表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏色DAYS  作者: 玲夢音
5/5

第五章 恋のライバル

「やべー、宿題終わんねえよ!!」

堂本君のこの台詞から、今日も雑用委員の仕事が始まる。

「サボってるからだめなんだよ、太一は。あたしもう全部終わったよ〜」

そか。菜月は小学校のときから宿題を7月以内に終わらせると決めているらしい。すごいなー、なんて思ったけど、でも私には絶対無理だ。

「・・・・るさいなぁ、だったら手伝えよ」

「ダメに決まってんじゃん。宿題は自分でやるもんですよーだっ」

「チッ、まあ自分でやるしかねえか。・・・・・てか真琴が宿題終わってないなんて、なんか意外だな」

雑用委員の集まりにまで宿題を持ち込むってことは、そうとうヤバイらしい。みんなも口を揃えて「ほんと意外」と不思議そうにその光景を見つめていた。

「俺もいろいろ忙しいんだよな」

とキザっぽくいう桜井を“真面目”と決め付けるのは、どうやら間違いのようだ。


「仕方ないな、今日はみんなで勉強するか」

と言ったのはもちろん堂本君。

「えっ、でも今日の仕事は? まだ文化祭のスケジュール、全然立ててないよ」

「んなもん、『出来ませんでした』って言えばいいんだよ。どうせ今日はミムちゃんもいないしさ。帰っちゃおうぜ」

ミムちゃんっていうのは雑用委員・・・じゃなくて総務委員担当の女の先生だ。本名は三村友香(みむらゆうか)で、普段は英語科担当の先生。完璧なスタイルと学歴の持ち主で、赤いメガネは男子生徒や男性教師から好評。・・・・・らしいけど、あの赤メガネは伊達だっていう噂もある。


「あんた三村先生のこと好きなくせに、そんなことしていいの?」

・・・・・えっ?

菜月の言葉に、思わず肩がビクッとなる。

「ち、(ちげ)えよ!」

「照れなくてもいいよ、太一が三村先生目的で雑用委員になったの知ってるんだから。先生悲しむと思うな。ただでさえ英語出来ないあんたが、雑用委員の仕事サボったりしたら、もう失望だね。『堂本君、ひどいわ・・・・・』なーんて」

「菜月、冗談もいい加減にしろよ!!」

冗談? 堂本君はそう言ったけど、彼の頬の赤らみを見て、素直に冗談なんて思えない。

堂本君は、三村先生のことが好きだったの?

三村先生目的で雑用委員?

嘘でしょ? ・・・・・嘘だよね?

まともに立っていられなくなった。“あんた三村先生のこと好きなくせに、そんなことしていいの?”菜月の言葉が、胸にささる。

どうしたらいいか分からなくなって、私は思わず教室を飛び出した。

「明波!!」

灯の声も聞かなかったことにして、猛スピードで走り続ける。上靴のまま校舎を飛び出したけど、そんなことどうだっていい。


みんな、・・・・・バッカみたい。



気がつくと、学校から1km近く離れた公園に来ていた。こんなにも遠い距離を一気に走ったと思うと、自分でも驚く。

荒い呼吸を整えながら、傍のベンチに腰掛ける。小ぢんまりとしている上に誰もいないから、何だか寂しい。


みんな、バッカみたい。さっきまでそう思っていた自分が情けない。

大体、堂本君が誰を好きになろうと、私が口出しすることじゃないんだ。いくら私が堂本君のことを好きであれ・・・・・そう。初めから、覚悟しておかなくちゃダメだったんだよ。相手の気持ちを考えないで、ただ『好き』なんて言ったって、そんなの、ダメなんだ。

・・・・・分かってる。分かってるよ。

だけどやっぱり、堂本君が三村先生を好きになるなんてショックだった。

そりゃあもう中学生だし、綺麗で頭のいい先生を好きになることも不自然じゃない。

でもやっぱり・・・・・悲しいよ。悔しいよ。

こらえていた涙が、どっと溢れる。溢れ出した涙は止まらずに、次から次へと流れ落ちていく。

「あーきはっ」

後ろで声がした。振り返ると、灯が満面の笑顔で小さく手を振っている。


「もー、明波ったら走んの速すぎ。死ぬかと思っちゃったよ」

汗だくで荒い息をしたまま、灯は私の隣に腰掛けた。わざと明るく振舞おうとしているのは、私にも分かった。

「灯、無理しなくていいよ」

「え?」

「私のことは、気にしなくていいから」

「・・・・・うん」

私の最も苦手とする雰囲気、“沈黙状態”というやつが静かな公園を余計に静かにする。“静か”を通り過ぎて、“無音”って感じだ。

しばらくして、灯が口を開いた。

「明波、あたしさ」

「うん」

「堂本君、明波のことが好きだと思ってた」

そんなこと、あるわけない。でも、そうだったらどんなに幸せだろう。

「だから、今までずっと黙ってたんだけど」

灯はそこで言葉を切り、すぐに続けた。

「あたし、堂本君が好き」

・・・・・えっ?

「嘘・・・・・」

菜月なら、『なーんてね』ってごまかすかもしれない。でも、灯はそうはいかない。

・・・・・本気だ、灯は。

話が急展開すぎて、信じられないけれど。

「正直ね、明波と堂本君が両想いなら、しょうがないって思ってた。でもそうじゃないなら、これからは」

「・・・・・これからは?」

「あたしと明波は、ライバル同士ってことで」

いつもの灯じゃなかった。いつも菜月の後ろにいるような、どっちかっていうと大人しめの、いつもの日向灯ではなかった。

「あたし、負けないから」


負けないから、まけないから、マケナイカラ・・・・・

それって・・・・・

“恋の勝負”ってこと?


「でも、堂本君は三村先生が好きなわけだし」

私の弱々しい反論も、今の灯には通用しない。

「そんなこと、関係ないよ。私は、堂本君を振り向かせてみせる!」

―――振り向かせる。

私にも、出来るだろうか。

「・・・・・降参する気?」

堂本君が、好き。

好きだから、もっと一緒にいたいから。だから・・・・・

「負けないよ、私も」

私のその言葉を聞いた灯は、満足そうに笑った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ