第82話 時速100キロ以上の落下バトル
カタカタカタカタ・・・
それは小さな揺れから始まった。
「えっ?地震?」
小さな家の中で編み物をしていた女性が口にしたと同時にとてつもない縦揺れが世界を襲った!
あちこちに地割れが起こりその世界に住む住人達はただ恐怖に震えるしかない。
民家は軒並み崩れ、誰もが世界の終わりを予感した・・・
「なんて・・・ことだ・・・」
王都に居たクリフはその光景に絶望を覚えていた。
あの栄えた町並みが倒壊し惨劇がそこに広がっていた。
そこで一体どれ程の人が死んだのか分からない。
「ピコハンさん・・・」
アイもまたピコハンの村で空を見詰めながら呟く・・・
崩れた家の中で運よく生き埋めになりつつも生存していた彼女は、崩れた家の隙間から見える空の向こうにピコハンが居るのを感じ取っていた。
気のせいかもしれない、だがその感覚が彼女の意識を保っていたのもまた事実。
世界を襲ったその揺れの現況となった玄武の外、ゴンザレス太郎が引き起こした爆発を一身に受け止めたマリスは小さく笑いながら小さく口にする。
「いきなり核融合とか・・・やりすぎなんだよ・・・馬鹿・・・」
そのまま制限時間が来てマリスは姿を消す。
丁度マリスの居た方向だけが爆発を免れていた。
爆発によって落下していく様々な物からマリスは2人を守ったのだ。
だがそれはゴンザレス太郎に印を与える事にも繋がっているのであった・・・
人の落下速度は空気抵抗により時速200キロくらいが限界と言われている。
勿論落下している最中のピコハンと酒呑童子はその速度に到達していないがその落下速度はどんどん上昇していた。
このまま行けば地面に激突すると共に怪我では済まない、それを直感的に二人共理解していた。
「ぐっ!」
ピコハンは空中で体を丸め体勢を変えて風の抵抗を利用して自身を粗垂直の壁に近づける。
そして、両足をそこに着いてブレーキをかけ始めた。
それを見た酒呑童子も同じように体を動かして落下速度を落とす為に壁に足を着ける。
風の加護により落下中も自由に体を動かせる事に感謝しつつもこの後の事を考えようとした時であった!
2人の両足から壁を削る砂煙が上がる!
その砂煙に人影が浮かんだのだ!
そう、ゴンザレス太郎も2人を追い掛けて飛び降りてきたのだ!
「マジかよこいつ?!」
酒呑童子の言葉にピコハンは両手に力を込める。
あの爆発を引き起こしたにも関わらず一切怪我らしいモノが見えないゴンザレス太郎は直ぐに2人に追いついて同じ様に両足を壁に着ける。
天を見上げる形で背中から落下しながら足でブレーキをかけるピコハンと酒呑童子、その2人を見下ろすように地面を向きながら両足を着いているゴンザレス太郎。
その距離が徐々に近付き、やがて1メートル程の距離となったと同時に3人は動いた!
時速100キロ近い速度で落下しながらと言うのが幸いしたのであろう、ゴンザレス太郎は魔法を使わず殴りかかってきた!
それを飛び上がる要領で壁を蹴って離れて回避する酒呑童子。
その様子を眺めていたゴンザレス太郎の腹部にピコハンの蹴りが突き刺さる!
だがその蹴りはしっかりと腕でガードされており舌打ちをしながらもピコハンはその反動を利用して距離を取る!
そのピコハンを追いかけるようにゴンザレス太郎は水力の壁を落下しながら駆け下りてきた!
「げっ?!」
壁から足が少し離れたピコハンは勿論身動きが取れない状態でゴンザレス太郎に追いつかれる事となった。
背中から落下しながら浮いているピコハンを更に追いかけながら殴るゴンザレス太郎。
何度も殴られ続けるピコハンは勿論その度に落下している速度が上がっていく。
だがそれもお構い無しに走って追い掛けるゴンザレス太郎の攻撃は止まない!
「いい加減にしろ!」
ピコハンだけを集中していたゴンザレス太郎の後頭部に酒呑童子の蹴りが叩き込まれた!
2人はゴンザレス太郎を挟み込むような状況を上手く作り出したのだ。
魔法が使えない状況で挟み込む形で攻めれば何とかなるかもしれない。
それが2人の出した結論だったのだが状況は刻一刻と変化している物である。
「おい小僧!気をつけろ!」
酒呑童子の叫びが上がる!
だが時速約100キロで落下している最中のピコハンにはそれはいつもよりも遅く届いた。
音速と言うのは時速1225キロと言われている、時速100キロで発生場所と到達場所が離れているのであればそこには勿論タイムラグが生じる。
千載一遇のチャンスとも言える状況であったがそれを妨害したのは自然であった。
「えっうわっ?!」
声が聞こえると同時にピコハンの真横を木が通過していった。
そこまでは岩肌のみの崖であったその壁からそこから木が生えていたのだ!
見上げていた体勢から木にぶつからないように身を捻り壁に足を着いて回避に専念し始めたピコハン。
同じく木を避けつつもゴンザレス太郎を中心に挟み込む状況は変えない様に行動する酒呑童子。
だがそんな2人をあざ笑うかのようにゴンザレス太郎は小さく何かを口走った。
「・・・・・・」
その言葉は2人には聞こえなかったが確かにゴンザレス太郎はそれを口走ったのだ。
次の瞬間、間に挟みこむ形で位置していたゴンザレス太郎の体に紫の光が見えたと思ったらその姿を消した!
いや、正確には壁を走って移動したのが二人の目では見えなかったのだ。
一度横に抜け出し酒呑童子の上側へ異常な速度で移動したゴンザレス太郎は酒呑童子の横腹に強烈な一撃を決める!
「ぐごぼはぁ?!」
予期せぬ方向から決められた一撃に空中に再び浮いてしまう酒呑童子。
その酒呑童子の顔面を鷲掴みにしてゴンザレス太郎はピコハンの方へ一気に移動しその顔を鷲掴みにする!
その速度も人の限界落下速度を大きく上回る速度でピコハンの視界は一瞬でゴンザレス太郎の手によって閉ざされた。
その時、ゴンザレス太郎が壁を走り降りている速度は時速300キロを超えていた。
その速度で顔面を鷲掴みにされながら2人は生えている木に次々と叩きつけられる!
次々と2人の後頭部と背中で粉砕していく木々。
いくら2人に風の加護がついており落下の際に生じる風で常時回復しているとはいえそのダメージは深刻な物となりつつあった。
そして、酒呑童子の後頭部が飛び出していた岩に叩きつけられた時であった!
木以上に硬かったせいでゴンザレス太郎の腕が引っ張られたのだ。
そのバランスを崩した一瞬、ピコハンの足がゴンザレス太郎の腕に巻きつく!
そのまま腕の関節を決めようとしたのであろう、それを嫌ったゴンザレス太郎はその腕を振り払った!
顔面の鷲掴みから開放されたピコハンは落下しながら生えている木々を三角飛びするような形でゴンザレス太郎から距離を取る。
それを逃げられると感じたのかゴンザレス太郎もまた壁に足を着いて落下速度を落とそうとするのだが・・・
「余所見してんじゃねーよ!」
酒呑童子の蹴りがゴンザレス太郎の顔面を捉えた!
それでも鷲掴みされた顔面は離されずそのまま壁に酒呑童子の頭部を押し付ける!
「があああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
それをブレーキ代わりにするように壁を削り続ける酒呑童子から叫び声が上がる!
だがその直ぐ横に今度はゴンザレス太郎の顔面が押し付けられて壁を抉っていく!
ピコハンがゴンザレス太郎の意識が酒呑童子に向いたと同時に飛び降りてきてその顔面を壁に押し付けたのだ!
ガガガガガガガガガガガガガ!!!!と壁を削りながら落下している3人に遂に終わりの時がやって来た。
ピコハンが間一髪酒呑童子からゴンザレス太郎の手が離れたと同時に3人は地面に激突する!
ピコハンはゴンザレス太郎の頭部を両手で押さえ、酒呑童子はゴンザレス太郎の腕関節を決めたまま地面をゴンザレス太郎の頭部で叩き割り更にその下へ落下していく!
「おい小僧!」
「あぁ!」
ゴンザレス太郎の頭部で割れた地面の下には巨大な空洞が在りそこへ飛び込んだと同時に二人はゴンザレス太郎の体を蹴り飛ばして離れた!
地面を突き破る時にかなり減速したのか普通の落下速度になった2人は互いに岩の上へ落ちる。
そして、ゴンザレス太郎の真下は更に深く、その底には流れる溶岩。
そこへ真っ逆さまへ落ちていくゴンザレス太郎。
「勝ったか?!」
頭から大量の血を流しながら酒呑童子がそれを眺め口にしたのだがその口は閉じなかった。
地面を割った時にゴンザレス太郎も減速しておりその時の落下速度はピコハンと酒呑童子が楽に着地できるくらい落ちていたのだ。
即ち・・・
ゴンザレス太郎が放った魔法が流れる溶岩を一瞬で凍らせ灼熱の空間は氷結の洞窟と変化した。
一瞬にして別世界となったその空間に流石のピコハンも口に出して述べる・・・
「こんなの・・・どうしろって言うんだよ・・・」




