四十五話『幕開け』
「私と田畑、大洞と本多の四人が本堂で待機をします。ジャンヌと楠城の二人は、庭で奴らが来るのを確認し、そして私たちへと報告して貰います」
お鶴さんが全員を手で差していき、住職さんへと説明する。住職さんは眼鏡の奥の目を細めて、その説明に頷いている。
「あと、住職さんにも、ぜひ本堂で待機して貰いたいのですが、よろしいでしょうか? 私たちの行動を監視……、と言うと語弊があるかもしれませんが、見守っていただきたいのです。正直なところを申し上げますと、もし何かがあった時に、私たちへの疑いの目を持たれては困りますので」
住職さんは小さく笑う。
「心配はしていませんが、確かにそうですね。それに、私も皆さまだけに警護を押しつける気は毛頭ありませんよ。私も一緒に、守りたいと思っています」
お鶴さんは微笑を浮かべて頷いたものの、「しかし」とすぐに真剣な表情になる。
「相手はプロの窃盗団です。どのような危険があるかわかりません。ですので、住職さんには私と本多、そして大洞の三人がつきたいと思います。決して、私たちの傍を離れないでください」
住職さんは苦笑する。
「……いやはや、こんな若い子、それも女の子にも守られるのは少々恥ずかしいという気持ちもありますが、年寄りが出しゃばってもいいことなんてありませんからね」
お鶴さんは軽く頭を下げると、「では」と元から伸びていた背筋をさらに伸ばし、障子越しに窓の外を見た。
「そろそろ日が暮れてきましたので、各自の持ち場へと待機しましょう」
そうして、僕たち四人と住職さんが本堂へ、ジャンヌさんと楠城さんの二人が庭へと向かった。その途中、僕はふと気になったことを住職さんに訊ねる。
「あの、御家族は庫裡の方に?」
住職さんは「いえ」と首を振る。
「家族は今日、明日と旅行に行っていまして。とはいっても、娘はもうここを出て家庭を持っているので、家内の話ですが」
大洞さんが「じゃあ」と切ない表情を浮かべる。
「お一人だったんですね。寂しくないのですか?」
「そうですね。ただ、今日に限ってはよかったと思います」
住職さんは柔らかい表情でそう答えた。確かにそうかもしれない。万が一を考えると、家には誰もいない方がいいだろう。
真っ暗な本堂に入ると、住職さんは「少し待ってください」と照明をつけた。和紙で包まれた三つの照明が、天井から気高く本堂を照らし出す。本堂の奥には、柔らかに光を反射する銀目像が、神々しく佇んでいる。
その照明を眺めながら、大洞さんが首を傾げる。
「窃盗団の人たちは、電気がついていても中に入ってくるんでしょうか? 人がいる気配を感じ取って、諦めてくれたらいいのに」
大洞さんの疑問に、田畑さんが「間違いなく入ってくる」と断言する。
「犯行予告を出しているのだぞ。何かしらの警護は想定した上でやってくるだろう」
大洞さんは「そっか」と納得した様子で頷く。
「確かにそうですよね。でも、そう考えたら、どうやって盗むんでしょうね。持ち運べるような小さなものなら、わたしたちの隙をついて運び出せるかもしれないですけど、二百キロの仏像なんて、そう簡単には持ち運べないでしょうし」
大洞さんの言う通りだ。犯行予告を出しているということは、窃盗団は警察が警護していることを想定しているはずだ。そんな中、あの重さの仏像を盗み出せる算段があるのだろうか。
僕の中で、嫌な予感が蠢きだす。
「あの、その窃盗団ってこれまで、負傷者などは出しているのですか?」
「いや、一人も出ていない」
田畑さんの言葉を聞いて、僕は安心すると同時に、逆に考えれば彼らは一人の負傷者すら出すことなく盗むことが出来る技術を持っているということに気がつき、驚愕する。
田畑さんは「どちらにせよ」とその場に胡坐を掻くと、柄を持って一文字に刀を掲げる。
「もし戦闘になったとしても、私がいる限り、こちらに負傷者が出ることなど有り得ぬのだから、お主らは大船に乗ったつもりでいるがよい」
それにはさすがの住職さんも困惑した表情を浮かべ、お鶴さんは「気にしないでください」と満面の笑みでやり過ごした。
お鶴さんは住職さんの隣に座ると、「じゃあ」と小さく息を吐く。
「あとは、彼らが来るのを待ちましょう」
僕たちの長い夜が、幕を開けた。




