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侍に誘われて  作者: ゆず
第二章~美少女の悩み~
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十六話『美少女は絡まれる』


 四限目が終わると、大洞さんが「お鶴さんがね」と携帯電話に視線を落とす。


「部室に来て欲しいって」

「お鶴さんが? 何だろう」

「特に用事はないみたいだけど、多分、いつものあれじゃない?」


 僕は「ああ」と納得する。確か、今日がその日と言っていたような気がする。


「じゃあ行こうか。今日はもう、講義ないし」

「耕作さんはどうする?」


 僕は「いいんじゃない?」と肩を竦める。


「どっか行っちゃったみたいだし」


 田畑さんは講義が終わると、僕たちの姿に気付くことなく、教授と共に教室を出て行ってしまった。大洞さんは「そうだね」と苦笑すると、リュックサックを手に持った。


 その時、数人の男子学生が、僕たちの元へと近付いてきた。いや、正確には、大洞さんの元にだ。


 その中の一人、襟足を金髪に染めてピアスをした学生が机に腰かけ、「ねえ」と大洞さんを見下ろす。


「キミ、今日の夜ってさ、暇だったりしない?」


 大洞さんは笑みを浮かべながら、「すみません」と謝る。しかし、襟足金髪は話を全く聞いていないのか日本語が理解出来ていないのか、続ける。


「ちょっとさ、五限目が終わったらカラオケでも行こうかって話をしているんだけど、よかったら一緒に行かない?」

「ごめんなさい。わたし、用事があるので」

「用事って、どんな用事?」

「ちょっと、同好会で……」


 襟足金髪は、尻を左右に捻じり、身体を大洞さんへと近付ける。


「それって、何時に終わるの?」

「すみません。わからないです」

「じゃあ、連絡先だけ教えてよ。終わった時に連絡くれれば、迎えに行くからさ」


 襟足金髪はポケットから携帯電話を取り出すと、大洞さんの前に差し出した。その時、僕の身体に金髪襟足の腕が当たり、襟足金髪は鬱陶しそうな表情を僕へと向けた。僕は反射的に、「ごめんなさい」と謝ってしまう。


 大洞さんは苦笑を浮かべたまま、「そういうのは、ごめんなさい」と断る。しかし、それでもまだ襟足金髪は引き下がらず、「あのさ」と人差し指に襟足を巻きつける。


「キミ、彼氏っているの?」


 大洞さんは「いないですけど」と視線を泳がせる。嘘でもいると言えばいいのに、と僕は思ったが、大洞さんは馬鹿正直なところがあるので、そういう発想に至らないのだろう。そしてやはり、襟足金髪は「おっ」と嬉々とした面持ちになる。


「じゃあ何の問題もないじゃん。……まあ、いても俺としては燃えるだけなんだけどね」


 襟足金髪がそう言うと、取り巻きの男子学生たちが「おいおいー」と冷やかしの声を出す。僕は馬鹿らしいな、と思いながら大洞さんに視線を向ける。大洞さんはまだ引きつってはいるものの、笑みを浮かべていた。


 襟足金髪は指先でトントンと机を叩きながら、しつこく大洞さんに絡む。


「勿論、金は俺たちが持つよ。変なことはしないって。本当に。ちょっと遊ぶのに付き合ってくれるだけでいいからさ」


 大洞さんは「いえ」と首を振る。キリがないな、と僕が思い始めたその時、絡んできていた学生たちのうちの一人が、「あっ」と短い声を出す。


「そういえば、次の授業、経済学部の教室でやるとか言ってなかったっけ? ほら、プロジェクターの調子が悪いとかで」

「え? そんなん言ってた?」

「言ってたって。ほら、前の授業の最後に。……ってか、経済学部の教室って、七とか八号館だろ。ここから結構遠いぜ」

「じゃあ早く行かないと、遅刻したら出席点、半分にされるんじゃね?」


 学生たちは「やべー」と慌てて、教室を出て行く。襟足金髪は小さく舌打ちをすると、大洞さんに向かって指を差す。


「じゃ、また今度、誘うから。そん時は空気読もうな」


 襟足金髪はポケットに手を突っ込み、身体を左右に揺らしながら教室を出て行った。大洞さんの顔から、笑みが引いていく。


 僕は立ち上がり、鞄を肩にかけた。


「ああいう人たち、この大学にもいるんだね。なんか、意外だった」


 大洞さんは「……そうだね」と浮かない顔で席を立つ。やはりあんな絡まれ方をすると、慣れている大洞さんでも、不快な気分になるらしい。


 僕は「じゃあ、行こうか」と教室の出入り口へと向かった。


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