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私の人生は素晴らしい!  作者: 花籠りん
幼少期編
3/4

03 大脱走大計画

前回投稿より大分間が空きました。ご容赦ください。

予定よりも長くなりそうだったので、二つに分けることにしたため今回は短めです。

この続きは近々必ず投稿します!

乾燥して水分が抜けきった葉の部分だけを集めて、薬研で砕く。

ごりごりごりごり。

ある程度の小ささまで砕けたら、今度が石臼でさらに砕く。

ごりごりごりごり。

末になって出てきたものを集めて、瓶に詰める。そしてその瓶がいっぱいになるまで、また葉を砕く。

ごりごりごりごり。ごりごりごりごり。


朝から晩までひたすらにこの作業を続ける。


「…………っ」


すると昼過ぎくらいに必ず、ふと我に返る時間がある。


やってられっか、と。


単純作業を一日中やらされて、報酬もなく、むしろまともな食事さえ与えられない。

いくらダーヒムだからって、社員に対する扱いが酷すぎる。

前世にもここまでブラックな企業はないでしょ。

本当にマジで回を重ねるごとに悪運が強まる私の転生人生って何なの。

……退屈だ。

退屈は人を殺すって言葉、マジだったわぁ。

ああもう、退屈すぎて精神崩壊しそう。昼寝したいくらい暇だけど空腹で眠気もこないし。

うぁー、退屈……。


「あー、今すぐどっかで爆発でも起きないかなぁ……」

「おまえ、言うに事欠いてそんな物騒なこと言うなよ」


薄っぺらの、かろうじて布と呼べる代物にくるまれたドンを見下ろして、ふっと笑う。

するとドンの顔が分かりやすく歪んだ。


「てめえ、今完全にバカにしただろ」

「勘違いじゃない?」

「ほんっとに可愛げのない女だな」

「ドンに可愛いと思われて何か私に利益がある? 

私に愛想振りまいてもらえるほどの男だと思ってるわけ? 勘違いもここまでくれば立派な才能だね」


「決めた。後でぜってぇ、ぶん殴るからな。首洗って待ってろよ」

「ははは! 熱で動けないくせに口だけはよく回るんだね。

そういうことは熱を下げてから言ってくれる?」


ひとしきりドンを弄って、とりあえずの留飲は下げる。

年下の、しかも女相手に言い負かされて悔しそうに顔をゆがめるドンを見て、内心でほくそ笑む。

あー、かわいい。そんなにムキになっちゃって、素直だなあ。かーわい。


転生を繰り返してきた所為というかお陰というか、私の精神年齢はダーヒムの中ではぶっちぎってナンバーワンである。

なんというかほかの比較対象がひよっこ過ぎて、気にもならない。

だって今はこんな十歳のピチピチの少女だけど、中身は四百歳越えのババアだから! 

世のババアに失礼なくらい、年季の入ったババアだから!


こんな少女の成りをして、中身は完全無欠のババアとか、なにその悲惨な現実。

自分のことじゃなかったら、受け入れられない悲しい問題だよ。

誰得だっつーの。


しかも四百年生きてても、現状今はダーヒム。

この世界のぶっちぎりナンバーワンの底辺だ。

底辺から成りあがってやる! なんていう情熱をババアに求めないでください。

底辺も底辺なりに底辺らしい幸せが底辺に転がっている。てこともあるかもしれないし。


「おい。ぼさっとしてないで仕事しろよ」


寝転んだまま、ドンが私の足を蹴ってくる。


どつきまわすぞこの餓鬼。今必死に現実逃避してんだよ。

年齢に悩むナイーブな女性の心情をくみ取れ。


睨み返せば、ドンはびくりと震えて無言で背を向けた。


四百年の歴史(私)に勝てると思うな。


石壁にもたれかかって、溜息をつく。

さっさとこんなクソみたいな場所出ていって、今度こそ老衰したいのに。

今のままじゃ良くて衰弱死、悪くて餓死だ。餓死はやだなー。めっちゃくっちゃに苦しいらしいよ。


同様に餓死の可能性を背負っている、いわば運命共同体であるこの部屋に押し込まれた子供たちを眺める。

みんな骨にかろうじて肉がついているような体形で、人によればおなかだけが不自然に出ている。

典型的な栄養失調の症状。

ここにいるのは皆、親に売られたり孤児で行き場がなく奴隷商に拉致されたりといった、似たり寄ったりの不運な過去を持つ子供ばかりだ。


碌な食事も与えられず、学もないためにまともな買い手もつかない。

その果てにたどり着いたのがこの部屋で、違法薬物の生産をさせられている。

きっと彼らは何のために葉や茎を砕いているのかも、己が作っているのが何なのかも知らない。


可哀想だと、思う。まあ、可哀想だと思うだけで実際に私ができることはほとんど何もない。

せいぜい、ばれないように倉庫から食料をちょろまかす方法を教えるくらいだ。


自分の小さくて柔い掌を見つめる。何の力も持たない、無力なダーヒムの手のひらだった。


「ねえねえ、ドン」

「……んだよ」

「さすがに爆発は無理だけどさ、火事くらいは起こせると思うんだよね」

「まだその物騒でぶっ飛んだ妄想は続いてんのかよ」

「燃料はランプ用のオイルがあるし、それ以外でもこの葉っぱたち、よく燃えそうだよね」

「……おいおいおいおい。冗談だよな?」


背中を向けていたドンが寝返りを打って、ひきつった顔を向けてきた。

私は満面笑みをドンに返す。


「外から人が入れないくらい入り口付近で火を焚けば、逃げれる時間くらい作れると思わない?」


何度か口をパクパクと開閉したドンは、結局何も言葉が出なかったのか深い、本当に深い、五拍くらいの溜息を吐いた。



「お前さ……、本気?」

「脱走の計画を立ててみない?」



ちょっと休憩しない? 

そんな当たり前のことのように、目の前の少女は言ってのけた。

そこの知れない恐怖に似た何かを感じながらも、ドンは諦めの念を抱いて少女に続きを求めた。



気まぐれに更新してまいります!

気長にお待ちください。

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