四十八話『侍である理由』
東雲の空が靄のような雲を運んでいる。霞山寺を出て住宅街を抜けると、大きな通りに出て、コンビニが見えた。そこでようやく、僕は現実世界へと戻ってきたような、そんな感じがした。
六人は無言で信号を待つ。車は一台もやって来ない。僕は赤い点滅を眺めながら、朝の匂いを目一杯吸いこんでみる。何かが満たされた気はしたが、空腹は満たされなかったようで、胃は抗議の運動を行っている。
横断歩道を渡ると、「あの」と後方から大洞さんの声。僕たちが立ち止まって振り返ると、横断歩道の真ん中で佇む大洞さんは、親指を立て、満面の笑みを浮かべた。
「やりましたねっ」
お鶴さんはふっと微笑むと、「そうね」と大洞さんに手を差し出す。大洞さんは無邪気に走ると、その手を受け取った。
楠城さんは自身がいかに活躍したかを雄弁に語り、それをお鶴さんが適当にあしらっている。大洞さんはジャンヌさんと楽しげに何かを話しているものの、会話の内容までは聞こえてこない。
僕は前を歩く田畑さんの隣に並び、「田畑さん」とすっかり髭で覆われたその顔を見る。
「今日の田畑さん、とても恰好よかったです」
田畑さんは僕を一瞥すると、正面へと顔を戻す。
「そうか。だが、今日だけでなく、いつもだ」
その田畑さんらしい言葉に、僕は「そうですね」と笑う。
そういえば最近、こうして田畑さんと二人で話す機会がなかったことに、僕は気がついた。この機会に、僕はあることを訊いてみることにした。
「あの、一ついいですか?」
「何だ?」
「……田畑さんは、どうして侍になりたいと思ったのですか?」
田畑さんは「どうしてって」と円いその目を僕に向ける。
「恰好いいからに決まっているだろう」
「恰好いいから。……それだけですか?」
「他に理由が必要か?」
そうか。確かに考えてみれば、やりたいことやなりたいものに、理由なんて要らないのか。余計なことなど考えず、やりたければやればいいし、なりたければそれになるために進めばいいのだ。
僕は「いえ」と遠くの空を見つめる。
「理由なんて要らないですね」
田畑さんは「そうだろう」と小さく息を吐いた。
朝焼けが、今日の始まりを告げている。
煌々とした輝きを浴びながら、僕たちは確かな足取りで、その歩を並べた。




