三十七話『ジャンヌさん』
一限目が終わり、僕と大洞さんは急いで『侍じゃ』へと向かう。
「でも、驚いたね。まさか、助っ人にあんな個性的な人が来るなんて」
僕は「本当だよ」と心底頷く。
「ほら、かなり前に言ったことがあったでしょ。キャンパスでスケボーに乗った人とすれ違ったって。あれがジャンヌさんだよ」
「あー、そういえば言ってたね。へえ、じゃあ、学生なのかな?」
「それはわからない。でも、学生だったらもっと頻繁に見ていそうな気がするけど」
何せ、あの特徴的な風貌だ。視界に入れば、余程ぼんやりとしていない限り、気付かないことはないだろう。大洞さんは「でも」と小首を傾げる。
「三、四年生であんまり学校に来てない可能性もあるかも。それに、他の学部だったりしたら、場所も全く違うし。……田畑さんはジャンヌさんのこと、何て紹介したの?」
「特に何も言ってなかったと思うけど」
「ふーん。じゃあ、今度訊いてみようかな。あ、もしかしたら、同好会のメンバーかも。それだったら嬉しいな。ジャンヌさんとわたし、話が合いそうだから」
同好会のメンバー。大いに有り得るな、と僕は思った。
「でも、個性が凄いよね。外国人で、髪の毛が赤色で、メイド服着て、それにスケボーに乗っていて、それでめちゃくちゃ日本語が上手くて」
僕は頷く。
「それに身体が大きくて、褒められると凄く照れて、あと、ワニが捌けるってのも」
そう考えると、確かに凄いな、と僕は感心した。僕たちがジャンヌさんと会って話をしたのは、僅か数分間だ。その短時間の中で、あれだけインパクトを残せる人はそうそういないだろう。
大学の門を出ると、通りはお腹を空かせた学生たちで溢れ返っていた。
僕はここで、一つ気になっていたあのことについて、訊ねてみる。
「ねえ、ジャンヌさんってさ、女性だよね?」
大洞さんは白い目を僕に向ける。
「それ、本気で言ってるの? 見たらわかると思うけど」
僕は慌てて、「いや、冗談だよ、冗談」と笑って誤魔化す。そうだ。性別を疑うなんて、そんな失礼なことはない。
「うわ、見て。今日も凄い人」
見ると、店の前には昨日と同じくらいの列が出来ていた。ちょうどカレーの香りが風に運ばれてきて、僕もお腹が空いてくる。店の前で作るのは、正解だったかもしれない。
「シンさん、代わります。わたし、外やりますんで」
大洞さんがシンさんと交代すると、並んでいた男子学生たちの顔に活気が宿った。その様子を見ると、容姿のいい人を表に出しておけば、大抵の店の売上は上がるのではないかと思ってしまう。
「一人で二人前も食べられるんですか? すごーい。恰好良いですっ」
「いや、本気を出せば五人前はいけるよ。じゃあ、いっちゃおうかな」
「お買い上げありがとうございます」
そんな会話が聞こえてきて、その僕の推測は確信へと変わった。それにしても、大洞さんはあの悩みをふっ切ったようで、最近ではその容姿を、存分に武器として活用するようになった。
時折、僕にも使用してくるのだが、それが何か意図があってのものなのか、そうではないのかがわからなくて、毎回もやもやとした気持ちにさせられる。
店に入ると、昨日と同じく席は埋まっていた。そんな中、ジャンヌさんは機敏な動きで店内を駆け回っている。その様子はとても今日初めて来た人だとは思えない。
シンさんはそんなジャンヌさんを見て、「すごいですね……」と感心している。一体、この人は何者なのだろうか。
それにしても。
『見たらわかるでしょ』
いや、見てわからないから訊いたんだけど、と僕は苦笑した。




