五十話『しょうぞう』
僕は思わず大きな声を出し、立ち上がる。
「ほら、あそこですっ。この間のお寺。……か、霞山寺ですよっ」
間違いない。あの霞山寺で僕がトイレを借りた時、たまたま覗き込んだ部屋の中に、あの掛け軸が飾られていた。
テレビ画面はスタジオに戻り、アナウンサーが手元の紙を読み上げる。
『実は、同様のケースが全国各地で相次いでおり、他にも壺や陶磁器など、十数点が、持ち主の手元へと戻ってきているとのことです。警察は盗難事件との関係があると見て、慎重に捜査を進める方針です』
それと同時に、盗まれて戻ってきたものの写真がスライドで流れていく。どれも、あの部屋にあったもので間違いない。しかし、一体どうして。何がどうなっているのか、僕は頭が混乱してしまい、全く思考が働かない。
田畑さんはテレビを消すと、身体をもたげ、僕を見た。
「どうした? 興奮して」
「今の壺やお皿も掛け軸も全部、あの霞山寺にあったのを、この目で見たんです。僕、トイレを借りた時に、たまたま部屋を覗いたんです。その部屋の中にあったもので、間違いありませんっ」
田畑さんは深く息を吐くと、「お鶴」とお鶴さんに視線を向ける。
「お主、言っていないのか?」
「言ってないわよ。耕作が言ったんじゃないの?」
お鶴さんは肩を竦めた。田畑さんは次に、ジャンヌさんへと顔を向ける。すると、ジャンヌさんはゆっくりと首を左右に振った。
「わたくしは、指示以外のことを自発的には行いませんので」
田畑さんはじっと部屋を見渡す。この部屋の中で状況が掴めていないのは、どうやら僕と大洞さんらしい。大洞さんも、眉間に軽く皺を寄せて小首を傾げている。
田畑さんは「そうか」と腕を組んだ。
「伝え忘れていたのか。これは失敬。実はな、」
田畑さんが言いかけたちょうどその時、部室の扉が突然、開かれた。僕は顔を向けるも、そこにいたのは、これまでに一度も会ったことのない短髪の男性だった。
しかし、お鶴さんは「うわ」と立ち上がって出迎える。
「しょうぞう、来てくれたんだ」
「お前が大事な話があるから来てくれって言ったんだろ」
その声を聞いた瞬間、僕と大洞さんは同時に、「ああっ」とその男性に向かって指を差していた。
「その声……、あの時、田畑さんと戦っていた」
「般若のお面の人っ」
男性は「ああ」と笑う。
「あの時、お鶴の傍にいた奴らか。確か今年、同好会に入ったんだっけ。ごめんな。俺、忙しくってほとんど学校来てなかったから、挨拶出来なかった。俺は理工学部四年のしょうぞう。まあ、気軽にしょうぞうさんって呼んでくれ」
僕はとりあえず、腕をつねってみる。きっとこれは夢だ。夢の中では、よくこういったわけのわからないことが起こる。
しかし悲しいことに、痛覚はここが夢だとは言ってくれなかった。




