今度の襲撃は下から来るらしい。

 リュミアはアクセルを(ゆる)めず港の桟橋を走り続ける。


「っと、その出港! ちょおおおっとぉ、待ったああああああ!」


 今まさに、目の前でもやいを解く艦があった。

 航竜母艦(ドラゴンキャリアー)バハムート、皇立特務(こうりつとくむ)鋼龍戦隊(こうりゅうせんたい)ドラグマンサーズの移動基地である。その巨体が、ゆっくりと桟橋(さんばし)を離れ始めた。


 だが、リュミアはアクセルを放さない。

 正気の沙汰(さた)とは思えず、カイムは頬が引きつった。

 アディータもメイムも、先程とは逆に自分から抱きついてくる。

 そして、ダン! と勢いよく踏み切った車体が、宙を飛ぶ。

 不快な浮遊感を感じた、次の瞬間にはサスペンションがフルボトム、車は広い甲板(かんぱん)の上でスピンして止まった。


「おっしゃ! ギリギリ乗艦(じょうかん)セーフッ!」

「……死ぬかと、思った。リュミアさん、勘弁してくださいよ」

「大丈夫だって、子供の頃から乗ってるから手慣れたものよ? 免許だって先週取ったし」」

「言ってる意味がわからないんですけど」


 バハムートは周囲の艦と一緒に、ゆっくりと高度を下げてゆく。

 首都である巨大な浮島の側面が、断崖(だんがい)となって下から上へと流れていった。浮島(うきじま)の表側が、居住区や歓楽街、王宮や各基地などがあるが……裏側である横から底面にかけては、工業地帯となっている。

 竜玉発電(りゅうぎょくはつでん)と呼ばれる、竜の卵を使った発電所も多数存在していた。

 いわば、その浮島の心臓部が並んでいる訳である。


「はい、降りて降りて! イデヤとアディは即出撃、カイム君は、えっと、妹さん? とにかく、その子と艦の中央部へ。守ってやんなさいよ?」


 リュミアの判断に、最初は驚いた。

 彼女はメイムが自己紹介をする前に、連れてきてしまったのである。メタドロンが襲ってくれば、どこにいても同じ……そういう気持ちは、この時代の誰もが共有する認識なのだ。だったら、作戦行動中とはいえ軍艦の中の方が多少はマシである。

 雪崩落(なだれお)ちるように、カイムたちは後部座席から這い出た。

 すぐに作業員たちが走ってきて、イデヤもアディータと駆け出す。


「さーて、んじゃ、行くわよっ! イデヤ!」

「了解です、アディ。では、カイム……メイムも。後ほど、また」


 二人は行ってしまった。

 広い甲板の上でそれを見送れば、メイムがギュッと左手に抱き着いてくる。

 彼女にも、軍艦特有の緊張感、物々しさがわかるのだ。

 だから、そっと頭を撫でようとして、痛みに気付かされる。

 もう右腕は失われていて、まだ義手は付けられていないのだ。


「さ、メイム。とりあえず中に入ろう。風が強いからね」

「う、うん……お兄ちゃん、こんな中で戦ってたの? 大怪我するまで、ずっと」

「まあね。それに……ゴメン。また戦うことにした。戦う力があるなら、それを僕はみんなを……メイムたちを守るために使いたいんだ」


 だから、故郷の孤児院には帰らない。

 そうして、艦橋(かんきょう)のある方へと歩き始めた、その時だった。

 まっ平らな飛行甲板の奥で、エレベーターから巨大な影が浮上してきた。全身をマントのような布で覆った、それは屍棺機龍(ドラグレイヴ)。しかも、イデヤやアディータの騎体(きたい)ではなかった。

 まだ装甲も半分ほどしかないようで、風にはためく布地の奥は生物的だ。

 だが、片膝(かたひざ)を突く巨体は左腕に盾を装備し、帯刀している。

 不意に、やや芝居がかった声が響いた。


「君の騎体、参號騎(さんごうき)だよ。どうにか動けるようにしてある」


 振り向くと底には、白衣をはためかせるアッシュの姿があった。

 彼はそのまま歩いて並ぶと、未完成の参號騎へ目を細めた。


「手術は受けたな? カイム・セレマン。ならば話は早い、早速乗り(たま)え」

「……出撃しろって言うんですか?」

「神経が騎体に接続されれば、あとはどうということはない。報告書では、君がアディータの弐號騎(にごうき)を短時間ながら操作したとある。ふむ、本物の天才かもしれんな」

「やれと言うなら……いや、言われなくても乗りますよ。でも、本当に戦えるんでしょうね」

「当然だ。なに、メタドロンの攻撃など当たらなければいいのだ。それだけの動きを屍棺機龍は平然とこなす。あとは君の腕前が問われる訳だ」


 アッシュは「来たまえ」と、歩き出す。

 不安そうに見上げてくるメイムを連れ、カイムはその背を追った。


「ねえ、お兄ちゃん……あれ、なに? 竜、じゃないよね……なんか、恐い」

「大丈夫、基本的には機械だから。そう、機械……道具だ。ちょっと特殊だけど、悪いものじゃないよ」


 道具には、善悪という概念(あいねん)が存在しない。

 だが、竜やその死骸が道具として扱われるのには、カイム自身もまだ抵抗がある。

 そうまでして戦わなければいけないのか?

 その問いに対して、誰も首を横に振れないだろう。


 かといって、人間の生活を支えてくれる竜に対して、敬意や親愛を欠いているのも事実だ。

 永久に答えの出ない中、カイムがわかっていることは唯一つだ。

 再び戦うと決めた、そのための力が屍棺機龍なのだ。

 参號騎を見上げる距離で、開いた胸の操縦席を覗き込む。


「乗り給え。君は右腕だったな? コクピットは調整してある」


 周囲の作業員も、意外な顔をした。

 特に年配の者などは「総司令!」と声をあげてくる。

 だが、アッシュは構わずカイムに搭乗を(うなが)した。

 無論、断る理由はない。

 怖くないと言えば嘘になる……だが、その恐怖を受けるのは、自分だけでいい。自分が戦うことで、誰かの恐怖を払拭(ふっしょく)できるのだ。


「えっと……アディの弐號騎と基本は同じか。ん、ここに右腕を」

「そうだ、接続すれば神経が繋がる。この参號騎は君の身体も同然になるのだ」


 アディは両脚で繋がっていた。

 欠損した身体を、外科的な手術でソケット化し、義手義足は勿論(もちろん)、屍棺機龍とも繋がるのだ。コンソールが簡素なのは、細やかな動きを全て神経接続による意思伝達だけで行っているからである。

 シートに座って、右腕を接続する。

 痛みはないが、不思議な感覚がカイムを襲った。


「なんか……変な気分です。身体が広がったような」

「すぐに慣れる。それと、これを渡しておこう」

「これは?」

「痛み止めだ。今日、手術を終えたばかりだろう? 持っていき給え」

「ありがとう、ござい、ます」

「この子は私が与ろう。さあ、お嬢ちゃん。中に入ろう。お茶くらいは出すつもりだ。総司令と言っても、作戦が始まれば仕事がないからね」


 意外だった。

 初めて会った時の第一印象は、とにかく冷徹で不遜な男だった。

 勿論、それは今も変わらない。

 だが、アッシュは不安そうなメイムに気遣いを見せてくれた。彼にとっては、研究対象の操縦者でしかないカイムにさえ、だ。

 あとで少し、話す機会があればいいと思えた。

 それも、メタドロンの驚異を退けてからだ。


「よし、じゃあメイムを頼みます! ……立つぞ、参號騎」


 コクピットはカイム用に調整してあり、操縦桿は中央に一本だけだ。それを左手で握りつつ、右手を通して期待に命令を発する。

 まるで自分の身体のように、巨体が瞳を光らせ立ち上がった。

 見た目は壱號騎(いちごうき)や弐號騎とほぼ同じだが、装甲はまだ大半が未装着のままだ。留め金とケーブルで、筋肉がそのままフレームを取り巻き縛り付けられている。空を馳せる竜の力が、そのまま騎体を支えているのだ。

 ゆっくりと参號騎は、立ち上がる。

 ハッチを閉めると、すぐに屍棺機龍の視点が目の前に広がった。


「これが……繋がるということか。右腕の感覚が、これは……もう、痛み、だけじゃない!」


 あの日からカイムを(さいな)んできた、幻肢痛。

 それは今、手術の痛みと共にこれからもずっと続くだろう。

 だが、念じる通りに参號騎は右腕を上げて、その手を握ったり開いたりしている。全て、カイムがやっていることだ。

 やはり思った通り、複雑な操作は少なそうである。

 彼はそのまま、周囲の作業員が退避する中で歩き出す。参號騎は徐々にその脚を速めて、全力疾走で甲板の端から空へと舞い上がった。

この小説は、明日の未来を掴むため……竜を滅する竜となれ!『鋼殻牙龍ドラグリヲ』の提供でお送りします。


鋼殻牙龍ドラグリヲ

https://ncode.syosetu.com/n4057be/

機械の龍と異能のケダモノが、未来を賭して殺しあう。




・次回予告


 未完成の参號騎で、飛び出したカイム。

 まだ訓練も受けておらず、右腕は手術したばかり。

 だが、彼の身体そのものとなった屍棺機龍……

 その力が、首都を見上げる空に躍動する!


 次回、第13話「参號騎、咆吼!」


 ――汝、人を象る龍となれ!

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