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フルメタル・ドラグーン  作者: 長物守
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第01話「その手に掴む全てが消えてゆく」

・この物語は――


 大地が失われて、千年……人は竜と共に、空を漂う浮島で生き延びていた。大きな浮島は国となり、広がる空が互いを隔てる海だ。だが、この世界には……大きく文明を交代させた人類には、敵が存在した!

 戦場の空を、落ちる。

 どこまでも落ちてゆく……少年は今、死へと飲み込まれようとしていた。

 名は、カイム・セレマン。

 竜騎兵団(りゅうきへいだん)に所属する、栄えある若き竜騎士(ドラグーン)だった。だが、それももう終わる。世界を襲う驚異との戦いに、敗れたのだ。


「……これが、死か? 僕はもう、終わりなんだ」


 空虚な(つぶや)きしか出てこない。

 空は常に危険に満ちており、戦いは絶えない。そして、生き残るためには戦い続けるしかないのが、この時代の人間たちだった。


 天敵とも呼べる存在が、人類を脅かしている。

 (しゅ)の生存を賭した戦いは、常に竜と共にあったのだが。

 だが、それもカイムにとって過去になろうとしている。

 史上最年少の天才竜騎士という自分は、死で完結して永遠になるのだ。


「戦死年金があるから、妹たちは大丈夫……相棒は、悪いことしたな。ごめん、って言っても伝わらないよな、もう」


 今日は敵の数が多かった。

 カイムに背を許してくれた竜も、今はどうしているか……訓練された竜騎兵団の竜は、なにかあれば自分で判断して合流地点へと帰る。だが、(あるじ)を失った竜が生き残れるほど、この空は容易ではない。


 大自然の摂理(せつり)が生んだ、最強の生物……竜、すなわちドラゴン。

 竜たちの力を借りて、共生することで人類は生き残ってきた。

 その(いとな)みが今後も続くかどうか、それはわからないが。


 そっとカイムが目を閉じた、その時だった。

 右腕を(つか)まれたと思った瞬間、ガクン! と衝撃に引っ張り上げられる。

 そして、涙声が叫ばれた。


「こらっ、バカッ! バカバカ、バカッ、バカカイム! 略してバカイムだよ! もぉ!」


 罵声(ばせい)に顔をあげれば、自分の腕を掴んだ少女が泣いていた。

 自分と同じ所属の、先輩竜騎士だ。

 思わずその名を口にすれば、カイムの(ほお)にぽたりと(しずく)が落ちた。


「セシリア、先輩? いや……落ちます、二人は無理ですよ。こんな戦闘中に」

「わかってるっての! カイムの竜は? ……無事、じゃないよ、ね」

「最後に見た時は、まだ飛んでました。でも、もう」


 期待のルーキーとして頭角を表していたカイムにとって、相棒の竜はとても頼れる存在だった。何度も先達たちが乗ってきた、竜齢(りゅうれい)二百年ほどのベテランだった。

 だから、ギリギリの攻防の中で、最後にカイムを放り投げたのだ。

 自分が敵の翼に切り裂かれる中、主を逃したのである。

 飛べない人間は空では無力だが、仲間に拾われる可能性はある。そして実際、カイムは助けられた。先輩の竜騎士、セシリア・アーベントに。


御託(ごたく)はいいから、カイム! ぬっ、ぬぬ、脱いで!」

「あ、はい……セシリア先輩、なんか顔、赤いですよ」

「あーもぉ、うっさい! なんでこゆ時まで冷静かなー? フル装備の竜騎士が二人じゃ、この子も辛いっての。さっさと装備を捨てなさい!」


 大きく身を(かたむ)けて、セシリアはカイムを片手でぶら下げて飛ぶ。彼女の竜は、カイムの相棒とは(つがい)だった。そろそろ卵を生む準備を二匹で始める(はず)だったのである。

 だが、それも今は失われた未来。


 竜の卵は人間にとっても、大自然の恵みとなる貴重な資源だ。

 (ひな)(かえ)れば、新たな翼は人々の守り手となるのだ。

 ともあれ、カイムは黙って鎧を片手で脱ぐ。

 腰の剣もまとめて外して、次々と装備を捨て出した。


「今回はまずいわね。こんな大規模な攻撃、初めて見る。よし、引っ張り上げるわよ!」


 片手で手綱(たづな)を握りながら、もう片方の手へとセシリアが力を込める。少女の細腕とは思えぬ力が、カイムを竜の上へと持ち上げてくれた。


 だが、その間隙(かんげき)を狙って敵が迫る。


 不気味な(うな)り声は、金属のような肉体をしならせ近付いてきた。決して羽撃(はばた)くことなく、まるで刃のような翼をピンと伸ばして迫りくる驚異……風車のような尾羽(おばね)を回転させて飛ぶ、殺意の(かたまり)だ。


「チィ! 背後に回り込まれた!?」

「セシリア先輩、僕を放してください。このままじゃ、二人共」

「黙ってて! 舌を噛むわよ! あと、次にバカなこと言ったら蹴っ飛ばすからね!」


 手綱を引きつつ、セシリアは相棒の竜を(ひるがえ)す。

 (すで)にもう、カイムは手を放していた。

 だが、そんな彼の手を、セシリアは強く握り締めている。


「しっかり私の手を握って! カイム!」

「いえ、これはもう……風に乗れてませんよ、セシリア先輩。二人じゃ、落ちます」

「そいつは並の腕の奴に言ってよね!」


 セシリアもまた、若くして竜騎士に選ばれた少女だ。その強さは、カイムもよく知っている。だからこそ、これからの国に必要な人間だと思った。

 そして、振り返ればすぐ背後に、敵が迫っていた。


 みるみる距離を詰めてくる、鈍色(にびいろ)の鋭角的なシルエット。

 カイムたちの世界を脅かす、正体不明の敵……生物であるかどうかもわからない、謎に包まれた存在だ。


 その名は、()()()()()……金属で身を覆った、羽撃かぬ翼である。


「んにゃろっ、カイムは私がツバつけてんの! 狙ってくるなら、メタドロンだってブン殴るんだから!」


 片腕でカイムを保持しつつ、セシリアは手綱を口で()む。見上げる顔はまだ泣いてたが、彼女が強い女性だとカイムは知っている。姉御肌(あねごはだ)でいつもカイムの世話を焼く、人情家で涙もろい先輩竜騎士……彼女は、腰の剣を抜くや肩越しに振り返った。

 次の瞬間、カイムの視界が真っ赤に染まる。


「カイムッ! ああもう、右腕は諦めて、でもっ! 絶対に助けるから!」


 メタドロンの攻撃は無慈悲で、常に氷の殺意を乗せて飛ぶ。

 再び自由落下を始めたカイムは、自分の右腕が切り裂かれたことに気付いた。(ひじ)から少し上までが、消失している。おびただしい流血が宙を舞う中、彼は再び空を落ち始めた。


 焼けるような痛みの中で、降下してくるセシリアが見えた。

 その背に、銀翼(ぎんよく)をギラつかせるメタドロン……比較的小型なタイプ、エクスシア級と呼ばれる個体だ。鋭利な翼で全てを切り裂き、鋼の(つぶて)を吐き出し攻撃してくる。時には、そのまま体当りして爆発することもあった。


「セシリア、先輩……もういい、ですから……逃げてくださいよっ! セシリア先輩!」


 全てがスローモーションに見える中で、少女が両断された。飛び散る血飛沫(ちしぶき)と肉片の中を、どんどんカイムは落ちてゆく。

 自分を助けなければ……自分が落ちなければ、セシリアは助かっていた(はず)

 この激戦の中でも、彼女は生き残れたと思った。

 自分が殺したも同然だと、カイムは(くちびる)()む。

 そして、そんな彼に再びエクスシア級のメタドロンが迫った。


「……返せよ」


 身を震わせる程の怒りが、カイムの全身を熱くする。

 絶体絶命の中で、彼の激情は一人の少女の死に燃え上がっていた。

 自分の命よりも右腕よりも、親しい先輩の笑顔が思い出された。


「返せよっ、セシリア先輩を! 何故(なぜ)殺す、どうして人間を狙うっ! なんなんだよ、お前……お前たちは! メタドロンは、なにがしたいんだっ!」


 世界の全てが共有する、謎。

 人と竜の共生社会(きょうせいしゃかい)を脅かす、敵意への疑問だ。

 メタドロンと呼ばれる敵は、どこから来て、なんの目的で殺すのか。大挙して殺到し、時には数日で国一つを地図から消してしまう。


 カイムは(にじ)む視界の中で、エクスシア級を(にら)んで声を張り上げた。


 その刹那(せつな)……風が突き抜ける。


 突然、影が目の前を横切った。


 その翼はあまりにも(はや)く、鋭い。


 そして、迫り来るエクスシア級が突然真っ二つになる。鋭利な断面を見せて、それが爆発する瞬間にはもう……なにかに鷲掴(わしづか)みにされ、カイムは風を感じて上昇していた。


「な、なんだ? 僕は……助かったの、か? ――ッ!」


 (おどろ)きに声を飲み、息が止まった。

 そこには……自分をその手に握った、全高7m(メーヴ)程の死神が()んでいた。

 長柄(ながえ)大鎌(デスサイズ)を持ち、背には竜の翼。

 まるで古代の聖典に記された悪魔、堕天使(だてんし)のようだ。

 薄れゆく意識の中、カイムは確かに聴いた。

 死神の声は、失い亡くす中で言い放つ……()()()()()、と。


 この日、リヴァリース皇国(こうこく)最精鋭(さいせいえい)と呼ばれた竜騎兵団の竜騎士に多くの戦死者を出すこととなった。そして、メタドロンの跳梁(ちょうりょう)により、人類はまた一段と生存圏を狭められてしまうのだった。

・次回予告


 右腕を失い、竜騎士としての栄誉ある戦いを失くしたカイム。

 そんな彼が去る日に、かつての仲間たちが苛立ちをぶつけてくる。

 されるがままに、無気力な自分を暴力へ曝け出すが……

 そんなカイムを助けてくれたのは、謎の少女だった。


 次回、第02話「それは女神か、それとも死神か」


 ――汝、人を象る龍となれ!

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