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侍に誘われて  作者: ゆず
最終章
43/51

四十三話『作戦会議』

 部室には、珍しく六人のメンバーが集まっていた。僕と大洞さんはカーペットで小さくなって座り、お鶴さんと田畑さんはソファーに腰を下ろしている。


 窓際には忍者姿のジャンヌさんが立っていて、そして入り口近くの床に、ムスッとした様子の楠城さんが胡坐を掻いていた。


 六人ものメンバーが一堂に会すること自体が稀なのに、その上、滅多に部室に来ない楠城さんがいるのが、視界に新鮮味を与えていた。


 楠城さんは法学部に所属する、現在四年生。四年生ではあるものの、実際の年齢は現役で大学に入ったお鶴さんより、三つ上らしい。


 何でも、思春期に大きく道を逸れてしまったらしく、全うな道に戻るのに三年かかったそうだ。どのように道を逸れたのかは、恐ろしくて訊けていない。


 楠城さんは今、あるビジネスを考えていて、起業しようとしているらしい。


 前回会った時に聞いた話によると、そのビジネスは全国に跋扈する不良少年たちを相手にしたもので、それは昔悪かった楠城さんが、不良少年たちを更生させるために奮起する、という感動に溢れた話ではなく、楠城さん曰く、不良少年は自分たちのことには意外と金を使うため、そこに目をつけて彼らから金を巻き上げる予定らしい。


 しかし、楠城さんの目的は金儲けではない。楠城さんの最終的な目標は、アメリカを倒すこと。ちなみに、理由は至極単純で、偉そうでムカつくから、だそうだ。


 そんな楠城さんは七三に分けた前髪を触りながら、「だから」と不機嫌な様子で口を尖らせる。


「こんな計画、要ります? そんなの、さっさと見つけ出して胸倉掴んで上下左右に揺すってやればいいんですって」

「お主は阿呆か。それに、捕まえるのはやめにした。武蔵がうるさいからな」


 それを聞いた楠城さんが、僕を睨みつける。


「何だお前、いつからそんな権限を持つようになったんだ?」


 楠城さんが立ち上がろうとするので、僕は慌てて掌を向ける。


「ち、違いますよ。ただ、相手が例えばナイフや拳銃などを所持していたら、命の危険があると言っただけです」


 楠城さんは腰を下ろし、呆れたような溜息を吐く。


「何ビビってんだよ。相手が何を持ってようが、先制パンチしてやりゃいいんだよ。ほら、こうして」


 楠城さんは拳を作り、宙に向かってパンチを繰り出す。しばらく全員が楠城さんのシャドーボクシングを見せられたあと、田畑さんが「では」とテーブルの上に、一枚の大きな紙を広げた。


「私たちの今回の目的は、この霞山寺にある仏像の死守だ」

「仏像、ですか?」


 僕が訊ねると、「そうだ」と田畑さんは頷く。


「銀目像と呼ばれ、文化財にこそ指定されていないものの、非常に価値の高い仏像のようだ。闇の市場に流れれば、数百から数千万円までいくと言われている」


 大洞さんはその値段に「すごーい」と大きな声を発しているものの、僕は別のところに驚いた。


「……あの、窃盗団が何を盗むか、既に判明しているんですか?」

「当然だ。うちには情報収集のエキスパートがいるのだぞ」


 田畑さんは、窓際のジャンヌさんを一瞥した。ジャンヌさんは照れ臭そうに、顔を僅かに下げている。一体、どうやって情報を入手したのだろうか。


「いつ盗みに来るかもわかっているんですか?」

「ああ。ずっとそれがわからなかったが、先日ようやく、ジャンヌがその情報の入手に成功した」


 田畑さんがジャンヌさんに頷くと、ジャンヌさんは半歩、前に出る。


「彼らが窃盗を行う日時は、再来週の日曜日、日が暮れてからとなります。残念ながら、詳しい時間までは判明しませんでした」


 いや、日時までわかっている時点で既におかしいと思うのは僕だけだろうか。すると楠城さんが、「なら」と大きな声を出す。


「そいつらが来るまでに、その仏像を隠しちまえばいいじゃねえか」


 確かに、そうすれば窃盗団が盗みに来ても、そこに仏像がないのだから盗まれる心配はなくなる。しかし田畑さんは、「駄目だ」とその案を却下する。


「銀目像は金銅仏で、高さ二メートル、重さは約二百キログラム近くある。そのような仏像を簡単に動かすことは出来ぬ上、出来たところで、隠しておく場所もないだろう」


 楠城さんは「ならしゃあねえな」と納得した様子で、鼻息を飛ばした。しかし、その会話を聞いていた僕は、根本的な違和感を覚える。


「すみません。そこまでわかっているのなら、警察に連絡すればいいのでは?」


 しかし、その僕の意見も、「駄目だ」と言下に否定される。


「警察が明確な証拠もなく動くとは思えぬからな」

「明確な証拠がないのですか?」

「いや、あるにはある。しかし、それを警察に提示すると、ジャンヌが縄にかけられるおおそれが出てくる」


 お鶴さんが笑う。


「情報入手の過程を訊かれたら、答えられないもんね」


 ジャンヌさんは身体を小さくし、「……はい」と頷いた。一体、どんな黒いルートを使ったのか、と想像し、僕の背筋に凍てつくような悪寒が走る。


 田畑さんは「そして」と説明に戻る。


「これが、銀目像を所有する、霞山寺の間取りとなっている。みな、こちらにきて確認してくれ」


 集まって見てみると、紙には大雑把な間取りが手書きで書かれていた。


 広い庭の中央に、一つの建物。その建物の本堂と書かれている広い部屋に、星のマークがつけられている。


 田畑さんはその本堂を指で示す。


「銀目像はこの本堂に安置されているが、この本堂へと入るには二つの方法がある。一つは、正面の階段を上がり、南側から入る方法。まあ、通常の入り口だな。そしてもう一つは、庫裡から入るという方法」


 楠城さんが「庫裡って何すか?」と訊ねる。間取りを見ると、本堂から繋がる住居のような部分に、庫裡と書かれている。


「庫裡とは、要するに寺の住職とその家族の居間だ」

「なるほど。坊さんがそこに住んでんすね」

「その通りだ。庫裡から本堂は見ての通り、廊下で繋がっておる。庫裡へは裏口から入ることが出来るため、裏口から侵入すれば、本堂へと行くことが出来る。しかし、盗賊共がそのルートを選ぶ可能性は皆無と言っていいだろう」


 大洞さんが「どうしてですか?」と首を傾げる。それには田畑さんではなく、お鶴さんが答える。


「あれでしょ。裏口までは遠いし廊下も狭いから、そんな重たい仏像を、わざわざ庫裡を通って運ぶメリットがないからでしょ。それに、庫裡にはお坊さんと家族がいるんだし」


 その答えに、田畑さんは「うむ」と頷く。


「おそらく、窃盗団は正面から堂々と入り、盗んでいく手筈だろう」


 ここで僕は、あることに気がついた。


「ちょっと待ってください。そんな二百キロの仏像を盗むってことは、窃盗団は複数人で来るってことですよね?」

「何を当たり前のことを言っておるのだ」


 呆れるような田畑さんの口調。僕は田畑さんのペースに流されないよう、冷静になって考える。


「何をしてくるかわからない複数人を相手に、こちらはこの六人ですよね。それで、どうやって防ぐんですか?」


 田畑さんは上目で僕を見返す。


「私たちは本堂に待機しておく。誰もいないはずの本堂に人がいれば、奴らも驚き、引き返すだろう」

「……引き返さなかった場合は?」


 僕が顎を引いて訊ねると、田畑さんは鞘へと手を添えた。


「その時は、侍として迎え撃つ。いや、迎え斬るまでだ」


 それを聞いた楠城さんは「よっしゃ」と拳を握りしめた。田畑さんは始めからそれを想定しているような気がするのは、僕の気のせいなのだろうか。


 田畑さんの性格からして、ただ追い返すだけで満足するとは、到底思えないのだが。


 大洞さんが、「でも」と眉をひそめる。


「そもそもこの御寺の住職さんは、何とおっしゃっているんですか?」


 田畑さんは「何をだ?」と問い返す。


「えっと、その仏像を盗まれるということに関してです」


 大洞さんの言葉に、田畑さんはジャンヌさんを見つめたあと、僅かに顔を傾けた。


「何も言いようがないと思うが。なぜなら住職は、仏像が狙われていることなど、知らぬのだからな」

「伝えてないんですか?」


 僕が驚いて大きな声を出すと、「うむ」と田畑さんは腕を組んで頷く。


「伝える必要がない。伝えたところで信用しないだろうし、信用したとしても、それまでの時間を不安に過ごさせることになるからな。直前になってから伝える」

「しかし、予め伝えておけば、何かしらの対策を講じることが出来るのでは? 例えば、本堂のセキュリティを強化するとか、仏像を動かせないように細工をするとか」

「いや、駄目だ。そんなことをすれば、情報が漏れていたことに窃盗団の奴らが気付き、そこからジャンヌの存在を嗅ぎつかれてしまうおそれがある。だからあくまで、私たちは偶然、本堂にいたという体を取る。そのため、直前までは住職にも情報は伝えない。余計なことをされると困るからな。私が一番に考えるのは、ジャンヌの身の安全だ」


 なるほど。確かに窃盗団からすれば、盗みを予定している先が、急に対策を講じ始めたら、情報の漏洩を疑うのは当然の運びだ。


 一体ジャンヌさんがどんな手段で情報を入手しているのかは知らないが、あれだけの情報を手に入れているということは、かなり接近しているのは間違いないだろう。


 それに関しては理解出来たが、僕にはまだ、疑問が残っていた。


「しかし、となると、どうやって本堂で待機するのですか? まさか、勝手に侵入して待っている、なんてそんなことしませんよね?」

「無論、許可を得るつもりだ」

「……出来ますか?」


 僕の不安を、田畑さんは鼻息で飛ばす。


「問題ないだろう。住職も盗賊共のことはニュースで知っておるだろうし、それに私たちにはともえがいるのだからな」


 大洞さんは目を丸くし、小首を傾げている。僕は眉をひそめた。


「大洞さんがいれば、問題ないのですか?」

「そりゃ、ともえの頼み事を断れる男など、この世に存在せぬからだ」


 僕は思わず、「はい?」と間抜けな声が漏れた。田畑さんはそんな僕を、じっと見返す。


「お主は、そう思わないのか?」


 すると、どうしてか大洞さんまで、顔をしかめて僕の答えを待っている。僕は溜息を噛み殺し、「……思います」と呟くように答えた。


 田畑さんは満足した様子で頷くと、「よし」と顔を上げる。


「では、各自決行の日まで、心身共に整えておくように」


 大洞さんと楠城さんの、快活な返事が部屋に響き渡る。ここまで来たら、もうやるしかないだろう。僕もやけになって、拳を高く突き上げた。


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