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侍に誘われて  作者: ゆず
第三章~カレー屋を救え~
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三十七話『ジャンヌさん』

 一限目が終わり、僕と大洞さんは急いで『侍じゃ』へと向かう。


「でも、驚いたね。まさか、助っ人にあんな個性的な人が来るなんて」


 僕は「本当だよ」と心底頷く。


「ほら、かなり前に言ったことがあったでしょ。キャンパスでスケボーに乗った人とすれ違ったって。あれがジャンヌさんだよ」

「あー、そういえば言ってたね。へえ、じゃあ、学生なのかな?」

「それはわからない。でも、学生だったらもっと頻繁に見ていそうな気がするけど」


 何せ、あの特徴的な風貌だ。視界に入れば、余程ぼんやりとしていない限り、気付かないことはないだろう。大洞さんは「でも」と小首を傾げる。


「三、四年生であんまり学校に来てない可能性もあるかも。それに、他の学部だったりしたら、場所も全く違うし。……田畑さんはジャンヌさんのこと、何て紹介したの?」

「特に何も言ってなかったと思うけど」

「ふーん。じゃあ、今度訊いてみようかな。あ、もしかしたら、同好会のメンバーかも。それだったら嬉しいな。ジャンヌさんとわたし、話が合いそうだから」


 同好会のメンバー。大いに有り得るな、と僕は思った。


「でも、個性が凄いよね。外国人で、髪の毛が赤色で、メイド服着て、それにスケボーに乗っていて、それでめちゃくちゃ日本語が上手くて」


 僕は頷く。


「それに身体が大きくて、褒められると凄く照れて、あと、ワニが捌けるってのも」


 そう考えると、確かに凄いな、と僕は感心した。僕たちがジャンヌさんと会って話をしたのは、僅か数分間だ。その短時間の中で、あれだけインパクトを残せる人はそうそういないだろう。


 大学の門を出ると、通りはお腹を空かせた学生たちで溢れ返っていた。


 僕はここで、一つ気になっていたあのことについて、訊ねてみる。


「ねえ、ジャンヌさんってさ、女性だよね?」


 大洞さんは白い目を僕に向ける。


「それ、本気で言ってるの? 見たらわかると思うけど」


 僕は慌てて、「いや、冗談だよ、冗談」と笑って誤魔化す。そうだ。性別を疑うなんて、そんな失礼なことはない。


「うわ、見て。今日も凄い人」


 見ると、店の前には昨日と同じくらいの列が出来ていた。ちょうどカレーの香りが風に運ばれてきて、僕もお腹が空いてくる。店の前で作るのは、正解だったかもしれない。


「シンさん、代わります。わたし、外やりますんで」


 大洞さんがシンさんと交代すると、並んでいた男子学生たちの顔に活気が宿った。その様子を見ると、容姿のいい人を表に出しておけば、大抵の店の売上は上がるのではないかと思ってしまう。


「一人で二人前も食べられるんですか? すごーい。恰好良いですっ」

「いや、本気を出せば五人前はいけるよ。じゃあ、いっちゃおうかな」

「お買い上げありがとうございます」


 そんな会話が聞こえてきて、その僕の推測は確信へと変わった。それにしても、大洞さんはあの悩みをふっ切ったようで、最近ではその容姿を、存分に武器として活用するようになった。


 時折、僕にも使用してくるのだが、それが何か意図があってのものなのか、そうではないのかがわからなくて、毎回もやもやとした気持ちにさせられる。


 店に入ると、昨日と同じく席は埋まっていた。そんな中、ジャンヌさんは機敏な動きで店内を駆け回っている。その様子はとても今日初めて来た人だとは思えない。


 シンさんはそんなジャンヌさんを見て、「すごいですね……」と感心している。一体、この人は何者なのだろうか。


 それにしても。


『見たらわかるでしょ』


 いや、見てわからないから訊いたんだけど、と僕は苦笑した。


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