第11話「再会、お兄ちゃん!?」
・今までのあらすじ
右腕を失い、先輩のセシリアをも亡くした竜騎士カイム。
戦う力をなくした彼が出会ったのは、不思議な少女たち。
そして、竜の死骸を鋼で紡いだ、屍棺機龍という人型機動兵器だった。
再び戦う力を求めるカイムに、今度は相棒だった竜との別れがまっていた……
その亡骸もまた、屍棺機龍の建造に用いられるのだった!
カイムはまんじりともせず、やりきれない思いで帰宅した。
先日セシリアを失い、今日は相棒のジークを失った。この世界はまるで、喪失を強いてくるように思えてくる。戦い失くす中で、右腕の痛みだけが教えてくれる。
このままでは終われない、終わらせられない。
だが、これからカイムの力となるのは、竜の死骸を継ぎ接ぎした異形のマシーンなのだ。
夕暮れ時になるまで、リビングのソファに沈んでそのことばかり考えていた。
「……いいさ。ジーク、そしてセシリア先輩に、ヒルト。見ててくれ……お前たちの残してくれた、俺自身と屍棺機龍とで、戦い抜く」
決意を呟き、身を起こす。
腐ってばかりはいられないが、先程の白衣の男のことが思い出された。イデヤの父親、アッシュ……娘と違って表情があるのに、とても冷たい殺気を纏っていた。
そんなことを考えながら、カイムは背後へと首を巡らす。
今日はリュミアが遅くなるとのことで、イデヤとアディータがキッチンに立っている。
「アディ、もっとお肉を入れましょう」
「ちょっと! 分量計ってやってるんだから! えっと、次は塩と胡椒を」
「お肉を増やしましょう。……増やし、ました」
「だから、この本のレシピ通りに……野菜も入れるんだから、ちゃんと考えてよね!」
二人の背中が、並んで見える。
アディータは、本棚から料理の本を取り出して奮闘中だ。イデヤも手伝っているが、これがなかなか器用なものである。あの厳つい義手からは想像できぬ程に、包丁さばきなどこなれたものである。
しかし、何故か執拗にイデヤは動物性蛋白質を増やしたがっていた。
なにができるのか、ちょっと不安になってくる。
「ま、気分転換にはいいか。ねえ、二人とも、僕も手伝うよ」
片腕でも、やれることくらいあるだろう。
それに、もうすぐ右腕にも義手が付く。
今の不自由な生活も、あと少しで終わりだ。
「カイム、ちょっとアンタ。このバカを連れ出して。ったく、料理が進まないわ!」
「私はただ、お肉を」
「あー、うるさい! ほら、さっさと行って! ……気にしてんでしょ? カイムと散歩にでも行って来いっての」
キッチンからイデヤごと、追い出されてしまった。
アディータは、しっしと手を振るや、本のページをめくり出す。
イデヤの、意外にも辛辣な毒舌がこっそりと呟かれた。
「アディは、マニュアル通りじゃないとイライラするタイプです」
「ああ、なるほど」
「お肉が駄目なら、お魚でもいいのですが。こう、食事にはもっとボリュームが」
振り返ったアディータが、片眉を跳ね上げ睨んできた。
イデヤはそれでも、素知らぬ顔で「行きましょう」とカイムの手を握る。
外に出れば、平和な夕暮れの空が広がっていた。
少し風があるが、遥か遠くの雲の中へと、真っ赤な夕日が落ちてゆく。
尖った爪で傷つけないよう、イデヤは優しく握ってくれていた。
「少しブラブラしましょう。……さっきは、ごめんなさい。父が」
「あ、いや……でも、俺はちゃんとジークにお別れを言うことができたよ」
「主を失った竜が帰還する例は稀です。本当に、賢い子。最後まできっと、カイムのことを信じて飛んだんだと思います」
「……その気持ちに僕は、応えられていたかな」
二人並んで、そぞろに歩く。
どこの家からも、夕餉の香りが漂ってくる。
歓声をあげて走る子供たちと擦れ違い、その背を目で追えば自然と心が安らいだ。どんな過酷な空の下でも、人は身を寄せ合って生きてゆく。それを守るのが、カイムたちなのだ。
そっと手を握り返せば、ガシャリとイデヤの義手が小さく鳴った。
彼女は、前だけを見て静かに話し続ける。
「これから応えてゆくんです。今、参號騎はフレームまで組み上がってますので……ジークとヒルトの筋肉を移植して、明日の朝頃には」
「そんなに早く?」
「父は、そういう人です。それだけのために、ドラグマンサーズを作った人ですから。父の夢は……屍棺機龍でメタドロンを殲滅すること」
恐らくそれは、竜騎兵団の兵士たちや、市民の一人一人にいたるまで同じ想いだろう。メタドロンとは、決して相容れることはないのだ。
要求もなく、交渉もできず、ただ攻撃してくる謎の敵。
その目的だけは鮮明だ。
つまり、人類の剿滅である。
「父は、屍棺機龍の研究と開発こそが全てなんです。そのことで、沢山の人を敵に回してしまいました。それが、少し、悲しい」
「イデヤは優しいんだね」
「父は、唯一残った肉親、家族ですから」
「それでも、いや、だからこそ優しいのかな。僕のことも心配してくれた」
小さく頷き、イデヤは語り続ける。
竜は今の人類にとって、絶対に必要不可欠な存在だ。故に尊び、互いに信頼しあって生きている。竜もまた、人間と共に生きることで、産卵するべき陸地を得ているのだ。
竜が死ねば、人と等しく弔う。
歴戦の竜たちが眠る墓地が、竜騎兵団の敷地内にはあるのだ。
だが、屍棺機龍は……その竜の骸を使って作られる。
だから屍棺機龍は、死者への冒涜とも取れる行為だった。
「カイム、私は……かつて、両脚と右腕を失いました。そして、竜騎士としての存在を抹消されたのです。私の乗る壱號騎は、その時の相棒アモンの亡骸でできています」
「アモン、っていう名前だったんだね。いい竜だったんだろうな……ん? 両脚と、右腕?」
「はい。私が死んでも、この子だけは……必ず次の竜騎士と、世界を守ってくれる。私はそう思ったからこそ……でも」
ふと、イデヤが脚を止めた。
その視線の先で、一人の女の子がキョロキョロと周囲を見渡している。なにやらメモを見ながら、十字路の中央を行ったり来たり。
随分と大荷物を背負ったその少女を、カイムは知っていた。
ただ、どうしてここにいるのかが不思議なくらいである。
「ごめん、イデヤ。ちょっと」
イデヤの手を放して、急いで駆け寄る。
向こうもカイムを見ると、ぱっと笑顔を咲かせた。
「お兄ちゃんっ! よかったあ、道に迷っちゃって」
「メイムじゃないか、どうして首都に……っと、とと!?」
その少女の名は、メイム。
同じ孤児院で育った、4歳年下の女の子だ。カイムを兄のように慕って懐き、離れて暮らすことが決まった時など、ガン泣きして駄々をこねたこともある。
そのメイムが、抱きついて来た。
思わずよろけて、大の字に倒れる。
カイムに馬乗りになって、メイムは事情をまくしたてるのだった。
「あの、孤児院に帰ってこないっていうから、マザーが竜騎兵団に連絡を取ったの。そしたらね、あのね、なんか話が見えなくて……わたし、迎えに来たんだよ! 自主的に!」
「……勝手に出てきちゃったんだね。よくあんな片田舎からここまで」
「貨物船の船長さんが親切でね、乗せてくれたんだよ。で、竜騎兵団の基地にいったら、やっぱりなんだか訳がわからなくて。でも、たまたま通りかかったおヒゲの将軍さんが、お兄ちゃんのことを知ってて」
おヒゲの将軍さんとは、恐らくガイエスだ。
なんという幸運か……計画もなく飛び出してきたメイムは、カイムをよく知る総司令官ガイエスを通じて、リュミアの家の住所を教えてもらったらしい。
メイムは堰を切ったように喋り始めるや、カイムに跨ったまま止まらない。
「でね、ああ、そうだ! お土産があるんだあ。お兄ちゃんの好きなもの、沢山、たーっくさん! 持ってきたの。エヘヘ、こっそり小遣いを貯めてたから」
「あ、ああ、うん。……孤児院のみんなは元気?」
「うんっ! お兄ちゃんの仕送りで、みんな学校に行けてるよ。小さいな子たちも寒い思いをしなくてすんでるし、毎日それなりに食べてけてる。それで、マザーがね」
「と、とりあえず、僕から降りようか」
メイムは「あっ」と目を丸くして、そそくさと立ち上がった。
だが、その反動で、尻もちを着く形で転んでしまう。
背中の荷物が重すぎるのだ。
そんな彼女に駆け寄り、イデヤが手を差し伸べる。
「大丈夫ですか? 妹さん、なんですね」
「あ、ありが――っとぉおおお!? 手、手が……」
「ああ、すみません。驚かせてしまいましたね」
イデヤの手を見て、メイムはビクリと身を震わせた。
当然と言えば当然だ。
イデヤの義手は、まるでおとぎ話に出てくる魔王のようだ。華奢な彼女に不釣合いな大きさだし、五指はどれも爪が尖っている。
だが、イデヤは気にした様子もなく手を引っ込めた。
「では、せめて荷物を持ちましょう。カイム、彼女も家に招いてはどうでしょうか。今日はもう、日が暮れます」
「そうだね……あと、孤児院のマザーに連絡しないと。きっと、心配している。さ、立って、メイム」
メイムはわたわたと背の荷物を下ろすと、立ち上がった。
ひょいと片手で簡単に、膨らんだリュックをイデヤが持つ。
先に歩き出した彼女を追えば、しがみつくようにしてメイムが右袖にぶら下がってきた。
「お兄ちゃん……本当に、腕。ね、ねえ、痛くないの? 大丈夫? わたし、お世話してあげるからね」
「はは、今日手術をしてね。もう血は止まってるし、包帯が取れれば義手を付けることに――」
その時だった。
再びあの音が、首都の空に響き渡る。
それは、敵襲を告げるサイレンの音だった。
再会の喜びも吹き飛ぶ程に、刺々しい空気が泡立ってゆく。
驚き目を白黒させるメイムが、抱きついてきて言葉もなく震えるのだった。
この小説は、錬金術が生むのは金や攻撃力……ではなく、パン!?『追放された錬金術師、実はトップクラスのパン職人!?日本のパンで旦那様を支える?』の提供でお送りします。
追放された錬金術師、実はトップクラスのパン職人!?日本のパンで旦那様を支える?:櫛田こころ
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可愛い妖精相棒と共に、美味しい錬金術で日本のパンを作りまくる!
・次回予告
再び襲い来るメタドロンに対し、港へ向かうカイムたち。
既に多くの航竜母艦が出撃し始めていた。
そして、カイムに再び戦う力が示される。
それは、屍棺機龍……まだ未完成の参號騎。
再び少年は今、戦いの空へと舞い上がる!
次回、第12話「蘇る翼」
――汝、人を象る龍となれ!




