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侍に誘われて  作者: ゆず
最終章
46/51

四十六話『理由』

 住職さんがトイレへと行くと、お鶴さんは大きな溜息を吐き出し、首を回す。


「あー、疲れる。なんであたしが、あの坊さんの訳のわかんない話に、愛想のいい相槌を打たないといけないのよ」

「説法ですよ。有り難いお話です」


 僕がそう言うと、お鶴さんはムスッとした表情で鼻息を飛ばした。楠城さんと全く同じ反応に、僕は苦笑してしまう。


 住職さんは、この時間を何もなくただ過ごすのも辛いだろうからと、色々と話をしてくれている。僕はその話をとても興味深く聞いていたが、どうやらお鶴さんには苦行だったようだ。


 田畑さんは銀目像に向かって座禅を組み、瞑目したまま動かない。姿が姿なので、その光景はなかなか様にはなっている。


 僕は、気になっていたことをお鶴さんに訊ねてみることにした。


「あの、そもそもどうして、窃盗団を捕まえようってなったんですか?」

「ん? 何よ、今さら」

「いえ、ずっと疑問だったんですけど、多分、田畑さんの気まぐれだろうと思って、訊かなかったんです。でも、その気まぐれにも何か理由があるのかな、と」


 お鶴さんは後ろに手をつき、「理由なら多分」と高い天井を見上げる。


「恨み、だと思うよ」

「……恨み、ですか?」


 僕は大きく唾を飲み込む。何だか、深い理由があるような、そんな予感がした。お鶴さんは「そう、恨み」としめやかな顔をする。


「耕作は以前、とても大切なものを盗まれたんだ。とても大事にしていた、あるものを」


 もったいぶるようなお鶴さんの言葉に、「大切なもの?」と黙って会話を聞いていた大洞さんが入ってくる。


 お鶴さんはゆっくりと僕たちを見ると、どうしてか肩を震わせる。


「耕作ね、実は、大事にしていた和傘を盗まれたんだ」


 お鶴さんは口許に手を当てて笑い始めた。真剣に話を聞いていた僕たちは、呆然とする。


「……あの、それってもしかして、ただ傘が盗まれたという話ですか?」


 僕の問いかけに、お鶴さんは「そう」と笑いながら頷く。


「コンビニにおにぎりを買いに行ったんだって。それで、おにぎりを買ってコンビニを出たら、傘立てに差してた傘がなくなってたと。それに、えらく怒っちゃって」

「でも、それって盗んだのは、その窃盗団じゃないですよね?」

「当たり前でしょ。でも、それから耕作は『盗む』って行為が許せなくなったみたい。だから多分、窃盗団の報道を見て、そこで憂さ晴らしをしようって思ったんだろうね。勿論、未来の被害者を防ぐって意図もちゃんとあるとは思うけど」


 憂さ晴らし。一瞬固まった僕は、慌てて口を動かす。


「……じゃあ、田畑さんは窃盗団の彼らから、自分と同じ匂いのようなものを感じ取って止めようとしているってことではないんですか?」


 お鶴さんは「はあ?」と白い目を僕に向ける。


「そんなわけないでしょ。あんた、あの坊さんの話に、おかしなスイッチでも入ったんじゃないの?」


 僕は「そ、そうですよね」と苦笑する。どうやら、深く考え過ぎていたようだ。大洞さんにまで笑われて、僕は少し恥ずかしくなる。


 住職さんが戻ってくると、お鶴さんは急いで姿勢を正し、演技に入る。


 この豹変ぶりを目の当たりにすると、あながち、お鶴さんの夢が叶う日もそう遠くないのではないかと、僕はそう思った。


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